まぎれもない現実。スティーブン・スピルバーグ監督に憧れた少年が本人に出会った話

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  • author K.Yoshioka
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まぎれもない現実。スティーブン・スピルバーグ監督に憧れた少年が本人に出会った話
Image: (C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED

僕にとっては神様との出会い。

2018年4月20日に映画界の巨匠スティーブン・スピルバーグ監督の最新作『レディプレイヤー1』が公開されました。本作はVR(仮想現実)がテーマとなっており、いままでVRやらARなどを追ってきたギズモードにはもってこいの作品です。

スティーブン・スピルバーグ監督といえば、数々の歴史にのこるエンターテイメント作品(『未知との遭遇』『E.T.』『ジュラシック・パーク』など)を手がけた人物です。監督だけではなく、製作総指揮などの立場で参加した作品も多く、何かしらの形で彼の手がけた作品に触れたことがある人は多いはず。また作品から影響を受けたかたもいるのではないでしょうか。

かく言う僕もその一人。僕はいまこうしてギズモード・ジャパンで編集の仕事をしていますが、小学生の頃の夢は「映画監督」でした。そのきっかけを与えてくれたのはまぎれもない、スティーブン・スピルバーグ監督だったのです。

そんな中飛び込んできたのが、「スティーブン・スピルバーグ監督にインタビューしませんか?」という取材案内のメールでした。ただ時間は限られており、できる質問も1問程度。それでも憧れの人にインタビューできるとあって、僕は即答で「お願いします」と返しました。

「仕事なのに理由が私的すぎるっ!」と言われても、仕方がありません。目の前にスピルバーグが転がってきて、誰がそのまま見過ごすことができるのでしょうか。

今回、スピルバーグ監督に憧れていた僕が本人に出会うまでの軌跡を、幼少期の記憶を思い返しながら、監督への想いとともに綴ってみました。

ちゃんと監督へのインタビューも含まれているのでご心配なく。

遡ること21年前

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Photo: ギズモード・ジャパン編集部
小学生の頃に書いた恐竜の絵

僕が最初にみたスピルバーグ監督の映画はおそらく『E.T.』でした。しかし、当時はとても幼かったため記憶はおぼろげ…。スピルバーグ監督の映画をはっきりと認知したのは『ジュラシック・パーク』です。当時(1997年)、僕は小学1年生でした。『ジュラシック・パーク』は4年前に公開済みで、父親がレンタルショップで借りてきたのです。見たときは本当に恐竜がいるんだと感じたことをはっきりと覚えています。同年に続編『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』が公開されたことも合わさり、恐竜の虜に。VHSに録画した映画を何度も見ては、ずっと恐竜の絵ばかり書いていました。当時は考古学者にもなりたくて、よく博物館に遊びに行っていました。お土産やさんでで売っていた『ジュラシッック・パーク』のおもちゃを買ってもらえなくて泣きじゃくった記憶もあります。

それからちょっと年を重ねて小学校3年生くらいになってから、スピルバーグ監督の他の作品をみるようになり、「映画」としての素晴らしさを認知するようになりました。僕を夢中にさせてくれた経験は「自分も人を楽しませることができる映画を作りたい」という想いを生み、小学校を卒業するまで夢はずっと映画監督でした。小学校の授業中はいつも「もし『ジュラシック・パーク』から逃げ出した恐竜が日本に上陸して学校にやってきたら…」「もし学校が海底の基地で窓の外にいるサメ達が突き破ってきたら…」なんてストーリーを考えてぼーっとしていました。でも僕にとってはそれが夢の時間だったんです。

スピルバーグ監督の映画がなぜここまで僕を魅了したのか、それは単純に「ワクワクさせてくれたから」という一言に尽きます。彼はその時代のテクノロジーを最大限に駆使し、空想の話をまるで現実かと思わせるような映像を見せてくれました。視聴者を没入させることで、登場人物と一緒に驚き、喜び、悲しみを感じることができたのでしょう。また作品では現実世界では目立つようなタイプではない子どもたちが活躍します。その姿に自分を重ね合わせていたのかもしれません。

中学生になってからは音楽に夢中になり、映画監督の夢はいつしか薄れていきました。それでもスピルバーグ監督が教えてくれた、コンテンツを通して人に夢を与えること、純粋に楽しませることについて忘れることはありませんでした。僕は高校生になって趣味で音楽を始め、「伝える」ということの難しさを改めて認識します。大学に入学すると、原点に立ち返って「映像を通して伝えること」を学ぶために映像制作のゼミにはいりました。

改めて自分の経験を俯瞰してみると、全てはスピルバーグ監督の作品に出会ったことが始まりでした。彼は僕の人生を変えるきっかけをくれたのです。


そして2018年

ギズモードの編集部員になった僕はエンタメ作品を担当することが多くなっていました。数々の作品を紹介する中には、もちろん『レディ・プレイヤー1』も含まれています。本作は海外で予告編が公開された時から追っていました。日米のポップカルチャーが詰め込まれた本作は、予告編の段階でさまざまなコラボレーションを見せ、楽しませてくれました。

日本での公開が迫るなか、ギズモードに「スピルバーグ監督にインタビューしませんか?」という取材案内の連絡が来たのです。冒頭でもいった通り、僕は即答しました。とはいえ、話をもらった段階ではまだ現実味はなく、いつもの取材の延長線で考えていました。しかし取材前に行なわれた『レディプレイヤー1』の試写後、僕の心は小学生の頃に戻っていたのです。

ポップカルチャーを詰め込んだ本作は、僕にとっての思い出がつまった作品でした。子どものころの記憶を掘り返しながらも、VRという最新テクノロジーがもたらす夢を見せてくれたのです。物語終盤、僕は「最高だなあ…」という気持ちとともに、気づけば目から汗がにじみ出ていました。

そんな大興奮のなか、編集部で取材の話をしたところ、ある編集部員が「『ジュラシック・パーク』のTシャツが売ってるの見ましたよ! 着ていったらいいんじゃないですか?」と提案してくれました。確かに「仕事で会うとはいえ、憧れの人に手ぶらでは会えない!」ということで、早速仕事終わりにお店へ。


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Photo: ギズモード・ジャパン編集部

無事に『ジュラシック・パーク』Tシャツをゲット。これで準備完了です。

当日、会場となるホテルへ到着し、スタッフの方に案内されて待合室へ。予定の時間がきて、取材部屋の前に移動します。すると、すこし遠くからどこかで聞き覚えるのある、特徴的な高い声が聞こえてきました。その声の持ち主が誰かは、取材部屋にはいってすぐにわかりました。

スタッフの方と談笑している、白人男性。そこにいたのは憧れの人物でした。スピルバーグ監督本人を目の前にしたときにまっさきに浮かんだのは「人形みたい」という気の抜けたような感想でした。それは僕にとって現実感がなく、「本当に実在するんだ」という気持ちが先行していたからでしょう。

インタビュー前にまず監督は握手をしてくれました。その手は大きく、少しごついながらも柔らかい感触でした。すると監督は僕のTシャツをみると指をさし「オー! ジュラシック・パーク!!」と言って笑顔に。作戦成功です。そしてインタビューがスタート。ギズモードとして、個人としても気になることを聞いてみました。


──今作はVRがテーマですが、監督はいままでもさまざまなテクノロジーを作品の中で扱っており、それらがもたらす夢と脅威を描いてきました。現実世界で監督がいま一番注目・未来に期待してるテクノロジーと恐れている・危機感を覚えるテクノロジーについて教えてください。

恐れているのはロボティクス分野の中でも「感覚(センシング)」を持つものです。映画『A.I』がそれを描いているんですけどね。どんどんAIが発達し、人間より賢いものを作ってしまったら恐怖かもしれません。


また『ジュラシック・パーク』はまさに最新テクノロジーを扱った作品ですが、そういった要素は非常にドラマが生まれると思います。要するに人間がテクノロジーを理解していると思っていても、コントロールできなくなってしまうというストーリーです。


あとは人間の身体をいじって機械をうめこんだり、サイボーグ的にしてしまうことも恐ろしいですね。ただ30年後、50年後を考えると当然そういうサイボーグ的なものも生まれてくんじゃないかなとは思っています。


でも一番恐れているのはスマートフォンですね。スマートフォンを使っている人々はいつも下を向いていて、目と目で向き合って話す機会をなくしてしまっていると思います。なので『レディプレイヤー1』で描くVRの中では、せめてアバター同士は目をみて会話をしています。現実世界ではないとしても、目と目が見つめ会っていることは、ただスマホをみている状況よりもいいかなと思います。


どれだけ作品の中で最新のテクノロジーを扱っていようと、コミュニケーションを大切にしていることは監督らしいと思えました。人と人(時には宇宙人や恐竜)との交流を描いてきた作品をみれば納得の回答です。

時間はあっという間に過ぎました。僕には英語がわかりませんが、監督が話している時のとても無邪気な姿が記憶に残ります。まるで空想が大好きだった少年がそのまま大人になったように。

帰り際、スタッフの方から「ずっとニヤニヤしていましたね」と言われ、少しこっぱずかしくなりました。帰りの足取りもずっとふわふわしていて、まるでなにが現実でなにが仮想現実なのかわからないような感覚でした。でもこれはまぎれもない現実で、僕は死ぬまでこの日の記憶を忘れることはないでしょう。そしてこの記事自体が、スピルバーグ監督との対面が現実だったという証になるのかもしれません。

いまこうしてメディアの仕事をしているのも、スピルバーグ監督が僕にコンテンツの与える「夢」を見せてくれたからなんじゃないかと思います。ギズモードでは最新テクノロジーを扱っていますが、そこにはいいニュースもあれば悪いニュースもあります。でも監督がいっていた通り、そういった要素がドラマを産むのです。人間はドラマを見せられることによって、感情を揺さぶられることがあります。それは一人の人生を変えてしまうことも可能です。僕がそうだったように。もしかしたら自分にも同じようなことができるんじゃないか、そんな想いを胸にいまも仕事をしています。

今回の取材を通して、子どもの頃の自分に「将来スピルバーグ監督と会えるんだぞ!」と言ったらどんな反応をするのだろう…なんて考えたりもしました。でも結末がわかっていると映画って面白くないですよね。物語には何が起こるかわからない、だからこそ夢があるんです。

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Photo: ギズモード・ジャパン編集部

映画『レディ・プレイヤー1』は4月20日(金)より、全国ロードショー中です。


Photo: ギズモード・ジャパン編集部
Image: (C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED
(K.Yoshioka)