敏腕クリエイターやビジネスパーソンに学ぶ仕事術「HOW I WORK」シリーズ。今回は公益性の高い様々な種類の活動・プロジェクトに対して、資金援助を行うアルフレッドP.スローン財団のプログラムディレクター、ドロン・ウェーバーさんの仕事術です。

アルフレッドP.スローン財団は、若い科学者や学者のためのスローン研究フェローシップやサンダンス映画祭アルフレッド・P・スローン賞などのプログラムを通じて科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学、経済学の分野における独創的な研究と教育に資金援助する非営利団体です。同財団でバイスプレジデントを務めるドロン・ウェーバー( Doron Weber )さんは、プログラムディレクターとして、こうした助成金(グラント)授与対象者の多くを選定しています。今回はその選定プロセス、彼の雑然とした仕事場、光が当たらないクリエイターの支援、そして膨大な脚本を読む方法について語ってくれました。

居住地:ニューヨーク

現在の職業:アルフレッド・P・スローン財団バイスプレジデント兼プログラムディレクター

仕事の仕方を一言で言うと:学際的

現在の携帯端末:iPhone 7

現在のPC:IBM ThinkPad

── まず、略歴と現在の仕事に至るまでの経緯を教えていただけますか?

私はイスラエルのキブツで生まれ、ニューヨーク市で育ち、ロードアイランドのブラウン大学で学び、20代はヨーロッパで過ごしました。パリのソルボンヌ大学でフランス語とラテン文学を学び、ローズ奨学生としてオックスフォード大学で英文学を学び、スカイ島で1年間孤独に過ごしながら文章を書くことを学びました。その後、ニューヨークに戻ってきました。

若い頃の勉強はすべて文芸の分野でしたが、医学と科学の分野の本を2冊出版し、ノーベル賞を受賞した生物医学研究機関であるロックフェラー大学で働いて、徐々に科学とスローン財団にたどり着きました。財団での私のシグネチャープログラム「科学とテクノロジーに対する公共の理解」は、科学と芸術という「2つのカルチャー」をつなげることです。人間には外界と内面の世界を理解して有意義に描写したいという衝動があり、その衝動の1つの側面が科学でありもう1つの側面が芸術なのです。

スローン財団では、文化をテーマとしたプロダクトの発注、開発、制作、普及の支援を担当しています。具体的には、ピューリッツァー賞を受賞した、ピーボディ賞を受賞したラジオやポッドキャスト、エミー賞を受賞したテレビ番組、オスカー賞を受賞した映画、トニー賞を受賞した演劇、先駆者的な新しいメディアなど、どれも一般の人々のために科学に光を当て、人間味を出すことを模索したものばかりです。これは、私にとっては夢の仕事です。科学とテクノロジーの研究・教育の支援という財団の根幹となるミッションを果たしつつ、科学の基礎的進歩と一般的な人文主義のカルチャーを統合するという社会のニーズに取り組めるからです。

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2017トライベッカ映画祭で、『Bombshell: The Hedy Lamarr Story』のエグゼクティブプロデューサーのSusan Sarandonさん、女優兼プロデューサーのDiane Krugerさん、ディレクターのAlex Deanさん、特許担当弁護士のPatricia Rogowskiさん、UCLA准教授のDanijela Cabricさんと一緒のウェーバーさん
Image: Kathi Littwin via Lifehacker US

──最近の1日の流れを教えてください

私は、非営利団体の科学のマルチメディア会社を経営しています。そこでは、私はCEOであり各部門の責任者であり、すべての提出物に目を通して指示を書く作業もするので、実際に手を動かして大量の仕事をしています。持ち込みの提案書もこちらから募集した提案書も読みますし、検討することを約束した提案書も読みます。興味があるものに対しては、非常に綿密なメモを書き、提案者と提携して可能な限り最良の形にしていきます。最初の草案の段階でほぼ完ぺきというものもたまにはありますが、多くは、数カ月、あるいは何年もの試行錯誤を必要とします。

私が読む脚本、演劇、テレビドラマ、書籍の提案書の数は、恐らく毎年数百本に及ぶと思います。今までのところ、私は自分をフォーカスグループにしているので、自分の心の中の観客メーターを読み取って決定を下しています。場合によっては、正確性を確保するために追加リサーチをして、その分野の科学者、エンジニア、数学者に相談します。私には映画とテレビの分野で約20人のパートナーがいて、彼らがセミファイナルとして選抜したものを私に送ってきます。それから、それぞれの審査会や委員会と直接顔を合わせて、あるいは電話会議で審議します。 書籍のプログラムに関しては、私が最初の読者かつ、ふるいになり、私の嗅覚テストをパスしたものは、書籍委員会の手に渡ります。演劇のプログラムに関しては、年に何度か演劇の専門家や科学者と一緒にじっくり会議をして決定を下します。私は数多くの映画やテレビ番組を制作の諸段階でスクリーニングしますし、財団が制作を支援している演劇や脚本のリーディングにさまざまな段階で参加します。それから、多様なフェスティバルやイベントやセミナーで、財団を代表して観客に財団のミッションを説明しています。

── 「これがないと生きられない」というアプリ・ソフト・ツールは?

スマートフォンやVimeoのようなアプリは、映画やテレビ番組をたくさんスクリーニングするのに便利ですし、YouTubeもYouTube用に設定されているものを見るときには便利です。Dropboxは私に送付されてくる大量の扱いにくいファイルを扱うときに便利です。書籍の提案書と科学のプロジェクトに関しては紙で読む方が好みですが、脚本、演劇、テレビドラマはページを素早くめくれるのでiPadで読みます。VRプロジェクトにはOculusヘッドセットを、新しいゲームプロジェクトにはGoogle Cardboardを使用したことがあります。

── 仕事場はどんな感じですか?

一言で言うと、クリエイティブなカオスです。私は一度に多くの提案に携わっているので、さまざまなことを私の上で成長させたいと思っています。そのため、デスクやキャビネットや棚はあらゆる媒体のプロジェクトで溢れていています。 そうしたプロジェクトが私に信号を発して手招きするために必要な時間を与えているのです。こうして私はいろいろなことを生かし続け、それらの間に目に見えないつながりを探しています。

同じように、いくつもの提案と可能性が互いに影響を与えあう状態を保っているので、私のデスクトップPCでは、普段から何百ものファイルが同時に開いています。私は本能的であると同時に極度に分析的なので、多くの意思決定を迅速に行いますが、無意識のプロセスも大切にしています。そのため、答えが明らかになるまで物事を成長させたりろ過させたりしたいのです。

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Image: Lifehacker US

── お気に入りの時間節約術やライフハックは何ですか?

私には締切が一番の時短というか、行動を起こす刺激になります。締切がすぐそこまで迫っていると感じる必要があります。

私はいつも膨大な数の脚本に目を通していますが、飛行機の中で読むのが好きです。飛行機に乗ることが多く、機内の座席は非常に効果的な作業スペースです。シートベルトで座席につながれていて、邪魔もほとんど入らないからです。 脚本を何冊も荷物に入れて、機内で読んでいきます。どの脚本も1ページ1ページ全ページを読んでから表紙にコメントを書きます。そして、題名が書いてある表紙だけを残して残りの本文は全部捨てます。ですから、飛行機を降りるときは、達成感があり、ずっと身軽になっています。

── どんな人たちからどのように仕事を助けてもらっていますか?

20年間私と一緒にいて、私自身より私のことを良く知っているパートタイムのアシスタントが1人います。それから、3年契約のフルタイムのアソシエイトが1人います。今まで3人アソシエイトを使いましたが、どの人も素晴らしかったです。私が雇う人たちは本当に頭が良くて精力的で野心的ですが、私が出す仕事に加えて、私にスケジュールと期限を常にリマインドすることも彼らの仕事です。

─ToDoはどうやってトラッキングしていますか?

毎日のToDoリスト、カレンダー、週ごとのミーティング、戦略プランナー、献身的なアソシエイトを使っています。メールにはすぐ対応せず、アソシエイトに転送しておき、週に一度の会議で話し合うことが多いです。私たちは四半期ごとに取締役会を開催するので、私から四半期ごとのアップデート・ハイライトを送付します。これは、他人との情報共有だけが目的ではなくて、膨大なメディアプロダクツをトラキングする私なりのやり方でもあります。

──苦手なことは何ですか? どう対処していますか?

一番苦手なことは、他人にNOと言うことです。でも、実際には95%の時間をNOと言うことに費やしています。とはいえ、できるだけ早くはっきり伝えるようにしています。その方が相手も別の資金提供者探しを早くスタートできます。以前あまりに早く却下したので、十分考えていないように見えてしまい困ったことがありました。でも、ちゃんと十分考えてのことでした。結論はたいていすぐにわかるものです。でも、多くの人々を失望させ怒らせたと思います。ただ、この仕事にはつきもののことなので、自分で吸収していくしかないですね。

──どのように充電していますか? 仕事のことを忘れたいときはどうしますか?

キッチンにコーヒーを取りに行って同僚と交流します。でなければ、昼食や仕事の後にジムに行って、スイミング、ランニング、自転車こぎなど脳を休めることをします。あとは、ケーブルテレビのニュース番組をぼーっと見ます。

──仕事の合間に何をするのが好きですか?

私は4冊の本を出版しており、他にも本を書いています。ですから、いつも本を書いているか、書評か記事を書いています。今は新しいノンフィクションの本を書くか(エージェントはあまり気乗りしていないようです)、何年も前に書いたスパイ小説を書き直すか、野心的な新しい歴史フィクションを書くかで迷っています。

──今、何を読んでいますか? おすすめの本はありますか?

何冊か同時に読んでいます。まず、Andrew Hodgesが書いたAlan Turingの伝記『The Enigma 』です。これは私たちが2014年にトライベッカ映画協会への助成金を通して支援した映画『The Imitation Game』の元になりました。現在のコンピューターと人工知能の世界を予見し、それらを発明し始めた先見的な数学者の話です。

それからTa-Nehisi Coatesの書いた本を2冊読んでいます:『The Beautiful Struggle』と『Between The World and Me』です。私たちが今生きている世界の別の側面を描いています。

──今日あなたがされたのと同じ質問をしてみたい相手はいますか?

ウイリアム・シェークスピア、チャールズ・ダーウィン、ラッパーのジェイ・Zです。

──これまでにもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください

「正しい勇気があれば運命は開ける」です。

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スローン財団支援ドキュメンタリー『Bombshell:The Hedy Lamarr Story』の上映会で、『Hidden No More』リーダーシッププロジェクトに参画する48人の科学者とウェーバーさん
Image: Getty Images for Film Independent

──ほかに何か読者に伝えたいことはありますか?

今年は、社会における女性の役割が転機を迎える年です。財団が長い間支援してきた女性科学者たちの作品がたくさん世に出るのは偶然ではありません。具体的には、『Hidden Figures』(NASAで働くアフリカ系アメリカ人女性数学者とエンジニアの話で、2014年の書籍助成金で支援しました)、映画とテレビの助成金で支援した『BOMBSHELL:Hedy Lamarr Story』(携帯電話やWi-Fiに携わるテクノロジーのパイオニアの話)。それから近日中に発表されるLamarrのミニシリーズで『Black Hole Apocalypse』(宇宙学者のJanna Levin著。初の女性科学者主催のNOVA)。X線結晶学者Rosalind Franklinを演じたニコール・キッドマン主演の演劇『Photograph 51』は、脚本にしたいと思っています。他にも、マリー・キュリー、リーゼ・マイトナー、ジェーン・グドール、レイチェル・カーソン、メアリー・クレア・キング、ケイティ・ライトなど、逸材と言える女性科学者を題材にした多くの書籍、演劇、映画を支援しました。

同時に、今は有史以来、特に偏向していて危険とさえ言える時代でもあります。ですから、一見相反する全く別の2つの言語で語られることが多いテクノロジーと文芸という、2つのカルチャーの共通項を見つけることを専門にする者として思うのですが、私たちは自分の狭い守備範囲を越えてお互いをよく理解するように努めなければなりません。また、アメリカ人は概してとてもまともな民族ですから、私たちは支持政党がどこであろうと、好みの科学者や芸術家が誰であろうとそれに左右されず、誰もが共有する人間性の価値を認め、受け入れなければなりません。


Image: Lifehacker US, Kathi Littwin, Getty Images for Film Independent

Source: Alfred P. Sloan Foundation( 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8 ) Amazon(1, 2, 3, 4, )BPS, The New York Times

Nick Douglas- Lifehacker US[原文