宅配ドローンも「空飛ぶクルマ」も見逃さない──レイセオンの新しいレーダーシステムの実力

従来型レーダーの低空が見えない弱点を克服するシステムを、大手軍事企業のレイセオンが開発している。低出力なレーダー網を網の目のように張り巡らせることで、低空で飛ぶドローンなどもきちんと把握できるようになるという。ドローン宅配や「空飛ぶクルマ」の時代に向けてつくられた新技術の実力とは。
宅配ドローンも「空飛ぶクルマ」も見逃さない──レイセオンの新しいレーダーシステムの実力
PHOTO: ANDIA/UIG/GETTY IMAGES

「レーダーをかいくぐる」という言葉がある。多くの常套句がそうであるように、この言葉にも現実世界における字義通りの歴史がある。

レーダーによる検出技術は第2次世界大戦が始まったあとに拡大したが、当時の軍のパイロットたちは「低空飛行するもの」の発見には難があることを知っていた。建物や丘によって探索範囲が大幅に限定されてしまうのだ。このためパイロットたちは、「レーダーをかいくぐる」ために、そうした地形に沿って飛ぶようにしていた。

こうしたレーダーの「低空での限界」は、空襲で標的になったときは別として、ほとんどの場面では許容できるものだった。航空業界の安全面の実績にも悪影響はなく、業界は混み合う空域を安全に飛行するため、レーダーに依存するようになった。

しかし現在、状況の変化に伴い、何がどこを飛び、それをどう監視するのかも変化しようとしている。ドローンが飛び交い、ピザやコーヒーやスニーカーを配達する。空飛ぶクルマが街中で乗客を運ぶ。行方不明の登山者を見つけるために、自動運転の捜索救難機が展開する。そこで、こうした社会に対応するために、航空業界は備えを進めているのだ。

こうしたヴィジョンは魅力的だが、人々の安全を確保する必要がある航空管制システムにとっては、空を飛ぶすべてを追跡できる必要がある。大きなパラボラが回り続ける従来型の機械式レーダーシステムは、当面、航空追跡システムの主力であり続けるだろうが、“死角”を埋めてくれる新しいツールが必要なのだ。

低出力レーダーを網の目のように展開

そこで大手軍事企業のレイセオン(Raytheon)は、照準を少し下げることにした。従来のシステムで見過ごされていたギャップを埋めることができるという、低出力のレーダーを開発したのだ。これまでのように、タワーや山頂にユニットをひとつ設置し、回転させて最大200マイル(約320km)の範囲をスキャンするのではない。レイセオンは、小さなデジタルシステムを周辺一帯に大量に展開することを提案する。

ユニットのサイズは1平方メートルで、大きな白いピザの箱が直立していると想像してほしい。現在使われているものよりも正確で波長の調整がさらに可能なアクティヴ電子走査アレイ(AESA)を採用している。携帯電話の基地局や建物、丘の上などにこれを広く設置することで、超低空飛行の航空機も追跡できるようになるはずだ。

この計画のリードエンジニアであるマイケル・デュボワによれば、AESAは土地を広範囲にモニターすることもできるし、特定のターゲットに狙いを定めることもできるという。「『アジャイルビーム』というコンセプトによって、鉛筆状のビームの方向を変えて、空飛ぶクルマでも飛行機でもドローンでも、ターゲットを追うことができます」と同氏は語る。

そして、従来型のレーダーシステムが数個のターゲットしか追跡できないのに対し、このシステムは多数のターゲットをモニターできる。さらに、ビームがパラボラの回転によってターゲットから外れることがないため、解像度は高くなり、更新レートははるかに速くなると同氏は続けた。

戦闘機の技術を、もっと安価に

AESAは、「F-22 Raptor」や「F-35 Lightning II」といった現代の戦闘機にすでに採用されているが、その技術をはるかに安くしなければならない。また分散的に展開するため、建物、天候、土地などからの無線周波干渉を拾わないようにしなければならない。

ユニットをネットワーク化すれば、解像度を上げ、レーダーの乱れをより正確にフィルタリングできる。このことは小さなドローンたちの追跡や、低空で飛ぶ自動運転タイプの航空機の状況認識を強化するうえで非常に重要になるだろう。

さらに、もう少し別の企ても考えられている。「航空機の追跡ができるほかに、3Dの風情報などの微視的な天気解析にも活用できます。さらに、極めて局所的な追跡は、将来の航空機や一般の人たちに役立つかもしれません」とデュボワは語る。「本当に小さな領域に関していえば、例えば模型のロケットや飛行機を趣味で飛ばすときや、ドローンを飛ばすオペレーターが飛行の経路に問題がないことを確かめる際などにも役立つかもしれません」

低出力レーダーのネットワークは、将来の航空機のためのさまざまなソリューションのひとつということになるだろう。

もうひとつ、「ADS-B」という重要なソリューションがある。GPSデータを使って航空機の位置を自動的に発信するシステムで、さまざまなところで普及が進んでいる。ただしこれにも限界があり、機能させるには当の航空機に搭載しなければならない。これだけでは天気のモニターはできず、鳥の群れも探せない。となるとレーダーはまだまだ重要だ。

レイセオンのシステムは、政府機関向けに先日行われたデモンストレーションにおいて、ひとつのユニットで20マイル(約32km)の範囲内の飛行を追跡し、「パイロットが手術レベルの精度で着陸できるように案内」できる詳細なデータを提供してみせた。

現在開発が進んでいる低出力レーダー技術は第3世代だ。19年の中ごろには準備が整い、大規模な量産に移るかもしれない。同じ領域をカヴァーするフルサイズのレーダーシステムと同等かそれ以下のコストになる、とレイセオンは約束している。

顧客としては、まずは、航空管制ネットワークを運営する政府機関が主要なターゲットになるだろうが、軍や産業界にもアピールできる可能性がある。レイセオンはとりあえず、可能性のあるあらゆる用途の開発に取り組んでいる。「レーダーをかいくぐる」という表現が、陳腐な決まり文句にすぎないものになる日を目指して。

TEXT BY ERIC ADAMS

TRANSLATION BY RYO OGATA/GALILEO