Pinterestは検索結果に、静かに「ダイヴァーシティ」を融合しようとしている

Pinterestが美容関連の検索結果を肌の色のカラーチャートから絞り込める機能を追加した。一見すると地味にも思える機能だが、実は担当者らが「ダイヴァーシティの実現」という強い思いを抱き続けていたことが背景にあった。サーヴィスにひと知れずダイヴァーシティを融合しようと試みてきた人々の思いと、その試行錯誤を振り返る。
Pinterestは検索結果に、静かに「ダイヴァーシティ」を融合しようとしている
PHOTO: GETTY IMAGES

キャンディス・モーガンは16年にピンタレストに加わり、創設されたばかりのダイヴァーシティ・アンド・インクルージョン(D&I)部門のトップに就任した。当初のゴールは、社内で多様な人材の確保と活用を進めていくことだった。ピンタレストは女性とマイノリティーのエンジニアを積極的に採用するという高い目標を掲げ、モーガンはさまざまな経歴をもつ若手の人材を雇用するための技能研修プログラムを指揮した。

ところが、彼女は多様性を巡る別の問題に直面した。Pinterestのホームフィード画面には、レコメンデーションエンジンによって、これまでに保存した画像に似た画像が表示される。例えば、黒髪の黒人女性の髪型のアイデアなどだ。

しかし検索バーに「ヘアスタイル、アイデア」と入力すると、出てくるのはふんわりとしたウェーブのかかったロングヘアかエレガントなアップスタイルばかりで、しかもほとんどが白人女性の写真だった。

「わたしの髪質はコイル状のかなりきついウェーブがかかった『4C』と呼ばれるタイプのものです。自分にもできるヘアスタイルを見つけたいときは、この単語を追加しなければならないとわかりました。でも、そんなの間違っていると思ったんです」とモーガンは言う。

検索結果にも隠されていた偏見を解決する方法

検索エンジンは誰をユーザーとして想定すべきかという問題が、ネットの世界には存在する。ブラジルのミナス・ジェライス連邦大学の研究者たちは、GoogleとBingで「美しい女性(beautiful woman)」を検索すると、結果の上位80パーセントは白人女性の画像になることを発見した。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)でインフォマティクスを研究するサフィヤ・ウモジャ・ノーブルは、Googleで「黒人の女の子(black girls)」と入力すると、検索結果はほとんどがポルノ関連になるという事実に気づいてから、本を書き始めた。そして出版されたのが、『Algorithms of Oppression: How Search Engines Reinforce Racism』だ。

Pinterestでは、少なくともそこまで問題のある結果にはならないが、それでもヘアスタイルやメイク、ファッションといった分野で白人女性以外の写真を見つけたければ、特定のキーワードを付け足す必要がある。キーワードの数が多くなりすぎて、検索したいものがまったく見つからないこともあった。

モーガンは「“ピン”のデータベースをどのような角度から見れば、異なるグループに対応した内容の照合とラベル付けできるだろうかと考えました」と話す。

モーガンたちはその答えを導き出した。検索結果を肌の色で絞り込むのだ。例えば「オレンジ色の口紅」など美容関連の検索単語を入力すると、肌の色合いの選択肢が表示される。どれかを選べば、その色合いに合わせた結果のみが表示されるというわけだ。

検索キーワードを入力するスペースの下に、カラーチャートが表示されているのがわかる。PHOTOGRAPH COURTESY OF PINTEREST

ユーザーの大半は気づかないかもしれない小さな機能だが、モーガンやほかの従業員たちはPinterestに多様性をもたらす第一歩だと考えている。チームは独自のスキントーンチャートを作成してアルゴリズムを開発するのに、何カ月もの時間を費やした。すべてはより多くのユーザーが、自分の肌の色に合ったピンを簡単に見つけられるようにするためだ。

分類法にまつわる試行錯誤

彼らはこの機能によって強いメッセージを発信したいと考えている。肌の色が違うという理由でPinterestでの検索が複雑になるべきではないし、「オレンジの口紅」は白人にしか似合わないことは決してないのだ。

肌の色合いの分類は、「明るい」から「暗い」まで何段階かに分けた大まかなカテゴリーにまとめられることが多い。ドイツの人類学者フェリックス・フォン・ルシャンは、肌色をガラスのタイルの色と比較することで36種類に分類した。

フィッツパトリック分類と呼ばれる別の方法は、肌が紫外線にどのように反応するかに基づいて、カテゴリーを6つに減らした(最近は一部の絵文字で肌の色を変えることができるが、そこで使われている6色はこの肌色分類によるものだ)。

フォン・ルシャンのスケールは、のちに戦前のドイツで行われた優生学に基づく強制不妊手術において、「白人」と「非白人」を区別する手段のひとつとして使われた。この歴史はモーガンを震え上がらせたという。「これは絶対に使わないと決めました」と彼女は言う。

それでも、80億個に上る美容関係のピンを分類する方法が必要だった。プロジェクトが始まったばかりのころ、ブラジルの写真家アンジェリカ・ダスが何百人もの人を撮影し、彼らの肌の色をパントン(Pantone)の色見本で表した作品を見つけた。ほかの分類法とは違い、ダスの作品では肌の色合いは民族から切り離されている。例えば「51-6 C」は、金髪の小さな男の子にも、人種が異なる親をもつアフロヘアの女性にも当てはまる色だった。

ピンタレストで質的なユーザーエクスペリエンスを評価するラーキン・ブラウンは、「肌の色を剥がれたペンキのかけらのように見るようになりました」と言う。「そしてパントンの色見本は使わないとしても、肌の色をデジタル値に変換する方法はあるかもしれないと考えたのです」

たどり着いたのは生物学的な分類法

モーガンのチームは肌を「明るい」から「暗い」までのグラデーションでとらえるのではなく、その色を構成する生物学的な要素について考えることにした。明暗はメラニンという色素で決まる。赤みと黄色っぽさは、それぞれヘモグロビンとカロチンの影響だ。これらの要素は、色を「明暗」「緑から赤」「青から黄」という3つの要素で決めるデジタルの世界と親和性があった。

チームはPinterestのデータベースにある顔を、黒人や白人、アジア系かラテン系かといった区分ではなく、色のデジタル値で分析した。16色のカラーチャートが出来上がると、拡張現実(AR)技術を使った化粧品関連アプリを手掛けるModifaceに依頼して、肌の色合いをこのカラーチャートに当てはめるための機械学習システムを構築した。

ほかの機械学習システムと同様に、このシステムも完璧ではない。ピンタレストのエンジニアは、システムが影や明るい光による影響を理解するだけでなく、肌の色合いのカテゴリーを人種と混同しないようにトレーニングした。

また、カラーチャートを使った絞り込み検索の履歴を保存しないことも徹底した。予測に基づくフィルタリングを自動的に適用してしまうことで、ユーザーが気味の悪い思いをするのを避けるためだ。

これには実用的な側面もあるが(間違ったフィルタリングをかけてしまうとユーザーが探しているピンが表示されず、サーヴィスが役に立たなくなってしまうからだ)、同時にプライヴァシーに配慮した措置でもある。何気なくアイシャドウを検索したらユーザーの人種や民族といった個人情報がどこかに保存され、将来的に利用される可能性は大いにあるからだ。ピンタレストはカラーチャートを使った検索の履歴をサイトが保存したり、ターゲット広告に使うといったことは絶対にしないと明言している。

カラーチャートは美容関連の単語を入力した場合のみ、検索バーのすぐ下に表示される。例えば「メイク、アイディア」と検索すると、「検索結果を絞り込むために肌の色合いを選んでください」と言われ、化粧品のパレットようなデザインの丸いアイコンが4つ示される。それぞれのアイコンには色味の近い4つの色が含まれており、16色のうちどれかを選ぶと、選んだ肌色の画像に絞り込んだ結果が出てくる。

少なくとも、理論的にはそうなるはずだ。実際に試してみると、「大胆なメイク」や「整形メイク」といった抽象的な検索ではうまくいくが、逆により細かい検索だと不十分なことが多い。「猫目アイライン」で検索すると、カラーチャートを適用しない場合はピンが何千個もあるのに、最も暗い肌色で絞り込むと8個しか残らない。黒人女性の写真はそのうち2枚だけだ。

現在のところ、最も暗い色を集めた4つ目のパレットより、最初の3つのパレットに関連づけられているピンの数のほうが多いようだ。これは、特定の肌の色の画像を見つけたいとき、カラーチャートで絞り込むよりは、「オレンジ色の口紅、黒い肌」と検索単語をいくつか追加するほうが簡単な場合があるということを意味する。

検索ツールを増やしても解決しない問題

ピンタレストは機械学習システムの改良が進むにつれ、すべての肌の色合いについてより多くの検索結果が表示さるようになると期待している。色によるフィルタリング機能を追加したのは、コンテンツを検索するときのバリアをなくすためだ。

しかし現時点では、絞り込みのミスによって意図しない結果が表示される場合もある。逆に検索結果がひとつもないと、新しいツールはきちんと機能しているのどうか疑問に感じてしまう。

要するに、検索ツールを増やしてもネットの多様性を巡る問題は解決されないのだ。ピンタレストはそれでも努力を続けている。同社で働くオマール・セヤルは、「Pinterestの検索は現段階では本来そうあるべきところまではたどり着いていません。しかし、理想に近づくための第一歩を踏み出したのです」と話す。

「美容関連のコンテンツは存在しますし、ユーザーはカラーチャートを使った絞り込みで、欲しいデータを簡単に見つけることができるようになりました。次のステップは、ユーザーがどんなピンを探すときにこのカラーチャートを使っているか知ることです。最終的には、該当するピンをもっと目立つ場所にもっていきたいと考えています」

忍耐はピンタレストの社風のひとつだ。彼らはこの美徳により、シリコンヴァレーのほかのテック企業とは一線を画している。素早く行動したり、何かを打ち負かしたりするのではなく、新しいツールをリリースするときも静かにやる。前からあった機能かと勘違いしてしまうほどだ。

肌の色によるフィルタリングもそうで、ユーザーの多くは気づきすらしない可能性もある。気づいた人は、ほんの少しだが便利になったと感じるかもしれない。

ピンタレストはそれでいいと思っている。この会社はできない約束はしない(ただし、「マーサ・スチュワートみたいに素敵な料理をつくれる」というレシピのピンには要注意だ)。モーガンが言ったように、これは異なる肌の色や体型、障害をもつ人、さまざまな年齢層などありとあらゆるものを見せることで、Pinterestというプラットフォームにより完璧な多様性をもたらすための長い旅路のほんの始まりでしかない。

問題は複雑だが、今回のアップデートにより、誰もが自分にはどんな色味のオレンジ色の口紅が似合うか検索できるようになった。多様性の実現に向けた確実な一歩だといえるだろう。


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TEXT BY ARIELLE PARDES

EDITED BY CHIHIRO OKA