いつの時代でも、人間関係は悩みの種です。特に春は入社や異動、進学の時期。職場で先輩や後輩とうまく関係を築けるのか、学校で友達を作れるのかと、新たな人間関係を構築しなくてはならないと憂鬱に感じている人も多いはず。また、このタイミングを機に新しい自分で「デビュー」したいと考えている方もいるかもしれません。しかし、どうコミュニケーションをすればいいのか、考えるほどに悩みは増すばかりです。

DSC09885
Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

ライフハッカー[日本版]で「書評」を連載されている印南敦史さんは、ライターとして数多くの人の取材やラジオパーソナリティーとして活躍しており、人と話すことが大好きだといいます。そんな今の姿からは信じられませんが、実は「元コミュ障」だそう。自分の経験をもとにたどりついたコミュニケーションの方法をまとめた書籍、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』を出版されています。

そこで、自身も「コミュ障」であると自覚のあるライフハッカー[日本版]編集者、今井が新生活にも役立つコミュニケーション術を学ぶべく、印南さんにお話をお聞きしました。

自己紹介の失敗は当たり前。上手くやる期待なんてされてない

今井:仕事にしろプライベートにしろ、新しい人と出会ったときに必須なのが自己紹介です。自分にとって「自己紹介」って聞いただけでウッとなる「トラウマワード」ですし、いつも終わった後に後悔します。上手くやるための対策はないのでしょうか。

_DSC9644_2
Photo: 開發祐介

印南:そもそも「対策をとろう」と思うのが間違いだと思います。そうやって気負わないほうがいいと思うんですよね。失敗は当然と思ったほうが結果的にはうまくいくというか。うまくやろうと気を張ると、どんどんどつぼにはまっちゃうだけですから。いきなり自己紹介から入らず、無難な雑談を話のきっかけにするのは良いと思います。共通の趣味があるなんて最たるもので、共感を得ると一気に相手との距離は縮まるもの。よく言われることですが、まずは天気の話題など、誰もが共感できる話題からスタートするといいのではないでしょうか。

今井:1対1だけでなく、入社したときや異動先で大勢の前で自己紹介するときはどうでしょうか。

印南:基本的には同じですが、少なくともいいことを言おうとか完璧にやろうとすると、多くの場合は失敗します。そもそも初対面の人とは距離があるので、それほど期待はされていないはず。「この人、きっといいこと言うんだろうな」なんて思われてないのが普通なので、気負わないほうがいい。作り込んでもぼろが出るだけです。

今井:作り込んで失敗したこと、ありますね…。前職がゲーム業界だったので、入社時の自己紹介で「パーティの一員として皆さんの力になり、自身もレベルアップできるよう頑張りたい」とか言ってしまい、周りの空気がシーンとしました…。

印南:それは一番痛いやつですね! やらかしたって感じだったでしょう? でも、僕も20代の頃に勤めた会社で最初のあいさつのとき、「とにかくでかい声で話さなきゃ」と意気込んで、必要以上に大きすぎる声で話した結果、場がシーンとしてしまったことがありますよ。当時は緊張のあまり、やらかしたことにすら気づいてなくて。後から、「もしかして“やってしまった”のでは?」と感じました。

今井:しかも緊張するほど、喋らなきゃってなりますよね。

印南:そうそう。緊張している人ほど、すごい情報量で喋るし、速度も速くなってしまうものです。そういえば、初めて編集部で会ったときの今井さんの印象は強烈でしたね。目を合わせないし、すごいスピード感で良く喋るし、「ちょっとめんどくさい人なのかな?」と思いました(笑)。でも、2回目に1対1で会って話したときは全然違って、「あれ、普通に話しやすい人じゃん」と。

今井:ああ…「コミュ障」あるあるですよね…。しかも、話を聞いてくれる人には調子に乗って要らないことまで話して、後で後悔します。

印南:出し惜しみをした方がいいですよ。「ミステリアス」くらいの方が人は興味をもってくれるものです。全部説明しなくても気になることがあれば相手から質問してきますし、話を聞いてくれる人は、次に会ったときも聞いてくれるから。でも、僕も何でこんなに早口になるんだろうと自分で思うくらい、取材だけでなくラジオのパーソナリティをやっているときでも実感することがありますよ。早口で喋ったあげく、呂律が回らなくなってしまったり。先日、とうとう台本に「※注:ゆっくり、丁寧に喋ってください」と書かれてしまいました(笑)。

今井:印南さんほどご経験のある方でも、焦って速くなっちゃうものなんですね。

印南:ありますよ。いかにゆっくり話すかが、僕の今の目標です。

自分を「受け入れる」ことから始まる

今井:緊張の要因は、自分がどう見られているかとか、人の目が気になりすぎるというのが大きいと思います。緊張しないコツとか、人の目を気にしないコツってあるんでしょうか。

印南:開き直るのが一番ですね。そして、緊張している自分自身を客観視して、受け入れるということです。自分側で人の目はコントロールできるものじゃないから、まず緊張している自分を認めようということ。おそらくそこが、次に何をすべきかのスタートラインにもなります。 でも、人からどう見られるかと思っている時点で、まだ余裕があるんじゃないでしょうか。

今井:『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』の中でも、「受け入れる」こと、一歩退いて自分を客観視して考えるということが印象に残っています。やはり根底はそこなのでしょうね。緊張などが原因で喋りすぎて後悔するときのマインドリセットのやり方も同じと考えていいのでしょうか。

印南:そうですね、緊張はもちろん、言いすぎてしまったと後悔するときにしろ、コミュニケーションの弊害になるコンプレックスにしろ、まずは受け入れるところから始まると思います。相手の感じたことをなかったことにはできないし、時はどうやっても戻らないので、「やってしまった自分を後悔する」のではなく、どうするのかという考え方にシフトするべきだという考え方です。

今井:相手側はどうにもできないですもんね…。それならば、緊張だとか考え方とか、自分自身でどうにかなりそうな部分だけに集中した方がいいと。

印南:そう、まずは受け入れる。大事なのは、「受け入れたうえで、そこからどこに行くか」ということです。もちろん、人からどう思われるかを気にすることで良くなるのであれば、いくらでもそうすべきです。でも、そんなことはあり得ませんよね。それどころか、どんどん気持ちは下に向かっていくはず。ただね、下がったとしたら、下がった分をバネのような原動力として、その分ポンと上がることもできるんじゃないかと思うんですよ。これも「開き直った発想」といえるかもしれませんが。いずれにしても、「開き直る」という言葉は悪く聞こえるかもしれないけど、「認めて、さて、次はどうするか」という発想で捉えればいいと思います。

今井:失敗してどうするか考えたとき、「言いすぎて申し訳ありません」「誤解しないでください」と、メールやSNSでフォローを入れることはありますね。

印南:それで十分ですよ。逆に言えばその程度でよくて、それ以上は何をしようとか必要ないと思います。それに、自分が思っているほど、人は全然気にしてないものです。新入社員だと必要以上に声とか話し方とかを気にするかもしれませんが、おそらく90%以上は考えすぎだと思います。

今井:確かに、おそらく意外と周りは覚えてないものですよね。新入社員の自己紹介、誰が何を話したかなんてさっぱり覚えてないですもん。

印南:そうそう。そんな風に、もし自分が相手の立場だったらどう思うのかと考えるのは大事だと思うな。わりと気が楽になると思います。

素直に話すことが大事

new_com_imai_l
Photo: 開發祐介

今井:初対面よりも、すでに面識のある人とのコミュニケーションの取り方がわからなくなることがあります。こんなことを話していいのだろうか、どうイメージを打破すればいいのかと。

印南:素直に話すことが大事だと思います。相手がどう思うかじゃなくて、自分の心に正直に話すのが一番だということ。じゃないと、伝わらないじゃないですか。相手の考えを変えようというのはおこがましいし、人は相手の言葉によって、それほど簡単に変われるものではないはずです。人の心が動くのは、相手が本音で話していると思ったときで、それは好感につながるものです。そして、好感を持っている相手の言葉はどんどん入ってくるものでもあります。また、もしも話していて、カッコ悪い言葉や上手くない表現になったとしても、それも自分として認めてしまえばいいんじゃないですかね。考え方を変えてみてほしいのですが、仮に10割中8割を失敗したとしたら、「残りの2割は失敗しなかった」ということにもなるはずですよね。だからこそ、その2割が伝われば、それは成功だと考えるべきだと思うんです。策略めいたことをやる必要はないというか。

今井:大勢の前で話すときも同じでしょうか。

印南:プレゼンも1対1のトークも同じだと思います。プレゼンに関してはHow to本がたくさん出ていますが、相手が聞きたいのはHow to本からの引用ではなく、その人の「言葉」であるはず。どこかで聞いたことがあるようなメソッドと同じことを話されても、心に響かないわけです。話し方は下手でも、言っていることにオリジナリティがある方が面白いし、共感もできるもの。要は、生の自分をどれだけ表現できるかです。それを阻害するものがあるとすれば、いいことを言おうとか、格好つけようという気持ちなのではないでしょうか。

今井:厚化粧しちゃう部分ですね。いいことを言おうとか恰好つけようと思うと、さらに緊張してしまう。

印南:そう、それに、素直になるということは緊張しないことにもつながっていくはずなんです。だいいち、厚化粧はやっぱりはがれるものですしね。人ってそんなに馬鹿じゃないから、隠していてもちゃんと見抜いてくるもの。逆に隠さずに素直でいれば、本音で話していることなので理解してもらえると思いますよ。

苦手な人、会話ができないときの対策法

今井:人の考えを打ち負かそうと思わないこと、本当に伝えたいことは、なぜそう思うのかを素直に自分の言葉で言うこと。そうすれば、上手でなくても相手から聞いてもらえる…。職場でどうしても話しにくい人に対しても使えそうですね。

印南:そうですね。とはいえ、ちょっと難しい場合もありますよね。たとえば、「理詰め」でくる人に言い負かされてしまうようなときとか。

今井:自分が正しいという自信があって、教えてあげようという親切心からなのはわかるんですが、こちらの意見も少し聞いて欲しいですよね。そういう人にはどうされてるんですか。

印南:付き合いづらいと思う人には、自分の方が正しいと思って反論したくなってもぐっと我慢して、まず聞くこと。一度受け入れてから「そうですね、でもわからないですよ」と言うのがいいと考えています。そういう流れにすれば、相手の勢いが和らぎますから。で、そうしたうえで「つまり、これはこういうことなんですか?」と自分の意見を言うといいと思います。

今井:職場の先輩とか年上の人相手だと、そういうケースって多そうですね。相手の方が知識も経験もあるから、たじたじとしてしまいがちですが、やってみようと思います。

印南:でも、もっといいのは相手に関心をもって質問してみることですね。まずは話を聞いて、純粋に疑問に思ったことを素直に聞いてみるということ。もちろん好意的にね。たとえば、相手が「~なんだよね」と言ってきたら、「なぜ~なんですか?」と聞いてみると、どんどん話がつながっていって、会話のキャッチボールができるようになるわけです。それに話をしている中で、相手の聞いて欲しくないことや、逆にもっと聞いてほしいこともわかってくるから、聞いてほしいと思っている方にシフトしていけば、どんどん話が盛り上がっていきますよ。

今井:なかなか会話が続かなくて困るというときに役立ちそうですね。

印南:疑問点は聞かなければ絶対解決しないから、聞くってすごく大事なことです。それに、聞くって、相手に対して興味をもっているという意思表示だとも言えますよね。人は「自分に関心を持ってもらえている」と感じると、その相手にいい印象を持つものです。そこで、好循環が生まれるわけです。これが、「会話のキャッチボール」ですね。ちなみに自分の言いたいことをうまく言えなかったとしても、心配はいりません。聞く姿勢をもてば好感をもってもらえるし、好感による興味から、「君はこうなの?」と話をふってもらえる場合も少なくないからです。

今井:「上手く会話を続けなければ」、と気負わなくていいということですね。

印南:そうですね。ただ現実的に、「どうしても苦手」と思ってしまう人もいるものですよね。そういう場合は、相手に対して色々と好意的な想像をするといいですよ。以前、「とにかく俺の言うことを聞け」というタイプの年配の方と話しているとき、最初はいけ好かないなあと思ったんですが、「でも、この人も昔は好きになった人もいて、様々なできごとがあったのだろうな」と想像したら、急に愛おしくなってきたんです(笑)。すると、なにも口に出していないのに、向こうもだんだん好意的になってきた。理屈では割り切れない、雰囲気というか空気感のようなものが、いつの間にか伝わっていたからじゃないかと思ってるんですけど。

今井:ストーリーを作るというものですね。『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』に「アナザー・アングル・メソッド」として書かれていたのを読んで、変わった切り口で面白いなあと思いました。

印南:そうそう。「アナザー・アングル・メソッド」を実践してみれば、相手も好意的になってくれるのではないかと思います。その結果、お互いに話しやすくもなるでしょうし。でも、逆にいえば、それ以前の自分は、相手に対して無意識の悪意を発していたのかもしれません。そう捉えることで反省することもできるし、そんな思いが好意に変わると、それもまた、相手との関係にいい影響を与えるのではないかと思います。

今井:好循環が発生すると。つまり、相手に対してマイナスなことを思っていると伝わってしまうから、なるべくポジティブに見えるようにする。本当のことでない、まったくの勝手な妄想でも良いと。印南さんの場合は、相手の愛すべき人生物語ですが、これって自分のやりやすいもので何でもいいんですよね?

印南:相手を好意的にとらえることができれば、何でもいいですよ。

new_com_talking_l
Photo: 開發祐介

今井:見た目だけでなく、好きな声優の声に似ているとかでアニメキャラに変換して萌えようかな。あと、何の動物に似ているとか…。

印南:いいと思いますよ! 僕はアニメはあんまり見ないけど、考え方は同じです。特に、この春から社会人になる人は、初めて世の中に出るということで不安になって、周りはみんな敵みたいな気持ちになりがちだと思うんです。僕にも、そういう時期がありましたしね。それに相手は目上の人のほうが多いわけですから、現実問題として苦手な人に会うことの連続だと思うんです。でも、そういうときこそ、自分から壁を作らずに相手のいい所を見つけてみるといいのではないでしょうか。

今井:何だかゲームみたいで面白そうです。人に会いたくないから会社に行きたくない、という気持ちの対策になりそうですね。

印南:とはいえ、そもそも苦手だと思っていても、「実は相性が悪いわけではなかった」ということもよくある話。つまり相性の問題ではなく、単なるコミュニケーション不足が原因だったというケースも少なくないわけです。実際、過去の僕の人間トラブルの半分以上も、それが原因だったような気がします。仲が悪かったはずなのに、きっちり話してみたら意外に共感できる部分が多くて、最終的には仲良くなっちゃったりね(笑)。つまりは、分かり合う機会がなさすぎるだけなんですよ。泥臭いことを言っているかもしれないですけど。お互いに口に出そうとせず、もやもやしたものをためこんでいて、お互い自分は「コミュ障」だと思い込んでしまっていることって多いんですが、そこを自分から一歩ふみだす勇気があると、一気に世界は広がりますよ。

今井:「コミュ障」と思うことで、自身を縛り付けて呪いをかけているような…。でも、確かに意外とみんな話しかけられるのを待っているというか、思い切ってこちらから話しかけると予想以上に喋ってくる人も珍しくないですね。そこから仲良くなる人もいるし。

印南:最初から人に悪意を持っている人って、そういないですからね。さっきの「コミュニケーション不足」の話がまさにそうですが、「自分はあの人によく思われてないんじゃないか」と思い込んでしまって関わりを持たず、しかも相手も同じだから、誤解が誤解を生むということはよくある話。ありきたりかもしれないけど、「悪い人はいない」をざっくりとした前提にしておくといいと思います。

今すぐできる、人と会うときに楽になる方法

印南:そうは言っても急に考えを変えたり、色々やったりするのは大変ですよね。そこで、コミュニケーションが楽になる、気軽にできる方法をご紹介したいと思います。これを思いついたのは2011年の東日本大震災以降なんですが、震災後ってみんな多少なりとも気持ちが荒れていましたよね。僕も同じで、放っておくと否定的なことばかり考えてしまうような状態だったんです。でも正直なところ、それってめっちゃめちゃキツいんですよね。だから、なんとかしなくちゃと思ってたんですけど、そんなときにふと、「すれ違う人々の笑顔を想像してみたらどうだろう」と思いついたんです。すれ違いざまに顔をチラッとみる程度の、今後一生会うことのないような人たち。いわゆる「他人」ですね。ひとりで歩いている人はたいてい無表情ですし、中には凄くいかつい人や、嫌なやつそうに見える人もいるわけじゃないですか。でも、そういう人の笑顔を意識的に想像してみたら、みんないい顔してるわけですよ(笑)。で、勝手に想像してる僕も、気がつけばなんとなく気持ちが楽になっていたんです。そこで、それを習慣として、毎日続けることにしました。すると、荒んだ気持ちが和らいで、人と会うこともかなり楽になっていったというわけ。当たり前ですけど、むすっとしている人でも、一生ずっとそういう顔のままではないはず。そう考えて笑顔を想像してみると楽しいし、人を好意的に見られるようになるんです。決して難しいことじゃないし、これは、コミュニケーションが苦手な人にとっても重要な武器になるんじゃないかな。

今井:これ、実践的なトレーニングですね。ゲーム的な要素もあるし、しかも自分の心の中だけでできるから、今からすぐにできそう。自分自身が笑顔でいようというのは自己啓発本でよく見ますが、難しいですからね。

印南:弱っているとか、自信がないときほど人が悪人に見えてしまうものでもありますからね。そういうものだからこそ、新社会人をはじめ、新生活で新しい人間関係を作らなければならない人もこの習慣をつけると気持ちが楽になると思いますよ。

今井:人を好意的にみられるようになれば、コミュニケーションに対する苦手意識が少なくなるし、話しかけるときのハードルが下がってやりやすくなりますね。

経験をすることが大事、失敗を糧にしよう

印南:たとえば「社内で初めて会った人の笑顔を想像してみたんだけど、実際に喋ったら嫌な気持ちになった」ということもあるかもしれません。でも、せっかく想像したのに…と思うのではなく、「そういうこともあるよね」と受け入れればいいじゃないですか。そのほうが気が楽なんだから。だまされるとか、裏切られるとか、そういうことは人と付き合っていればあることだし、失敗してしまったり、遠回りになったりすることもあるとは思います。でも、それも人生の肥やしになって、後から振り返ると良い経験と思いますよ。僕自身がそう実感しています。

今井:経験をすることに価値があるんですね

印南:特に新社会人の場合、経験が決定的に足りないからコミュニケーションで失敗するというケースも多いはずです。でも、新しい出会いがたくさんあって、話をしていない人が多いという状況は、チャンスの山だと考えることもできるはず。糸口を見つけて少しずつ経験を積んでいくのは、人生にとって、とても大事なこと。あとケースバイケースですけど、僕は「だまされるかな」分かっていても、「あえて、だまされてもいいかな」と思うときもありますね。自分が素直でいるために、だまされることが必要なときもありますから。でも、自分自身が素直でいることを崩していないから、たとえだまされたとしても、それはそれで自信になる

コミュニケーションを楽しもう

new_com_book_l
Photo: 開發祐介

今井:今回は印南さんの書かれた書籍『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』をふまえて、新生活でのコミュニケーションにフォーカスしてお聞きしましたが、書籍ではより広くさまざまなシチュエーションに応用できそうなことが書かれていますよね。執筆者から見た、本の見どころについて教えてください。

印南:多かれ少なかれみんなコミュ障」ってところですね。「自分だけがコミュ障だからつらい」と思ってる人って少なくないと思うんですけど、おそらくみんな似たようなもの。むしろ、そう意識しておくのが大切だと思うんです。それに「アナザー・アングル・メソッド」。苦手な人の話でも冷静に聞いて、ひとまず苦手な部分もすべて受け止めること。そして想像力を発揮して、相手の「日常」や「若いころ」のことをイメージしてみること。もちろん、今井さんが声優や動物を例にあげていたように、好感を持てるならほかのイメージでも大丈夫。そして、これはどんなシチュエーションにも合うと思います。あとは、僕自身がコミュニケーション下手からどう変わったかという、自分自身についての話。不幸自慢は嫌だし、もっとひどい人はいっぱいいると思いますけど、「こういうめんどくさい道をたどってきたやつだって、今はこうなってるんですよ」ということを知ってもらえたらうれしいと思います 。それに、これは「自分を客観的に見て、よくないところも受け入れる」というところに繋がった話でもあります。何より、一番言いたいのは「受け入れる」ことですから。大切なのは、今の自分、だめな自分、できない自分、「コミュ障」な自分など、全て受け入れること。で、そこから上がっていく方法を考えればいいということです。さっきも話したとおり、一般的な人が立っているラインよりも自分がずっと下に立っているとするならば、その「マイナス」を糧にして、パチンコのバネみたいに、びょーんと勢いつけて上に行くことができるじゃないですか。僕はパチンコやらないけど(笑)。

_DSC9840_2
Photo: 開發祐介

今井:自分を理解してる人は誰もいない、人より劣ってる、辛い、孤独みたいなのってマイナスエネルギーがうつうつとたまってる感じですもんね。その煮詰まったものたちを燃料にして、ガッと上に飛ぶと。

印南:そうそう、それが言いたいことです。コミュニケーションが下手なのは、そのまま力になる。つまり、可能性があるということ。それを活かすための本として読んでいただければと思います。人は悲観的になりがちだけど、実は誰でも特別自分だけが不幸なわけじゃない、劣っているわけではない、じゃあどうしたらいいのか。その答えを『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』に書いたつもりです。でも、とにかく最初は受け入れるということ。そこから脱却することをゲームをクリアするみたいに面白いって思う感覚が大事なんじゃないかな。

今井:本日のアドバイスにも何度かゲームっぽいですねって言ってしまいましたけど、本当にそうですね。

印南:そうそう、「人生ゲーム」みたいな感じですよ。


Photo: 開發祐介

Source: Amazon