あのボストン・ダイナミクスの“ロボット犬”、来年の発売に向けた進化の裏側(動画あり)

ボストン・ダイナミクスの四足歩行ロボット「SpotMini(スポットミニ)」が2019年に発売されることが明らかになった。これまでにも犬のように歩き回ったり、ドアを開けたりする動画が話題になってきたこのロボット。今回は発売に向け、いかなる進化を遂げたのか。動画とともに解説しよう。
あのボストン・ダイナミクスの“ロボット犬”、来年の発売に向けた進化の裏側(動画あり)
PHOTO: BOSTON DYNAMICS/NEWSCOM/AFLO

ボストン・ダイナミクスの四足歩行ロボット「SpotMini(スポットミニ)」にとって、それは大変な2日間だった。SpotMiniは5月10日(米国時間)、一見すると何てことはない新しい動画に登場した。少なくとも、同社が最近発表したほかの動画に比べれば、の話である。

このロボットは仲間のためにドアを開けることも、ホッケースティックを振り回して攻撃してくる人を追い払ったりもしなかった。ただ廊下をぶらぶら歩いて、出入り口を通り抜け、階段を登っただけだ。

しかしその短い道のりには、このロボット犬についての気になる“秘密”が隠されている。

背中にはオプションを装着可能に

11日のカンファレンス「TC Sessions: Robotics」に登壇したボストン・ダイナミクス創業者のマーク・レイバートは、SpotMiniを市場に投入することを明らかにした。それも、もうすぐだ。同社は今年後半に100体の生産を計画している。

「さらに生産台数を増やしてくための準備段階にあります」と、レイバートは語った。「来年の半ばには増産できると考えています」

彼は価格を明かすことはしなかったものの、最新の動画に登場するマシンは従来モデルの約10分の1の価格になるとしている。「価格はさらに抑えていけると思います」と、レイバートは話している。

ボストン・ダイナミクスは、これまで研究開発に重点を置いてきた。だからと言って、消費者がSpotMiniに何を求めているかを同社が考えてこなかったわけではない。

まず第一に購入者は、手もちハードウェアをSpotMiniの背中にマウントできるという。さらにボストン・ダイナミクスは、独自の追加パッケージの開発にも取り組んでいる。「例えば、背部にマウントできる特殊なカメラを備えた監視パッケージを用意しています」と、レイバートは語る。

それでは、仲間のためにドアを開けるために使った、あの有名なアームは? これは取り外し可能な追加オプションになるそうだ。

LiDARを用いないシステム

新しい動画は特に、ボストン・ダイナミクスがいかにSpotMiniに自律的に行動させようとしているのかを説明してくれる。動画の説明によると、操作者はまず手動でロボットに周囲を歩かせる。このときマシンは、その両側、前、後ろのカメラで周囲の状況を把握している。

そして解き放たれたSpotMiniは、自分の位置を把握するために記録された視覚データを利用する。自律走行車のメーカーは、これとほぼ同じ仕組みでクルマを動かしている。

一般的に自律走行車は、レーダーの一種である「LiDAR(ライダー)」を用いてルートを作成する。LiDARは、道や木などにレーザー光を照射し、周囲の立体モデルをつくる技術だ。それによってロボットカーは、周りの環境を詳細まで把握できる。

これに対してSpotMiniは、代わりにステレオカメラを用いている。SpotMiniには、多くのロボットには欠かせないLiDARが搭載されていないと、ボストン・ダイナミクスは認めている。

上の動画の、ちょうど1分くらいシーンを観てみよう。左下に表示されている「Obstacle Avoidance Data(障害物回避データ)」の表示に気づいただろうか。

「これはステレオ・ポイント・クラウド(ステレオカメラが生成した点群)による占有格子地図のようです」と、マーブルの共同創業者でソフトウェア部門を率いるケヴィン・ピーターソンは言う。マーブルでは自律型の配達ロボットを開発している。「これはあなたの目のように、2つのカメラが並んだ状態からつくられています」

こうして立体的な視覚を得ることで、LiDARを用いたシステムと比べて高い視覚解像度をロボットに与えられるという。LiDARのほうが優れている点もある。とらえる範囲はより広く、明るい環境では光学式カメラより力を発揮する。

しかし、「この動画で興味深いのは、ロボットがかなり明るい日中に屋内外を動いていることです」と、ピーターソンは言う。「つまり彼らのステレオシステムは、相当に明るい状態で作動しているということです」

世界を歩き回る「完璧な手段」

実はSpotMiniの前身である「Spot」は、LiDARを用いていた。だが、この小型モデルがLiDARを捨て、ステレオカメラを採用したのはもっともな話だ。「これほど小さなボディでは、LiDARを使うのは困難です。重さも消費電力も増えてしまいますから」と、ピーターソンは言う。「要するに、そんなものは背負わせたくないのです」

こうしてSpotMiniは、わたしたちに近い仕組みで世界を“見る”ことになった(人間が眼球からレーザー光線を出し始めたりしない限り、である)。そしてほかのロボットメーカーは、カメラだけで最新のロボットが世界を動き回れる方法を模索している。これらは進化するロボットを自律的に動かすうえで、消費電力と重さの両面でエネルギー効率のよい方法なのだ。

「この動画からは、SpotMiniが世界を歩き回る手段を完璧なものにしようとしている様子が見てとれます」と、ピーターソンは言う。「そのため彼らは、この世界のことを理解する必要があるのです」

そしてそれは、うまくいっているようだ。SpotMiniを現実世界に送り出すまで、ボストン・ダイナミクスはあと一歩のところに来ている。ただ今回は、ホッケースティックなど必要ないだろう。


ボストン・ダイナミクスの“ロボット犬”、その進化の歴史


TEXT BY MATT SIMON