南北朝鮮を隔てる「非武装地帯」に潜入──そこには緊迫した兵士と、自由を謳歌する動物が共存していた

韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線に沿って約250kmにわたり、幅数キロメートルの非武装中立地帯が設けられている。兵士以外は立入禁止だが、そこに韓国のフォトジャーナリストが潜入し、緊張感の漂う現地の様子を記録した写真集を出版した。武装した兵士たちの様子や北朝鮮側の景色だけでなく、自由を謳歌する野生動物たちの姿も収められている写真の数々を紹介しよう。
南北朝鮮を隔てる「非武装地帯」に潜入──そこには緊迫した兵士と、自由を謳歌する動物が共存していた

韓国と北朝鮮の軍事境界線にある非武装地帯は、1953年に設定された。北朝鮮との間で3年間続いた苛酷な戦争を終わらせた、休戦協定の一環として設定されたものだ。

幅約2マイル(約3km)、全長155マイル(約250km)。朝鮮半島を横切るこの地帯は、幾重にも張られた鉄条網によって、南北の両側から通行が禁止されている。世界で最も多くの兵士と火砲が集中している場所のひとつだ。ビル・クリントン元米国大統領は、かつてこの地域を「地球上で最も恐ろしい場所」と呼んだ。

この非武装地帯への立ち入りは、めったに許可されることがない。だが韓国国防部は2009年、翌年が朝鮮戦争勃発から60年になるのを記念して、フォトジャーナリストのパク・ジョンウに対して立ち入りを認めた。

非武装地帯には数千に上る地雷があちこちに埋められているため、パクは常に韓国兵士の中隊とともに行動した。兵士たちは、パトロール用に決められた道筋に従って進むのだ。パクはその後8年間にわたって非武装地帯の写真を撮り続け、作品をまとめた写真集を2017年11月に出版した。

「非武装地帯のなかは、火砲やマシンガン、ミサイルなどで完全に武装された地域だろうと思っていました」とパクは述べる。「ところが初めて足を踏み入れたとき、そこはとても平和な場所のように見えました。いくつかの監視所があることを除けば、それは単なる普通の朝鮮半島の風景のように見えたのです」

そこは自然の宝庫でもあった

非武装地帯での開発事業は禁じられているため、この地域はタンチョウやマナヅルなど、絶滅が懸念される鳥類の野生生物保護区のようになっている。韓国環境部の報告によると、6,000種を超える動植物が確認されており、そのなかには絶滅の恐れや保護の必要があると指定された106種が含まれているという。非武装地帯で撮影している間、パクはイノシシやキバノロ(シカの一種)、ヤギによく似たオナガゴーラル(チョウセンカモシカ)も見かけたとのことだ。

非武装地帯から南へわずか40マイル(65km)の場所にある平昌(ピョンチャン)で開催された2018年冬季オリンピックのおかげで、2015年以来2年ぶりの南北高位級会談が行われ、両国間を結ぶホットラインが再開されるなど、最近は南北朝鮮関係に緊張の緩和が見られる。だがパクは、南北再統一の見通しについては懐疑的で、少なくとも自分が生きている間は実現しないとみている。

「和平交渉を妨害するものがあまりにも多く、ほとんどの人々がそのことをいまなお心配しています」と、パクは言う。「それでもここしばらくは、オリンピックのおかげでわたしたちは幸せです」


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TEXT BY MICHAEL HARDY

TRANSLATION BY MAYUMI HIRAI/GALILEO