ネットの自由を守り、無法地帯にしないために――NTTグループがブロッキングを決断した理由

» 2018年05月11日 20時30分 公開
[井上翔ITmedia]

 昨今、世間をにぎわせているマンガや動画の「海賊版(無断転載)」サイト。この問題に対し、政府は特定の3サイトを名指ししてサイトブロッキング(接続遮断)することを、ネット接続事業者などに要請する方針を示した。

 これに対し、ネット接続サービスを提供するNTTグループ3社(NTTコミュニケーションズ・NTTドコモ・NTTぷらら)は、海賊版サイトに対するブロッキングの準備を行うことを連名で発表した。

 過去の記事でも述べた通り、サイトブロッキングは日本国憲法第21条第2項、あるいは電気通信事業法第3条・第4条に違反する可能性があり、ブロッキングを実行する側(ここではNTTグループ3社)が訴訟提起のリスクを負う。少なくとも、立法または司法判断を経て実施すべきことである。

 5月11日、NTT(日本電信電話)とNTTコミュニケーションズが2017年度通期決算説明会を開催した。その質疑応答で、NTTの鵜浦博夫社長とNTTコミュニケーションズの庄司哲也社長がブロッキング方針に対する質問に答えた。

NTT:ネットの自由を守り、無法地帯にしないために取り組んだ

―― 4月下旬に、NTTグループが海賊版サイトに対するブロッキングを行う旨を表明した。

 政府は「ブロッキングが適当」としつつも判断を事業者に委ねるという形とした上、対象の(名指しされた)3サイトは事実上閉鎖されている。

 経営判断上「ブロッキングを実施しない」という選択肢もあったと思うが、あえてブロッキングすると発表したのはどのような考え、あるいは信念に基づくものなのか。(ブロッキング方針の発表を通して)社会にどのような議論を喚起したかったのか。

鵜浦社長 (ブロッキングに関しては)質問がなければ、能動的に話そうと思っていた。ありがとうございます。皆さんにとっては、私たちの発表が唐突に映ったと思う。この点については反省している。

 実は、海賊版サイトを巡って、著作権者と出版社を通して、去年(2017年)10月に「NTTを訴えても良いか?」という相談を受けていた。「NTTがある種の権利侵害をしている」として訴訟を提起することでメディアの皆さんに注意喚起を図ってもらいたいと考えたようだ。「差し止め請求」風なもの、あるいは「NTTの不作為による損害に対する賠償請求」を検討していたようだ。この後、我々の法務部門も延々と(取れる対策を)議論してきた。(訴訟が提起された場合)裁判所としてもなかなか難しいテーマだったと思う。

 ネット社会の「自由」や「オープン性」を守るために、ネットのある意味での「無法地帯状態」を放置しておきたくない。何らかの形で(海賊版サイトに対する)取り組みをやりたいという強い思いがあった。

 そんな中、別の動きとして、著作権団体の要請もあって、政府の知的財産戦略本部が(海賊版サイトへの)対策を検討し始めた。我々はその検討を横目で見ながら、コンテンツを作る人たちが、新しいコンテンツを作るインセンティブを維持できるネット社会であるべきだという思いの中で、さまざまな(海賊版対策の)準備を進めてきた。

 ニュースリリースにも書いた通り、基本的には(海賊版対策の)枠組みを国には整備してほしいし、ネットでビジネスをする者としての自主的な取り組みを(法律的な)疑義のない形でやれるようなものにしたいという強い思いがある。

 今回、ネット社会において私はやや「悪者」になっているようではあるが、無法状態を放置したくないという思いと、いくつかの準備をしてきた所でもあるので、あのような形でリリースをさせていただいた。

 確かに、(政府が名指しした)当該サイトは現在閉じた状態にある。しかし、それで不法行為が清算できた訳ではないと私は思う。私も政府の「検閲」といった行為は大嫌いだが、今後ともこのような行為が繰り返されるのを防止し、(著作権侵害の)被害の拡大を防ぎ、コンテンツを作る人たちのインセンティブのためにも、何らかの形で取り組みを“宣言”する必要があると考えた。

 そのような意味では、会議で3サイトを「認定」していただき、政府が「やれ」という命令なら我々も変だとは思うが、自主的な取り組みを促していただいたということは、(海賊版対策を行う)必要最低限の条件が整ったと認識したので、あのような形の発表となった。

 私の気持ち、NTTグループの思いを知ってもらいたいと思い申し上げた。ネットの自由を守るために、ネットを無法地帯にしないようにするために、こういった取り組みも必要であると思い、実施することにしている。

 「いたちごっこだからやっても無駄だ」という声もあるが、犯罪行為を放置して良いとは思っていない。やっても無駄かもしれない。それでも(海賊版対策を)やるという強い意志を持つことが大変重要であると考えている。

 少し長くなったが、私の話したかったことは以上だ。

鵜浦博夫社長 NTT社長として最後の決算会見に臨む鵜浦博夫氏

NTT Com:インターネットやコンテンツビジネスを健全に発展させる

―― 先ほどのNTTの会見で、サイトブロッキングの質疑があった。御社と子会社のNTTぷららはブロッキングを実施する“当事者”となる。

 その手法に対して、既に訴訟を提起しようという動きが複数あり、実際に御社を訴えたという弁護士もいる(参考記事)。このような法的リスクについてどう捉えているか、考えを伺いたい。

庄司社長 持株(NTT)の鵜浦(社長)の言う通り、インターネット、あるいは(インターネット上の)コンテンツビジネスを健全に発展させるために、事業者として我々が何をできるのか考えた末に、このような(ブロッキングをするという)判断をした。

 訴訟をするという話があるということは把握しているが、訴状をまだ受け取っていないので、それがどういう訴えなのかはコメントする立場にない。いずれにしても、会社として責任をもって対応することには変わりない。

 これも鵜浦が言っていたと思うが、我々は常に(海賊版対策のあり方)を考えてきた。去年10月、あるコンテンツ事業者が「我々(NTTコミュニケーションズ)の提供しているサイトに権利保護の観点で不作為があるのではないか」ということで訴訟の準備を進めていた。このような実態もある。

 事業者として何を守り、何を運営しているのかと考えた時に、我々も、(兄弟会社の)ドコモも、(子会社の)ぷららも、コンテンツを作っている人を守り、健全なビジネスとしてそれ(コンテンツ)を流通させる基盤やサービスを担っている

 そのような事業者として、4月13日(の政府の緊急対策案)に出たようなサイト(へのアクセスは)ブロックするのが適切だろうと判断した。

庄司哲也社長 NTTコミュニケーションズの庄司哲也社長

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