「Facebook消します」宣言が大拡散。マーク・ザッカーバーグの偽動画を作った男の話

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  • author そうこ
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「Facebook消します」宣言が大拡散。マーク・ザッカーバーグの偽動画を作った男の話
Image: Andrew Oleck/Video of the Internet

ジョークは、ジョークですまなかった。

数年前、映像制作をフリーで請け負っていたある男は、こう思いました。

世界中でバイラルするような動画作れないかなぁ

彼の名前はAndrew Oleck。今年の4月1日、エイプリルフール、彼は1本の動画を投稿。そして、あのとき描いた大拡散を体験することになったのです。

すでに見たことある人も多いと思いますが、Oleckさんが作ったのはアノ動画。『A World Without Facebook(Facebookのない世界)』と題し、Facebook(フェイスブック)のマーク・ザッカーバーグCEOが、フェイクニュースの存在を理由にFacebookを消すことを語る動画です。4月中旬頃までに、すでに視聴回数は3200万回、1500万人にリーチ、Facebookでのオリジナル投稿は4,200回以上もクリックされていました。まさに世界中でバイラルした大拡散動画となったわけです。でもこれ、フェイク動画

よくよく見ればわかりますが、口元がいつものザッカーバーグとはなんだか違います。声質も違います。それもそのはずで、声はOleckさんの声。口もOleckさんの口。Oleckさんが話す映像の口周りをソフトウェアAfter Effectsにてザッカーバーグの映像に合成しています。動画の元となったのは、昨年公開された、ザッカーバーグが選挙のロシア介入について語った動画。なので、そもそも、動画の画質も良くない。日頃からフェイクに気をはっている人ならば、動画の違和感にすぐ気づいたでしょう。気づかずとも、動画を最後まで見れば、風刺動画であることが書かれています。投稿された日付を見れば、エイプリルフールだというヒントもあります。でもね、多くの人が騙されました。Facebookを始めたザッカーバーグが、Facebookを消すと言っている! あまりにびっくりして、フェイクニュースを見極める判断材料は頭からすっ飛んでしまったのです。だって、「驚き」こそがニュース拡散において最大のエネルギーとなるんですもん。

6万件を超えるコメントには、Facebookのよさを語る人や、ソーシャルメディアのあり方を語る人、ザッカーバーグに思いを寄せる人が続出。

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Image: Facebook

これが本当なら、ザッカーバーグ尊敬する

Facebookを消しても、何も変わらないでしょう。他に似たサービスに人が移るだけ。インターネットがないとダメな時代なんだよ。プライバシーが心配なら、使わなきゃいいだけ

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Image: Facebook

Facebookが好き。今まで見たこともなかったものが観れるから。学び、シェアできる場所。Facebookが好き

本当に多くの人が、Oleckさんが作った動画を本物だと信じたのです。

大拡散には、彼の狙いとタイミングのよさもありました。米Gizmodoの取材にて、Oleckさんはこう語ってくれています。

世界の誰もが理解できるユニーバサルなネタで、みんながのっかってくるような動画を作りたかった

この動画は、今まで誰もやらなかったネタ。ザッカーバーグが、自分が作ったものが手に負えなくなったからやめると言いだすというもしもネタで、かなりウケると思った

エイプリルフールにポストして、すぐさま拡散したわけではありません。動画投稿後、ちょっと広告はだしたものの、それでも観覧数は10万回ほど。しかし、その後(4月10日と11日)ザッカーバーグは公聴会へ出席。このタイミングで、Oleckさんはもう1度、広告を打ちました。これが効きました。

結果、大!拡!散! Cambridge Analyticaスキャンダルからの公聴会、ネタもタイミングもドンピシャでした。

しかし、拡散を後押しした理由はほかにもあります。Oleckさんいわく、とあるリポストの後にトラフィックが激増したんだとか。それは、動画のリポストにチェーンメールのようなコメントが添えられたものでした。内容はこんな感じ。

こんにちは、マーク・ザッカーバーグです。噂は本当です、今後、Facebookは有料になります。ただ、友達リストから18人にこのメッセージを送ると、アイコンが青に変わり、引き続き無料で使うことができます。信じられないという人は、明日午後6時になればわかります。Facebookが非公開になり、再び公開するには有料登録が必要です。すべて、法律で定めるところによるものです

フェイクとフェイクの相乗効果ですね。公聴会で、ザッカーバーグがみずから有料版の可能性を示唆したこともあり、チェーンメールを信じた人も多かったのでしょう。さらに噂は広がり、動画をシェアしないとザッカーバーグがFacebookを消すらしいという話にまで。相乗効果のフェイクニュース、事実のタイミングのよさ、噂に尾ひれ背びれ、Oleckさんの動画を後押ししたものはたくさんありました。

もちろん、これは彼の意図したことではありません。拡散する動画を作りたい、Facebookが消えたらどうなるか考えてほしい。Oleckさんが考えたのはここまでです。まさか、多くの人がすっかり信じてしまうとは思いもしませんでした。

でもね、フェイクニュースってそういうことです。悪意のあるものも、ないものも、思いもよらないところで広まっていくのです。本当か嘘か? それを判断する以前に、一瞬の「驚き」で、人は拡散してしまうのです。だって、コンマ2秒のワンクリックでシェアできる世の中なんですもの。

ザッカーバーグだけじゃありませんよ。オバマ元大統領だって、フェイク動画盛りだくさん。フェイク動画を呼びかけるオバマ大統領のフェイク動画だってありますから。シェアできるうえに、ぱっと見ではわからない動画を作る技術だって広く、安価なものがあるんですもん。

Video: BuzzFeedVideo/YouTube

スクリーンを通せば、目に入るものがすべて嘘かもしれないなんて…。あぁそれに比べて、現実ってなんて「簡単」なんでしょう。


Image: Andrew Oleck/Video of the Internet
Source: Facebook, YouTube

Adam Clark Estes - Gizmodo US[原文
(そうこ)