情報流出の渦中にあるフェイスブック、意外な「好決算」の理由

フェイスブックが第1四半期の決算を発表した。ケンブリッジ・アナリティカによる8,700万人分のユーザーデータの不正入手の影響は完全には反映されていないが、今後はEUにおける一般データ保護規則(GDPR)の発効や、逆風下における収益性の向上といった大きな課題が立ちはだかる。
情報流出の渦中にあるフェイスブック、意外な「好決算」の理由
PHOTO: ALEX WONG/GETTY IMAGES

フェイスブックの決算発表を見て幹部の話を聞く限りでは、この会社が世界規模の大混乱の真っただ中にいるとはとても思えない。4月25日に公表された第1四半期(1〜3月)の売上高は119億6,600万ドル(約1.3兆円)、1株当たり利益(EPS)は1.69ドルだった。アクティヴユーザー数は月間で22億人、1日当たりでは14.5億人で、どちらも前年同期比13パーセント伸びている。

対象期間は3月末までの3カ月間なので、3月中旬に明らかになったケンブリッジ・アナリティカによる8,700万人分のユーザーデータの不正入手の影響は完全には反映されていないはずだ。この問題は「#deletefacebook」のようなアカウント削除を呼びかける運動、連邦政府による調査、最高経営責任者(CEO)マーク・ザッカーバーグの議会公聴会での証言といった事態を引き起こした。

フェイスブックはこれに対し、外部からのデータへのアクセス制限や、問題のあるコンテンツを確認するための人員の増員、プライヴァシー設定の簡素化とユーザー権限の強化といった措置を講じている。1月にはニュースフィードのアルゴリズムも変更しており、こうした動きによって収益が落ち込むとの見方もあった。しかし、ネガティヴな影響はほとんどなかったようだ。

ニューヨーク大学スターンスクール教授のスコット・ギャロウェイは、「フェイスブックが長期的にコストがかかるようなことをやるとは思えません」と言う。世間の信頼を取り戻すための一連の措置は「中途半端で、あるものは遅きに失し、あるものは不明確でした。実質的には何もしていないに等しく、さらに誰もそのことを気にしていないようです」

次々と明らかになる不祥事に腹を立てているユーザーは、その怒りを表明するためにTwitterとFacebookを使っている──。このようにギャロウェイは指摘する。

GDPRの影響は?

一方、彼方の空には怪しい雲がいくつか浮かんでいる。なかでもフェイスブックが特に懸念するのが、5月25日に発効する欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)だろう。

同社の最高財務責任者(CFO)デヴィッド・ウェーナーは、EUのユーザー数は「(GDPRの)結果として現状維持か、わずかに減少」するとの見方を示した。新しい規制に対応するため、ユーザーの行動を追跡するために同意を求める必要が出てくるからだ。

また、データ収集に制限がかけられることで、ターゲティング広告の成功率が下がることもあるかもしれないと認めている。しかし、ユーザーの減少が広告主の減少につながるという「最悪のシナリオ」については、その可能性を完全に否定した。

フェイスブックはユーザーの利用時間について話すことも拒否している。

ザッカーバーグは3カ月前、Facebookで費やされた時間は2017年第4四半期に約5パーセント落ち込んだと明らかにした。1日当たりに換算すると5,000万時間に相当する。市場調査会社ニールセンのデータによれば、消費者のデジタルメディアの利用時間に占めるFacebookの割合は減少している。

ザッカーバーグは今回の決算発表で、Facebookでの動画視聴時間が減っていることを認めながらも、コンテンツの共有とユーザー同士の交流は行われていると言いたかったようだ。彼は自社のオリジナル動画プラットフォーム「Watch」を引き合いに出している。Watchは受動的ではなく特定の動画を見るために主体的に利用されており、友人と一緒に視聴するなどの交流も行われている。このため広告主は、このプラットフォームでより熱心なユーザーを獲得することができるというのだ。

プライヴァシー管理の指針は地域ごとに変わる

業績が堅調だったことで、幹部のコメントも楽観的なものになった。最高執行責任者(COO)のシェリル・サンドバーグは、ケンブリッジ・アナリティカの事件を受けて一部顧客がFacebookから広告を引き揚げる決断を下したが、うち1社は考えを改めて広告を再開していると話している。

またサンドバーグによると、フェイスブックの経営陣は「GDPRは自社にまったく影響を及ぼさないない」と考えているらしい。GDPRを巡ってはすでに、世界中のユーザーに対してヨーロッパと同様のプライヴァシーの「コントロール」を提供するが、「保護」の中身については必ずしも同じにはならないとの見解を明らかにしている。

サンドバーグは、プライヴァシー管理のフォーマットは「地域ごとにローカライズする」ためヨーロッパとは異なり、結果としてユーザーへの対応は違うものになると述べた。また、GDPRの保護対象となる利用者の数を減らすために行なった欧州と北米を除く地域での利用規約の変更については言及していない。

サンドバーグの発言に関しては、「GDPRは広告業界全体に影響を与えるだろう」と繰り返し述べたときのほうが、はるかに説得力があった。フェイスブックの広告プラットフォームは、顧客に対して高い投資収益率を提供している。

予想に反する右肩上がりの成長

一方、ザッカーバーグは昨年11月、フェイスブックは大統領選への介入やフェイクニュース、有害コンテンツといった問題への対処に多額の資金を投じており、収益性は「著しく」低下するだろうとの見通しを示した。彼は投資家に対し、「これについては非常に真剣に考えています」と話している。しかし、今回の結果はCEOの予測に反するものだった。

フェイスブックは右肩上がりの成長を続けている。プライヴァシーやデータ保護を巡る動きは大きく報じられはしたが、収益力には影響がなかったようだ。

例えば1月には、ニュースフィードで家族や友人のコンテンツを上位に表示し、メディアが配信するコンテンツは優先度を下げるという改革が行われた。デジタル分野の市場調査会社eMarketerの市場予想担当副社長マーティン・ユートレリアスはこれについて、メディアは不利益を被るだろうが、ユーザーがコンテンツにより注意を向けるなら広告主にとってはプラスになると指摘する。

広告主はフェイスブックにとってみれば「金を払ってくれる」顧客だ。ニューヨーク大学のギャロウェイは、「運転免許を取得したばかりのティーンエイジャー」といった非常に具体的かつ小さいグループにターゲットを絞った広告を打つことができる点で、プラットフォームの力を無視することは難しいと話す。

ただティーンエイジャーに限った話をするならば、フェイスブックは今後、課題に直面するだろう。eMarketerの最新調査では、若年層はSnapchatのような競合サーヴィスに移りつつあることが明らかになっているからだ。ユートレリアスは「彼らがFacebookの利用を完全に止めるとは思いませんが、そこに費やす時間は減っていくでしょう」と言う。

ザッカーバーグが触れた「前進し続ける責任」

ザッカーバーグはフェイスブックの新しい目標になるらしいことにも触れた。自分たちは安全性の向上に大きく投資しているが、同時に人々をつなぐツールを構築するために「前進し続ける責任もある」というのだ。ザッカーバーグはフェイスブックが成し遂げたことを「誇りに思っている」と、3回口にした。

第1四半期の売上高の98.57パーセントは広告からのもので、広告収入は前年同期比50パーセント増加している。サンドバーグは収益を得るためのほかの方法も模索しているが、広告に注力する戦略は維持する方針を示した。「事業を軌道に乗せるには、まだやるべきことがたくさんあります」と彼女は言う。

例えば、600万件に上るFacebookでの広告顧客ベースをInstagramに誘導することが、そのひとつだ。Instagramの顧客ベースは200万件にとどまっている。そして将来的には、10億人以上のアクティヴユーザーを抱えるMessengerも収益化しなければならない。昨年から提供を開始した「click to Messenger」と呼ばれるMessengerでの会話を促す広告により、プラットフォームをまたいだ広告戦略が可能になっている。

サンドバーグはこうしたプラットフォーム間でのデータの共有が、GDPRで問題になる可能性があるかについては触れなかった。一方で、フェイスブックは広告があるために無料のサーヴィスを提供できるのだと強調する。

ただし、融通を利かせる余地はありそうだ。第1四半期の営業利益率は46パーセントと、1年前から5ポイント上昇した。


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TEXT BY NITASHA TIKU

EDITED BY CHIHIRO OKA