高学力だけでは不十分な時代に求められる「教育とスキル」は何か

教育の成果を最大化するには

もはや高学力だけでは不十分な時代

今日の米国では、中産階級が没落し、貧困層と富裕層の二極化が進んでいる。

なぜ二極化が進んでいるのか? そのカギはスキル偏向型の経済成長にある。

スキル偏向型の経済成長とはどのようなものであるのか、それはスキル別に雇用量の変化を分析した研究が示す下の図1が雄弁に物語っている。

青線が示すように80年代には貧困層が従事するような、それほどスキルが必要とされない仕事の数が減少する一方で、中産階級が従事するような中程度のスキルが必要とされる仕事の数は増加していた。

しかし、時代を経るごとに低スキルの雇用口は増加する一方で、中程度のスキルが必要とされる雇用口は減少していった。

21世紀に入ると緑線が示すように、賃金の低い低スキルの雇用口が増加する一方で、中程度のスキルが必要とされる雇用が幅広く減少。そして、高いスキルが必要とされる雇用の数は、堅調に増加し続けている。

 

このような低賃金と高賃金の雇用口が増加し、中産階級を支える雇用口が減少するというスキル偏向型の経済成長が発生しているのはなぜか? その原因には、移民の流入や途上国への職の流出など諸説あるが、機械化の進展も有力視されている。

機械化の進展は、これまで中産階級に属する人たちが従事していた中程度のスキルが必要とされる仕事の雇用を機械に置き換える一方、高いスキルを必要とする仕事においてはその補助となり、生産性をより高める役割を担っている。

そして、機械化の進展でより豊かになった層の旺盛な消費に応えるために低スキルの仕事に対する需要が高まっている、といった具合である。

〔PHOTO〕iStock

しかし、この議論で今一つ不明瞭な所は、同じスキルレベルの中でも、どのような仕事・どのような人が機械化によって雇用が奪われやすい・賃金が伸び悩むのかという点である。

この点に、学力(数学)とソーシャルスキル(社会技能)の組み合わせから切り込んだのが、昨年掲載されたハーバード大学のデミング教授の論文である。

結論を先に述べると、もはや高学力だけでは不十分で、高いソーシャルスキルが求められる職種でこそ雇用も賃金も伸びている社会に突入しつつあるというものである。

そこで、件の論文を紐解くことでソーシャルスキルについて解説しつつ、ソーシャルスキルの重要性が高まりつつある社会で、今後どのような教育政策が求められるのかを議論したい。

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