アリゾナ州から始まった自律走行車の規制強化は、全米へと広がっていくかもしれない

Uberの自律走行車が起こした死亡事故を受け、アリゾナ州の自律走行車に対する友好的な態度が一転、規制を強める方向へと動き始めた。過剰反応にも見えるかもしれないが、自動車とそれにまつわる規制の歴史を振り返ってみれば、もはやこうした規制は不可避の情勢だ。
アリゾナ州から始まった自律走行車の規制強化は、全米へと広がっていくかもしれない
Uber自律走行車が歩行者をはねて死亡させた事件を受け、アリゾナ州知事ダグ・デューシーは、同州におけるUberの自律走行車の走行を禁止した。規制が緩かった同州において、これは大きな転換だといえよう。PHOTO: JEFF SWENSEN/GETTY IMAGES

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アリゾナ州テンピで、Uberによる自動運転のテスト車両が道路を渡っていた女性をはねて死亡させた事件[日本語版記事]が起きてからある程度の時間が経ったいま、同社は重い結果を突きつけられている。アリゾナ州運輸局は3月27日、同州知事ダグ・デューシーの指示を受け、州内の道路上で自律走行車の試験運転を禁止するようUberに命じたのだ。

これまでも論議が続いていた同社の自動運転プログラムにとって、これは明らかに大きな打撃だろう。同社は試験走行の大部分をアリゾナ州で実施しているが、今回の禁止措置は、アリゾナ州以外の地方や政治家もこの新たなテクノロジーに規制をかける方向に動く前触れでもあるからだ。自動運転技術は安全性が高く経済的効果も見込まれているが、同時に雇用を激減させる恐れがあり、失敗すれば死者が出る可能性もある。

予想外の逆風

デューシーの決定は、予想外の逆風となった。今回の事故が起きるまで、デューシーは自動運転技術を支持し[日本語版記事]、Uberなどの企業にアリゾナでの試験走行を呼びかけていたのだから。

アリゾナ州には、いつどこで何をやっていいか明確に定める規則が実質的に存在しない。さらには衝突事故を含め、試験プログラムについて報告や開示を行う義務もない。デューシーは2015年、州の全機関に対し、「自律走行車の試験と走行を支援するために必要なあらゆる措置をとる」ことを指示する州知事令を出していた。

カリフォルニア州車両局(DMV)は2016年12月、Uberが自律走行車の試験運転に関する許可申請を拒んだため、同社がサンフランシスコで自律走行車を走らせることを禁じた。このときデューシーは、大麻に寛大なアムステルダムよろしく、黄金の州カリフォルニアのルールにうんざりした面々にアリゾナ州をシリコンヴァレー方面に寛大な州として売り込んだ。

「アリゾナはUberの自律走行車を心から歓迎し、広く道路を開放します。カリフォルニア州は官僚主義と規制を強め、変化と革新に歯止めをかけていますが、アリゾナ州は新たな技術と新たなビジネスへの道を切り開いていきます」と、デューシーは声明で述べている。「カリフォルニアで歓迎されずとも、アリゾナはあなたたちを待っています」

さらに今年3月、デューシーは当初の州知事令を更新し、安全のために人間が自律走行車に同乗することを義務づけないことにしていた(なお、今回の事件で被害者の女性をはねた試験車両には、Uberのオペレーターが乗っていた。衝突事故の瞬間までを記録した映像から、このオペレーターが道路を見ていなかったことがわかっている[日本語版記事])。

さまざまな都市が独自の対応策を打ち出す?

今回、走行の無期限停止を言い渡されたのはUberだけだ。ウェイモ(Waymo)、ゼネラルモーターズ(GM)、インテルなど、Uberと同じくアリゾナ州の最低限に抑えられた規制や混雑のない道路、温暖な気候に魅力を感じている会社は、試験走行を継続できる。例えばウェイモは、アリゾナ州フェニックスの都市部で自律走行車の無人試験走行を実施しているが、年内にはアリゾナ州での商業運用に乗り出す予定だという。

しかし、デューシーがこれまでの方針を覆したことで、自動運転技術の開発を進める企業はどこも不安を抱くはずだ。たとえそれが気をもむ有権者にアピールするだけのためだったとしても、これでさまざまな政治家が無人で走るクルマに制限を設けようとすること明白だからである(デューシーが11月の再選を目指していることは、ここで指摘しておいていいだろう)。

この動きは、今後地方での自律走行車規制が徐々に増加し、さまざまなかたちでアメリカ全土を覆いはじめる前兆として、初期の一例となるだろう。連邦議会が最終的に条例をとりまとめて自律走行車を統御する規則を正式に条文化したとしても、各地方の権力者はその導入を阻む(あるいは少なくとも制限する)手段をいくらでも講じられるはずだ。

それによって、全米のあらゆる都市ですべての自律走行車を道路から締め出すことはできないかもしれない。だが、割増料金の請求から、客を乗せて料金をとるために必要な営業許可取得を難しくすることまで、あらゆる対応策が可能である。

自動車の歴史にも先例

ここでちょっと歴史を遡り、自動車というものが急速に広まった時代に目を向けてみよう。いまの無人車両につきまとう疑問の多くは、そのときにも生まれていたのだ。

規制機関は、安全性や速度、スペースの割当てなどの問題にどう対応すべきか? サイラス・フリントの著書『The First Auto Laws in the United States』が明らかにしている通り、自動車が当局の管理下に置かれるようになって以来、各都市はそれぞれ規則をつくってきた。

パサデナは自動車にベルをつけることを義務化した。1899年、ボストンでは10時半から21時まで公園内での駐車が禁止され、シカゴでは運転免許証が考案された。

続いてニューヨークも自動車規制を行い、教会や学校の前を通るときには制限速度を時速10マイル(約16km)とした。郵便局から0.5マイル(約800m)以内では、さらに時速8マイル(約4.8キロ)まで制限を厳しくしている。

フリントはまた、初期に自動車関連の訴訟や不法行為に絡む裁判が多数あったことも明らかにしている。自動運転技術の場合にも、同様のことが予想できる。

近年、都市は再び、地域ごとの法律を次々とつくり出している。今回は路上の交通事情を変える新たなテクノロジーに対応するために。ライドシェアビジネスの台頭は地元のタクシー業界に大きな打撃を与えた。だが、それは混雑を悪化させ、市民を危険に巻き込む可能性すら生んでいるのだ。

テキサス州オースティンがドライヴァーに指紋の押捺を義務づけたところ、UberとLyftはこれに抗議して同市から撤退した(その後、規制のゆるい州法がオースティンの法律より優先されため、再度参入している)。フランスでは一時的なものではあれ、Uberのドライヴァーが配車リクエストを受けてから乗車させるまで15分待機するよう義務づけ、既存のタクシーより優位にならないようにした。

ロンドンは2017年9月、安全性と法的な面からの懸念を理由に、Uberのロンドンにおける営業権更新を拒否している。「革新的なサーヴィスを提供することは、規則に従わない理由にはならない」と、ロンドン市長のサディク・カーンは声明で述べていた(Uberはこの決定を不服として訴えを起こし、判決が出るまでは引き続きロンドン市内で営業を行っている)。

規制からは逃れられない

自律走行車は、すでに地方レヴェルで難題に直面してきている。

カリフォルニア州のDMVがモニターとして人間が添乗せずとも車両実験を行ってよいと発表したとき、サンフランシスコ市長マーク・ファレルは、同市内で実験を行おうとする企業に対し「安全評価訓練」に参加するよう命じた。そこには救急隊員や公共バスの運転手、市の職員らも参加し、彼らに対してこの技術を詳細に説明することが求められていた。一方、2016年末にUberがピッツバーグでの試験走行を始めた際、ピッツバーグ市長ビル・ペデュートはこれを大いに支援していた。

「地方当局は、これからも常に市内の住民に敏感に反応していくでしょう。コミュニティの人々が懸念を抱いているなら、それにきちんと対応できるようにしたいと当局側は考えます」と、非政府組織「ナショナル・リーグ・オブ・シティーズ」のブルックス・レインウォーターは『WIRED』US版に語った。これが州当局にも当てはまることは、今回のデューシー知事の動きで証明されたといえよう。

歴史がなんらかの指針になるとすれば、こうした過剰反応ともいえる規則は長続きしないと考えられるだろう。そのうちの一部は裁判で無効とされ、それ以外のものも州法や連邦法にとって代わられるはずだ。

パサデナに行ったことのある人なら、現在パサデナでクルマがベルを鳴らしながら走っていないことは知っている。しかし、そうした初期の規制の多くが、いまも何らかのかたちで生き残っているのも事実だ。いまも通学路ではスピードを落とさなくてはならないし、運転免許証や自動車の登録が必要なように。

自律走行車が進化し、アメリカ全土に、世界に広がっていくに従い、その開発者たちはあちこちで課される制約を受け入れざるを得ないだろう──。ワイルド極まる南西部ですら、規制は免れえないのだ。


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TEXT BY ALEX DAVIES

TRANSLATION BY YOKO SHIMADA