女性が名乗り出なければセクハラ認定しない? 麻生大臣発言の問題点とは

    報道各社が、すべきこともある。

    週刊新潮が報じた福田淳一財務事務次官のセクハラ発言問題。

    麻生太郎財務大臣は4月17日、被害にあったという女性が名乗り出てこなければ、事実の認定はできない、という見解を示した。

    ただ、財務省は、調査を顧問契約を結んでいる弁護士に依頼している。こうした手法には専門家から「暴力的」との批判も上がっている。

    「ハラスメントの調査の手法として、財務省のやり方はセオリーを踏まえていない。逸脱している、稚拙なものです」

    そうBuzzFeed Newsの取材に厳しく指摘するのは、ハラスメントや労働問題に詳しい寺町東子弁護士だ。

    「本件は公務員のトップによるセクハラという違法行為の告発で、公益性の高いものです。セクハラは公益通報者保護法の対象にはなっていませんが、一般的に公益通報の窓口などは、通報者の特定につながりうる情報は経営幹部にも開示しない、と明記されているものです。しかし、財務省の調査ではその安全性がまったく担保されていません」

    実際、財務省の「調査への協力のお願い」という文書には、「協力いただける方に不利益が生じないよう、責任を持って対応させていただく」と記されているが、個人情報に関する明記は一切ない。

    また、財務省が顧問契約をしている事務所に依頼をしていることも明らかになっている。寺町弁護士はこうも危惧する。

    「顧問契約による委任事項は一般的に、依頼者への報告義務がある。外部窓口を中立性・公正性に疑義が生じるおそれがある法律事務所を起用することは避けるべき、と内部通報制度のガイドラインにも指摘がある。本来なら、情報提供者の秘密保持を明確にした第三者委員会などが調査するべきです」

    「名乗り出ろ」という構造的な暴力

    調査体制の不備については、政府内からも批判があがっている。

    野田聖子総務大臣は「違和感がある。加害者側の関係者に話をしにいくのは、普通ではできないのではないか。被害者の立場からすれば高いハードルだ」と指摘している。

    しかし、麻生大臣は「女性が名乗り出なければ事実認定をしないのか」と記者に問われ、「本人が申し出てこなければ、どうしようもない」との見解を示している。寺町弁護士はこう語る。

    「仕組みとして被害者側が申し出にくいことに加え、取材する側とされる側という関係にあるという問題もある。記者が名乗り出てしまえば、今後の取材活動に影響が及び、記者生命に関わることになる」

    「そういう状況で、名乗り出なければセクハラがなかったことにするというのは、暗に被害者に圧力をかけているのと同じでしょう。強者が弱者に、無理を押し付けている、暴力的な構造があります」

    麻生大臣はさらに、「セクハラという名乗りにくい事情があるのでは」と問われ、「言われている側の立場の考えないといけない。福田の人権はなし、というわけですか」とも発言している。この点についてはどうか。

    「一般論としては、次官が誰かに陥れられる可能性もありうる。だからこそ、事実認定に関する調査は、当然、必要です」

    「ただ、調査対象者である福田次官と財務省は一体化せず、中立性・公正性・通報者保護を担保した、被害者にとって適正な手続きを取るべきでしょう」

    報道各社の対応も…

    週刊新潮は、公開された音声だけではなく、複数の女性記者による、福田次官のハラスメントに関する証言も掲載している。

    寺町弁護士はこの点に触れながら、報道各社の責任についても指摘をした。

    「複数の記者が、業務である取材中にその相手からハラスメントを受けたと告発している。報道各社は社員への安全配慮義務として、個人を特定できないように被害者の有無を調査し、事実であれば財務省に改善を申し入れるべきなのではないでしょうか」

    寺町弁護士がここで引き合いに出したのが、ある航空会社のケースだ。

    日本ハムの執行役員(当時)の男性が空港ラウンジの女性従業員に対してセクハラ発言をしたことを、社として日本ハムに申告したのだ。

    日本ハムは社内調査を経て、航空会社に謝罪。これを受け、執行役員の男性と同席していた社長が2018年1月に辞任している。

    「この航空会社の対応は正しいものだった。同じような事態が起きているのであれば、報道各社も対応をすべきです。ガバナンスの問題です」

    これだけではない、だからこそ

    財務省だけではなく、報道各社がすべきこともあるということだ。寺町弁護士はこうも警鐘を鳴らす。

    「政治家や官僚らが、情報を握っていることを良いことに、男女かかわらずハラスメントをする、ということは少なからず起きていること。これを個別の案件と捉えないことも大切です」

    「報道各社なり、新聞協会なりがしっかりと態度を示し、記者個人を守る必要がある。調査をし、政府側に申し入れることで、再発防止策を出させなければいけない。そうしなければ、権力を監視するという本来の役割も、果たせなくなってしまいます」

    ネット署名サイト「Change.org」では、財務省に「セクハラ告発の女性に名乗り出ることを求める調査方法を撤回してくださいと求める署名活動も始まった。

    開始から5時間で、約2800人が賛同している。今後、財務省や報道機関側がどう対応するか、注目される。


    BuzzFeed Newsでは【「お店の女性だったら許されるのか」財務省のセクハラ調査に野党議員が反発】という記事も掲載しています。