38分周期で公転するX線パルサー連星

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国際宇宙ステーションに設置されている中性子星観測装置「NICER」による観測データの解析から、ミリ秒X線パルサーと白色矮星からなる連星が38分周期で互いの周りを回っていることがわかった。この種の連星系としては観測史上最短の周期だ。

【2018年5月15日 NASA

NASAゴダード宇宙飛行センターのTod Strohmayerさんたちの研究チームは、さいだん座の方向に位置する「IGR J17062-6143」(以降J17062)というパルサーについて、2017年6月に国際宇宙ステーションに設置された中性子星観測装置「NICER(Neutron star Interior Composition Explorer)」の観測データを解析した。

パルサーとは高速で自転する中性子星である。NASAのX線観測衛星「RXTE(Rossi X-ray Timing Explorer)」による2008年の観測で、J17062は1秒に163回、つまり1分間に約9800回も自転していることが知られていた。しかしこのときには、J17062を含む連星系の公転周期までははっきりとはわかっていなかった。

データ解析から、J17062連星系の公転周期が38分であることが突き止められた。これは物質降着が起こっているミリ秒X線パルサーを含む連星系としては観測史上最短の記録である。「公転運動によって私たちからパルサーまでの距離がわずかに変化し、それによってX線が私たちに届くのにかかる時間も伸び縮みします。その差はわずか1000分の8秒しかありませんが、NICERはそれを検出できるのです」(Strohmayerさん)。

また、J17062とペアをなす相手の星は白色矮星で、2天体の間は30万kmしか離れていないらしいこともわかった。地球から月までの距離(約38万km)よりも短い距離だ。「太陽のような星は大きすぎますから、パルサーの伴星ではありえません」(Strohmayerさん)。

J17062連星系ではパルサーの強い重力によって白色矮星から物質がはぎ取られ、物質はJ17062の周囲の降着円盤へと集まる。円盤の物質は回転しながらパルサーへと落ち込んでいくが、中性子星の磁場が強いため、物質は磁場に沿って磁極へ向かい、そこでホットスポット(明るい場所)が形成される。このホットスポットがNICERの視野に出入りすることで、X線の変動が観測されることになる。

パルサーに降り積もった物質の量が多くなりすぎると、圧力が高くなって熱核暴走反応が起こりパルサーの表面で激しい爆発が生じる。これまでにJ17062でも1回、突発的な大爆発からのX線が検出されている。

「IGR J17062-6143」連星系の様子を描いたアニメーション。白色矮星からはぎ取られた物質がパルサーへ引き込まれている(提供:NASA’s Goddard Space Flight Center)