計測中にプロレスもできるかも?
脳ミソの活動には電気が伴い、そこから磁場が生まれます。その磁場は微弱なので、これまで計測したデータをイメージングするにあたり、超伝導量子干渉計という大掛かりな装置が使われてきました。
ですが超伝導量子干渉計は巨大で重く、被験者は静かにジっと動かないようにしている必要があるうえ、個々に合わせたサイズ調整ができずにいました。それに、脳の機能を調べたい人ほど、てんかん持ちやパーキンソン病を患っていたりと、なかなかジっとしていられない症状を抱えていたりするのです。
それらの問題に一石を投じるのが、ノッティンガム大学で研究されているウェアラブル脳磁図スキャナー。前後から頭を挟むように装着するマスクで、これだと好きなように動いてもまったく問題ナシなのです。
従来の装置は冷やすための冷却装置も内蔵していましたが、このマスク型装置は室温でも使える13本の量子センサーが使われています。それにセンサーが頭により近い位置にあるのも、正確なデータを採取できることに一役買っています。
ですが使用時には地球の磁場を5万倍まで減らす必要があり、スキャナーの周囲には特殊なコイルでその磁力を減らしているのです。
今後は子どもや赤ちゃんにも使えるようよりコンパクトに、そしてできれば自転車のヘルメット型にまで小さくしたいと考えており、それがさらに正確なデータを計測でき、脳科学の分野に貢献できればと研究チームは考えています。
もう1本、この研究をしているマシュー・ブルックスさんが詳しく説明をしてくれる、別の動画も見てみましょう。
いわく、マスクは理論上だれにでも合うよう設計されており、3Dプリンターで印刷されているとのこと。ボランティアを買って出たエレーナ・ボトさんは、「カンペキにフィットするし、着け心地は快適ですよ」とおっしゃいます。
開発でもっとも大変だったのは、地球の磁場を減らすことだったそうです。同大学のホームズさんは、その依頼を聞いて何のジョークかと思ったそうですが…たくさんの計算の末、最終的に地球が出す磁場と同量の磁場を、地球と真逆の方向に放出するコイルの開発に成功。これにより、閉鎖した空間でなくともマスクの使用が可能になりました。それだと近くで親が見守ることもできるでしょうし、閉所恐怖症の人でも安心でしょうね。
これまでは動いたら使えなかった計測器。でも動いても良いとなれば、どういう動きをすると脳ミソのどこに電気が走るのかがもっと判明してくることでしょうね。赤ちゃんでも幼児でも、てんかん発作や自閉症を抱えた子どもでも、これまでわからなかったことが見えるようになるのです。
この脳磁図スキャナーなら、今後の医療に大きく貢献してくれそうです。小型化と実用化にも期待したいですね。
Image: YouTube
Source: YouTube (1, 2), Science
(岡本玄介)