ネット広告にも「#MeToo」の波──不適切コンテンツの排除に動いたアドテク企業の思惑

「#MeToo」ムーヴメントを受けて、インターネット広告業界が動き始めた。不適切なネット広告やコンテンツの排除にアドテクノロジー企業が動き始めたのだ。その変心の背景と、これまで以上に重視されるようになってきた広告会社やパブリッシャーの責任について考える。
ネット広告にも「MeToo」の波──不適切コンテンツの排除に動いたアドテク企業の思惑
PHOTO: GETTY IMAGES/WIRED US

性的な有害コンテンツなどの監視を行う非営利団体(NPO)「National Center on Sexual Exploitation(NCOSE、全米性的搾取センター)」は16年、Revcontentという名のアドテクノロジー企業に書簡を送った。プラットフォーム上のコンテンツの一部で、女性の描き方に問題があったからだ。

例えば、メールオーダーブライド[編註:途上国などの女性との結婚仲介業]の広告や女性の胸を強調した画像が定期的に出てきた。NCOSEのヘイリー・ハルヴァーソンは、「Revcontentはレコメンドサーヴィスで急成長する企業でした」と言う。「ですから、ここから始めようと思ったのです」

1年半が経ったが、反応はまったくなかった。

ところが昨秋、Revcontentの創業者で最高経営責任者(CEO)のジョン・レンプから連絡があった。性的な観点から問題のある広告を減らすために何をすべきか、相談に乗って欲しいというのだ。フロリダのアドテク企業にとってさえ、時代は変わったのである。

アドテク企業が変心した理由

レンプは突然の方針転換について、2人目の娘が生まれたことがきっかけになったと説明した。また「#MeToo」の影響も大きいという。もちろんこうした背景もあるだろうが、Revcontentが自社プラットフォームをクリーンな場所に変えようとしているのには、しかるべきビジネス上の理由がある。

大企業はウェブ上で、自分たちのブランドの近くに表示されるものに非常に神経質になっている。胸の谷間の写真を排除すれば、営業のチャンスが生まれるのだ。

だからこそ、レンプはハルヴァーソンに自分たちのビジネスがどう機能するのか説明したうえで、女性を不当に扱い貶めている広告の判断基準を教えてくれるよう頼むことにした。そのために、フロリダ州サラソータの本社まで来てもらうことに決めたのだ。

コンテンツ広告ネットワークは、ウェブのなかでも最も深い部分に位置している。ニッチな業界で市場調査もあまり行われていないため、どこが大手なのかを知るのは困難だが、少なくとも数十の企業が存在するという。有名なのはOutbrainとTaboolaだが、Revcontentも急速にシェアを伸ばしている。

パブリッシャー向けプラットフォームのPolarは、この分野の市場規模は20年までに36億ドルに達するとの見通しを示した。これらの企業は『Fast Company』や『TIME』といったパブリッシャーのサイトに、ネイティヴ広告であることを示すバナーの付いたスポンサー広告を出している(ちなみに『WIRED』US版はOutbrainと契約している)。

拡散手法は、より過激化

この種のコンテンツマーケティングにはすべて、多かれ少なかれ閲覧者をだます意図がある。いかにも本物らしい見た目で、たいていは「10代の女の子が自分の写真を間違った相手に送信」「トム・セレックが私生活を暴露」といった派手な見出しが付いている。

広告主は、ページヴューを稼ぐために記事を拡散させようとするメディア企業の場合もあり、メディア業界とは無関係な企業が自社商品の宣伝をコンテンツ記事のように見せかけて配信していることもある。メーガン・マークルのニキビについての見出しをクリックするとスキンケア広告に飛ばされたような経験は、誰にでもあるはずだ。利益は通常、レコメンドサーヴィス企業と広告を出したパブリッシャーとで分け合う形になる。

広告業界では、フェイブスックやグーグルといったネット大手と競うためビジネスモデルや契約内容の見直しが行われ、パブリッシャーたちはアドネットワークからの収入に大きく依存するようになっている。ただ、競争は激化しており、ネットワーク企業は消費者を広告コンテンツに誘導するために極端な手法をとることも多い。

例えば、フェイクニュースサイトの「InfoWars」で見かけたRevcontentの埋め込み広告には、「ヒトのDNAに神からの警告が発見される」「マリア・オバマが最悪の新車を購入」といった見出しが躍っていた。

ここで大きな問題が生じる。アドネットワーク企業はクリックを誘発するために、ネットの最もセンセーショナルで乱暴な側面を利用している。こうしたやり方はフェイクニュースの拡散を助長しているとして、16年の後半ころから批判にさらされるようになった。

アドネットワーク企業の責任

フェイスブックとグーグルは、自社プラットフォームからプロパガンダのような問題のあるコンテンツを削除するための措置を講じると明らかにした。だが、「NationalReport.net」や「TheRightists.com」といったフェイクニュースサイトは、コンテンツ拡散のためにアドネットワークを使い続けた。

ネットワーク側はパブリッシングパートナーのガイドラインを厳格にし、広告主の選別を強化したが、問題のあるコンテンツを含む広告ウィジェットは網の目をくぐり抜けてしまう。今年2月にフロリダ州パークランドの高校で起きた銃乱射事件のあと、InfoWarsの運営者アレックス・ジョーンズが「銃規制を訴える高校生の活動家は俳優だ」との内容の動画を投稿し、世間の注目を浴びた。

TaboolaとRevcontentはどちらもInfoWarsと契約しており、Taboolaはこの問題を受けて広告を引き揚げたが、Revcontentの広告は4月2日時点ではそのままになっている。Revcontentはこれについて、どのコンテンツを削除すべきか判断するため、独立した組織と協力していく方針だと述べている。

社会的な非難が強まるなか、アドネットワーク企業はIT大手と同じ難題に取り組む必要がある。どのパブリッシャーと提携するか、また自社のコンテンツ広告モジュールに表示する内容をどのようにして選ぶかといったことだ。

誤解を与えるような問題のある情報なのか、それとも極端な見方ではあるが単なる意見を述べたコンテンツなのかは、どのように判断すればいいのだろう。大量のコンテンツを扱わなければならないとき、両者の違いを見抜くのは非常に難しい。

TaboolaのCEOであるアダム・シンゴルダは16年に投稿したブログポストで、「ある人は気にしなくても、別の人は不適切だと考えるコンテンツがあります。“グレー”なエリアだと言えるでしょう」と書いている。

不適切な広告コンテンツの排除が始まった

そうかもしれない。ただ、大手企業が自社広告と並んで表示される情報の内容に、非常に気を遣うようになっていることは確かだ。不適切と思われるコンテンツは、あらゆる種類のものがアウトなのである。

デジタルマーケティングを扱う『Digiday』と広告画像サーヴィスGumGumが最近行なった調査によると、自社広告がヘイトスピーチの横に掲載されることに懸念を示した企業は3分の1を超えた。性的なコンテンツについては、17パーセントが難色を示している。

アドネットワーク業界でもフェイクニュースの排除が始まっており、グレーゾーンにより踏み込んだ取り組みが行われている。例えば、女性の描写が不適切な広告は取り締まられるようになった。

シンゴルダは「わたしたちは10万通りの方法でインターネットを掃除していく」と題した3月28日付の記事で、Taboolaは10万本の性的で不快な広告を削除したと述べた。彼は「この措置により今年の売上高は数百万ドル落ち込む見通しですが、間違いなくその価値はあります」と書いている。現在は30人体制でコンテンツのレヴューをしており、年内に15人を追加雇用するという。

また「いやらしい」と思ったコンテンツは報告できるシステムも導入した。シンゴルダもRevcontentのレンプと同様に、自分が父親になったことがこうした決断につながったと話している。

大手企業へも広がる影響

ただ問題は、性的で不快という判断基準は、ポルノと比べてはるかに主観的だという点にある。Googleで「いやらしい(racy)」という単語を検索すると 最初に出てくる定義は「活発な。娯楽的な。一般的には控えめだが性的な刺激がある」となっている。

セックスに(少なくとも偽の陰謀説と同程度には)需要があるなかで、被写体を不当に扱っていない、まったく恥じることのない公明正大な画像とはどんなものなのだろう。その答えを見つけるのはかなり難しい。

レンプは自分にはこの問いに答えを出す資格はないと考え、ハルヴァーソンに助けを求めた。NCOSEは1962年からポルノ産業と戦っており、「適切なもの」の基準はかなり厳しい。過去にはウォルマートのレジ付近の棚から女性誌『コスモポリタン』を取り除いたり、ハイアットやヒルトンといった大型ホテルチェーンのVOD(ヴィデオオンデマンド)システムからポルノをなくすといった実績を積んできた。

Revcontentのコンプライアンスチームとのミーティングで広告審査がどのように行われているか学んだあとで、ハルヴァーソンはいくつかの提案をした。審査には画像解析システムが使われ、問題になりそうな広告をレヴューする人員もいたが、ハルヴァーソンはまず、メールオーダーブライドの広告をすべて排除するよう求めた。彼女は「これは売春とほとんど変わりません」と言う。

また、画像と見出しの関連性にも注意するよう促している。例えば、「メラニア・トランプがファーストレディにふさわしいか疑いたくなる35枚の写真」という見出しの記事があったが、むき出しの肩と胸だけをトリミングした写真が使われていた。ハルヴァーソンによれば、こうした類のコンテンツは公開されるべきではない。

性的に問題のあるコンテンツを排除する努力が身を結び、Revcontentは3月にNCOSEの認証ステータスを獲得した。ハルヴァーソンは近いうちに、TaboolaとOutbrainにも書簡を送る計画で、同じような結果が出ることを期待しているという。

ただ、アドネットワークが改善しても、そのパブリッシングパートナーが生み出す記事をコントロールすることはできない。Revcontentでブランドマネージャーになったばかりのチャーリー・テレンツィオと話していたときにも、胸元が大きく開いたタンクトップにホットパンツで、足を挑発的に広げた女性の写真が出てきた。

どうしてこんなものが審査をくぐり抜けることができたのかと尋ねると、テレンツィオはこれはパブリッシャーが別のアドテク製品を使った結果だと説明してくれた。つまり、Revcontentは自社と契約している広告主しか管理できないということだ。

もしパブリッシャーが女性の猥褻な写真を使うことを選ぶなら、どうしようもないのである。


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TEXT BY JESSI HEMPEL

EDITED BY CHIHIRO OKA