「これで日本がよくなると思った」弁護士への大量の懲戒請求、送り主の人物像とは

    請求者やブログ運営者を訴える方針だが…

    「日本再生」などをうたうブログが呼びかけた大量の懲戒請求が不当だったとして、弁護士2人が請求者を訴えることを明らかにし、注目を浴びている。

    2人に届いた懲戒請求はのべ4千近くにのぼるといい、6月末にも損害賠償を求める裁判を起こす構えだ。ブログ運営者への刑事告訴も検討している。

    今回訴訟を起こすことを明らかにしたのは、東京弁護士会に所属する佐々木亮弁護士と北周士弁護士だ。

    そもそもの発端は2017年6月。佐々木弁護士ら10人のもとに以下のような理由の懲戒請求が届いたことがきっかけだ。

    「違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、その活動を推進する行為は、日弁連のみならず当会でも積極的に行われている二重の確信的犯罪行為である」

    佐々木弁護士は請求内容に覚えはなかったが、その後、請求は1千を超え、嫌がらせの手紙も届くようになった。

    こうした状況を問題視した佐々木弁護士を、北弁護士がTwitter上で支援すると、今度は佐々木弁護士だけでなく北弁護士にも、大量の懲戒請求が届くことになったという。

    同様の被害を受けているのは、2人に限らない。2017年12月の日弁連会長談話によると、全国21弁護士会の所属弁護士全員に対し、800人近い人たちから懲戒請求が送られていた。

    PDF化された「告発パック」

    懲戒請求を呼びかけているのは「余命三年時事日記」というブログだ。

    書籍化もされており、「余命三年を宣告されたブロガーが、韓国や在日、サヨクが知られたくない情報を暴露」などとうたわれている。

    在日コリアンや「左翼」「反日」とされる人たちを批判する内容が中心で、「日本再生」などを呼びかけ、弁護士のみならず政治家など、様々な人たちに対する集団告発を繰り返している。

    日本に対する戦争行為を誘発する犯罪「外患誘致罪」などを告発理由としているが、その根拠は不明瞭だ。

    ブログでは、PDFで「告発状」のひな形を配布。「告発パック」などとも呼ばれ、150ページを超えるものもあった。

    賛同者はそこに署名と捺印をして、取りまとめ先に送付すれば告発できるという仕組みを構築していたようだ。実際、送られた請求書には「通し番号」も振られていたという。

    「これで日本がよくなると思った」

    弁護士法に基づいた懲戒請求では、弁護士会が処分を判断する仕組みになっている。誰でも請求できるが、事実や法律の根拠を欠く場合は、「不法行為」を構成するという最高裁判例があるという。

    大量の請求に「恐怖を感じた」という佐々木弁護士は、5月16日に開いた会見で、こう語った。

    「精神的につらいですね。のべ3千件、住所を見れば近所の人もいた。恨みを買っているとしたら、家族に危害が及ばないかとの不安もある」

    6月20日までには和解にも応じる構えで、すでに「二桁」の人数から申し出が出ている。その多くは40代以上で、性別は男女混ざっている。リタイアした高齢者も少なくないという。

    実名が弁護士側に伝わっていることを把握していなかったり、そもそも「懲戒請求」が何かを理解していなかったりした人もいた。北弁護士は言う。

    「和解した複数人が、『これで日本がよくなると思った』と言うんです。おそらく、ネットの掲示板に書き込むとか、テレビに向かって悪態をつくとか、匿名で投書をするとか、それに近い感覚で請求を出しているのでは」

    「思想犯というよりも、愉快犯に近いのかもしれません。ムーブメント、お祭りみたいなものといったら良いのでしょうか」

    ブログ運営者の正体は

    両弁護士は民事訴訟だけではなく、懲戒請求を主導したブログ運営者に対する刑事告発も検討している。それに向けた調査も進めているという。

    北弁護士はこう語る。

    「告発状を集めて送付するだけで、相当な費用がかかるはず。人手も必要です。どのような組織が、どこからお金をもらってやっているのか。現段階では調査中です」

    一方、佐々木弁護士はこうした集団告発が続く「気持ち悪さ」を憂いた。

    「日本を立て直すために、反日の議員や弁護士をやっつけようとの呼びかけに、どうしてこんなに賛同が集まるのか。根底には、ヘイトの感情があるとも思っていますが、昔だったら考えられないことですよね。ネット時代の副産物なのでしょうか」

    両弁護士では、メール(佐々木弁護士 / 北弁護士)での謝罪・和解申し出を受け入れているほか、訴訟費用に関するカンパも呼びかけている。