VIVE Proレビュー:今はまだ雌伏のときなのか

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  • author かみやまたくみ
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VIVE Proレビュー:今はまだ雌伏のときなのか
Image: Sam Rutherford/Gizmodo US

発展するVRの次のステップなのだ、万人が手に取れる価格ではないとしても。

HTCのVRヘッドセット「VIVE」。発売当初から高価格・ハイクオリティー路線を進み、非常に高い没入感をウリにしていました。そして、ラスベガスで開催された家電見本市CES 2018にて、新型「VIVE Pro」が発表に。

強化されたディスプレイと音響がどのようにVR体験をアップグレードしてくれるのか。米GizmodoのSam Rutherfordがレビューしていたので翻訳してご紹介します。


VIVEとOculus Riftが2016年の春に登場したとき、信じられないことが起こりましたね。VRは関心を引くに値するものになったのです。以前、VRといって真っ先に思い出されるのは、奇妙なSF映画やバーチャルボーイのような未成熟な製品でした。

しかし、初代VIVEが登場して2年以上経った今もなお、VRヘッドセットは当たり前の家電にはなっていません。それが残念という人もいるかもしれませんが、驚くべきことではありません。そうした草創期のヘッドマウントディスプレイたちの発売は、三段階からなるVR発展の第一段階にすぎなかったのですから。

Vive Pro

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・価格:800ドル(日本では税抜94,000円)

・これは何?:VRヘッドセット「VIVE」のセカンドジェネレーション

・好きなところ:より快適に着用でき、より高解像度に。デザインもより流線的になったところ。

・好きじゃないところ:ビルトインヘッドフォンがぴったりとフィットしないこと、高価なこと

新しいVIVE Proのデビューとともに、VRヘッドセットは第二段階、すなわち洗練の時期に入りました。VIVE Proは、新しい高解像度ディスプレイを搭載、リデザインされ、気の利いた快適さを実現する機構や機能を備えており、ありとあらゆる点で初代VIVEより良くなっています。VIVEは(訳注:高価で)購入を正当化するのが難しいデバイスでしたが、残念ながら第2世代VIVEもまた高価です。しかし、いったんこの点はすっ飛ばして、この後継機が提供してくれるものについて語ることにしましょう。

最初に気づくのは、VIVE Proがクールな青いプラスチック筐体を採用していることでしょう。また、正面には立体カメラを2基搭載しています。でも、興奮し過ぎちゃダメですよ。だって、まだそれらを利用するアプリなどが何も開発されていないんですから。

真のアップデートは裏側にある小さなダイアルです。これを使えば、ヘッドセットの付け具合を調整できます。時計回りに回せば締まり、反時計回りで緩みます。初代VIVEでは調整が必要な場合は基本的にヘッドセットを外す必要があったので、小さな変化ですが効果は大きいですね。

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改良されたフェイスクッションのおかげで、VIVE Proはいい感じに着けやすい Image: Sam Rutherford/Gizmodo US

内側に目を向けると、フェイスクッションが新しくなっています。快適なだけではなく、よりバランスがとれており、呼吸もしやすくなっています。数時間にわたるVRセッションの後でさえ、くもりや水滴で私のVR体験に問題が生じることはありませんでした。初代VIVEやOculus Riftでは、しばしば苦しめられた問題ですね。

VIVE Proでは光学機器も改良されており、旧モデルのように瞳孔間距離(訳注:黒目の中心間の距離)も調整できますし、ヘッドセットのレンズと顔との距離もカスタマイズできます。これによって、画面が網膜に対して近すぎたり遠すぎたりするときに調整できる視野スライダー機能が擬似的に実現されています。

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この黒いダイヤルを調整するだけで、VIVE Proを簡単にフィットさせられる Image: Sam Rutherford/Gizmodo US

また、ヘッドフォンが新たにビルトインになっていますが、これはたくさんの問題を解決します。VIVE Proのブレークアウトボックス(VIVE Pro本体とPCをつないでいる部分)から出るコードは今や1本だけに。セットアップ手順の合理化に寄与しています。

使い勝手も向上しています。リリース以来、Oculus Riftの大きなアドバンテージは、「VRヘッドセット本体を身につけてからヘッドフォンを手探りで探さなくていい」という点にありました。Oculus Riftはヘッドフォン内蔵ですからね。そして、VIVE Proも同様になったのです。ひょいとイヤーカップをかけ、外すだけでいいのです。

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ぶら下がっているみたいなVIVE Proの新型ヘッドフォン Image: Sam Rutherford/Gizmodo US

ビルトインヘッドフォン最後の、そしてもっとも重要なメリットは、「空間オーディオのための標準的なプラットフォームがユーザーに提供された」という点にあります。初代VIVEでは、3.5mmコネクターに適切なヘッドフォンを差し込んむのはユーザーの役割でした。でも、平均的なヘッドフォンを組み入れても、必ずしも適切な3Dオーディオを体験できないというのが問題です。もしコンテンツ内で背後から忍び寄るものがあったとしても、そんな風に音が鳴らないといったことがしばしばあり、そうした存在に感じる疑惑の感情が台なしになることがありました。VRなのにね。でも、今や開発者たちは標準のプラットフォームに合わせてVRアプリをデザインでき、ユーザーたちが経験する音は同じものになるのです。

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通常のヘッドフォンとはちがって、VIVE Proのヘッドセットはしっかりとフィットするわけではないのが問題か Image: Sam Rutherford/Gizmodo US

VIVE Proのビルトインヘッドフォンが密閉型ヘッドフォンよりもオンイヤー・ヘッドフォン(訳注:耳全体を覆うのではなく、耳の上に比較的小さなイヤーパッドが乗るタイプのヘッドフォン)に近いという点は、このことに対するひとつの異議として成立します。これが意味するのは、VR体験をする部屋がとても静かでないかぎり、環境音が外から入り込んでくるということです。それは理想的ではありませんね。そして、VIVE Proのヘッドフォンは頭に押しつけられるわけではなく、耳の隣にぶらさがっているようなものなので、それを改善する方法は多くありません。もしあなたがそうしたいなら、幸いなことにVive ProにはUSB-Cポートが隠されていて、ヘッドフォンアダプターとして使えるので、使いたいヘッドフォンを使うことはできます。

外観については十分でしょう。では、VIVE Proの新しい光学デバイスは本当に使えるのでしょうか? まず最初に、私は実にがっかりさせられました。VIVE Proの解像度は2,880×1,600(片目あたり1,440×1,600)になり、ピクセル数でいうと78%も増加しましたが、オリジナルVIVEとVIVE Proの間のシャープさは、標準画質のテレビとHDのテレビの差ほど大きなちがいではありません。ピクセルはより小さくなりましたが、裸眼で認識できますし、ギザギザも見えポリゴンの斜めのラインにアンチエイリアスがかかっているのもわかるでしょう。まるで、TVをとても近くに座って見ているときのように。いつも完璧に滑らかになっているように見えるわけではないのです。

それでも、全体的なインパクトは大きいです。微妙とはいえ、映像は改善されより忠実になり、よりよい音響と結びついて、現実世界を無視して眼前に広がるバーチャルに集中するのは容易になっています。

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ふだんはヘッドセットのフロントパーツ内に隠されているが、USB-Cポートもある Image: Sam Rutherford/Gizmodo US

現在、初代VIVE向けゲームとVIVE Pro向けゲームを差別化する要素はありませんが、すぐに登場してくるでしょう。シューティングゲーム『SUPERHOT VR』のようなもっとも荒涼としたミニマリストなゲームでさえVIVE Proではよりよく見え、Vive Videoアプリで見られる360度動画もより実物らしく見えるので、大きな問題ではありません。

でも、私にVIVE Proがどれだけ進化したかを見せてくれたのは、バーチャル空間内にデスクトップ画面を作成するアプリ『Bigscreen』で再現された、自分のデスクトップです。テキストはより綺麗に見え、気づけば私はこのレビューの大部分を書き上げていました。VIVE Proをつけたままで。同解像度である、Samsung(サムスン)のヘッドマウントディスプレイ・Odysseyと比べても、その正確なモーショントラッキングと3D空間オーディオ、SteamVR(訳注:SteamのPC用VRゲームプラットフォーム)とViveport VR(訳注:HTCのVR配信プラットフォーム)のサポートのおかげで、VIVE Proのほうがいいですね。

VIVE Proには、「VRで働く」という考えを他愛ないものからエキサイティングなものに変える力があります。以前、VRの中で整然としたウェブサイト上のテキストがよく見えたことがあるのですが、私は徹底したVRアプリの中でこうした細部の価値を理解し始めました。このVR発展の第二段階を特徴づけるのは、詳細をより再現する能力なのだと。大きな変化があったのであったのです。VIVE ProはVRに洗練を加えているのです。

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ヘッドセットにつながるケーブルが1本になることで、より簡素に Image: Sam Rutherford/Gizmodo US

ここで、価格の問題に戻るとしましょう。まず、VIVE Proがこれほどいいとわかった今となっては、初代VIVEを試してほしいとは思えません。後戻りすることに意味はないでしょう。でも、実際に買うとなれば、初代VIVEとコントローラー2台、ベースステーション(訳注:プレイヤーの位置をトラッキングするための装置)2台を含む500ドルのキットと比べて、800ドルのVIVE Proは非常に受け入れにくい。なぜならVIVE Proにはベースステーションやコントローラーのようなシステム上重要な周辺機器が一切同梱されないため、VIVE ProでVRの旅に初めて出るには1,100ドルかかるのです。

私を悩ませている問題がもうひとつあります。私はCES 2018で近々発売されるVIVE ワイヤレスアダプターとセットでVIVE Proを試し、自分を縛り付けるワイヤーがない楽しさと自由さを体験してしまいました。知ってしまえば、もう後には戻れません。もしHTCがVIVE Proとこのワイヤレスアダプターをワンセットにするなら、800ドルだろうが1,000ドルだろうがお買い得だと思うでしょう。わがままなことを言いますが、私がこのヘッドセットの価格を正当化するためには、そうした未来技術を盛り込んだガジェットが必要です。

VIVE Proを買うにせよ買わないにせよ、偉大なVR実験のセカンドフェーズは始まっています。しかし、多くの人はサードフェーズ、つまりHTCがこのすばらしい技術をひとまとめにして買いやすい価格にするまでは乗り気になりはしないでしょう。残念なことに。

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映画『レディ・プレイヤー・ワン』の世界は一日一日、着実にリアルになっている Image: Sam Rutherford/Gizmodo US

まとめ

・新しいビルトインヘッドフォンを搭載、フェイスクッションはリデザインされ、調整ダイヤルも追加。前モデルから約170g重くなってはいますが、VIVE Proはより快適に装着できるようになっています。

・解像度2880×1600のディスプレイによって前モデルに比べてピクセル数は78%増。しかし、それはPCにはよりハイスペックが求められることを意味します。GPUにはNvidia GTX 1070かAMD Vega 56が推奨です。

・800ドルのVIVE Proに含まれるのは、本体とブレークアウトボックスのみ。もしまだベースステーション2台とコントローラー2台を持っていないなら、追加で300ドル支払う必要があります。

・ビルトインヘッドフォンはぴったりフィットせず、オーバーイヤー型ヘッドフォンのように雑音を防いでくれたりはしませんが、新しい3D空間オーディオサポートはVRにとって重要なステップだと言えます。

・近々発売されるVIVE ワイヤレスアダプターの詳細が明らかになるのを待っています。

スペック

・ディスプレイ:デュアル3.5インチ AMOLED(対角)

・解像度:2880×1600(片目あたり1440×1600)

・リフレッシュレート:90 Hz

・視野角:110度

・オーディオ:ビルトインヘッドフォン+3D空間オーディオ

・センサー:デュアルSteamVR Trackingカメラ、Gセンサー、ジャイロスコープ

・重量:約765g



Image: Gizmodo US

Sam Rutherford - Gizmodo US[原文
(かみやまたくみ)