ホンダ「クラリティPHEV」、その目まいがするほど複雑な技術の裏側

ホンダが米国で発売し、日本でも2018年に市販を予定しているプラグインハイブリッド車「クラリティ プラグイン ハイブリッド(PHEV)」。モーター2基とエンジンを組み合わせたシステムは、エネルギー効率を最大化するために極めて複雑な機構を採用したのが特徴だ。ドライヴァーがオーケストラの指揮者にでもなった気分になれそうな、その仕組みについて解説しよう。
ホンダ「クラリティPHEV」、その目まいがするほど複雑な技術の裏側
ホンダの最新のプラグインハイブリッド車はモーター2基とエンジンに加えて、運転席には大量のスイッチ、パドルシフト、ペダルが装備されている。ドライヴァーはオーケストラの指揮者になったような気分を味わえるだろう。PHOTOGRAPH COURTESY OF HONDA

自動車のパワートレインにおける複雑さのヒエラルキーは、おおよそ次のようになっている。純粋な電気自動車EV)はシンプルだ。内燃機関(エンジン)は部品の点数が多く、燃焼などの化学反応も絡んでくるので複雑になる。そして両者を同時に機能させなければならないハイブリッド車(HV)は、さらに複雑になる。

ところが、ホンダの「クラリティ プラグイン ハイブリッド(PHEV)」について考えるとき、ここには新しい階層が必要になる。「目まいがするほど複雑」というカテゴリーだ。電気駆動の利点と内燃機関の安心感を組み合わせるために、この複雑怪奇なプラグインハイブリッド車は、電気モーター2基と1.5リットルのガソリンエンジン1基を搭載することになったのだ。

結果として、まるで小さな劇団が超大作を演じるように、それぞれがたくさんの役割をこなしている。誰が何をやるかは、ドライヴァーがスイッチやパドルシフト、ペダルを使って、どのドライヴモードを選ぶかによって変わってくる。

外装には大量の軽量アルミ素材が使われており、バッテリーのみの走行可能距離は47マイル(約75.6km)に達する。ガソリンエンジンと合わせた総走行可能距離は340マイル(約547.2km)で、燃費は1ガロン(約3.79リットル)当たり110マイル(約177km)という計算になる[編註:1リットル当たりに換算すると約44.77km/L)。出力は212馬力とかなりのもので、価格は3万3,400ドル(約366万円)からだ。

その複雑怪奇な仕組み

ホンダのハイブリッドシステムは、14年の「アコード ハイブリッド」から数えて3世代目になる。小型で軽量になったほか、出力やバッテリーの性能も向上した。

同社のエコカーのラインナップに新たに加わったモデルを支えるロジックは、非常に単純である。可能な限り電気で走り、効率を最大化するために車輪を動かしたり、バッテリーを充電するためにエンジンを使ったりする。これを走行中の状況に合わせて実行していく。

効率を追求しようとすると、システムは複雑な樹形図をたどることになる。例えば、フル充電(240Vの家庭用電源でも、わずか2時間半で充電できる)の状態から、標準の「ノーマルモード」でドライヴを始めたとしよう。クラリティはエンジンを止めて、モーターだけで車輪を動かす。

穏やかな加速を心がければ、その状態を維持することができる。EVモードのままで時速100マイル(時速約160.9km)にまで加速することさえ可能だ。通常はアクセルを目いっぱい踏み込むとエンジンが作動して車輪の駆動を助け、素早く加速できる。

容量が17kWhあるバッテリーの残量が少なくなると、状況に応じて4気筒のガソリンエンジン(熱効率は40パーセントと業界トップクラス)が動き出す。エンジンは発電用モーターを通じて駆動モーターに電力を供給する一方で、ある程度の速度が出ている場合はパワートレインの役割もこなす。

これがクラリティの重要な特徴だ。たいていのHVは無段階変速機(CVT)と呼ばれるトランスミッションを搭載している。ギアの変速比をシームレスに変化させるものだ。これに対してクラリティは、より軽くシンプルな機構を採用し、エンジンを発電に使う際のさらなる効率化に成功した。

エンジンが車輪を直接動かすとき、伝達効率のロスはほぼゼロになる。さらにモーターで補助したり、バッテリーを節約したい場合はエンジンだけで駆動させることも可能だ。

「スポーツモード」に切り替えると、エンジンとモーターを組み合わせてることで、電気だけで走る以上の力強さを発揮する。一方、燃費を重視した「ECONモード」ではエンジンをなるべく使わず、加速を制限して最も効率よく運転する。ウサギのような急発進はできない、というわけだ。

“ホームラン”を狙えるか

ここまでに紹介した3つのモードが基本で、ほとんどのドライヴァーはこれだけで十分だろう。さらに細かい部分にまで踏み込みたければ、「HVモード」においてバッテリーをどれだけ使うかをコントロールすることもできる。HVモードは基本の3種類のモードと組み合わせることができ、高速道路の運転で最も効果を発揮するという。

HVボタンを短く押すと、バッテリー残量をできるだけ温存した走りをする。長押しするとEV走行を完全に無効にして、バッテリーを約58%まで強制充電する。スピードが安定する高速走行中に充電しておいて、電力を使ったほうが効率がいい市街地での走りに備える仕組みだ。減速には回生ブレーキを用いることで、モーターからバッテリーに充電する。

PHOTOGRAPH COURTESY OF HONDA

ここにもユーザーの負担を減らすためのホンダのこだわりが現れている。ハンドルのすぐ後ろにある2つのパドルシフトで、回生ブレーキの効き具合を調節できるのだ。

回生ブレーキは4段階から選ぶことができる。下り坂なら発電量を最大にすべきだし、のろのろ運転の渋滞にはまり込んでしまったら、ブレーキペダルから足を上げるだけで前へ進めるよう最小化すればいい。

ホンダはこの凝りすぎではないかと思えるエンジニアリングで、本当に“ホームラン”を狙っているようだ。クラリティには、ほかに「エンジンモード」や「EV走行モード」なども付いている。ただ、これらはもはや、それぞれのモードの間にある隙間を埋めるための専門用語だ。覚える必要はない。

実際のところ、ドライヴァーは何も考えなくていいのである。クルマに乗り込んで普通に運転すれば、システムが勝手に効率を最大化してくれる。

しかし、真の意味でのコントロールを求めている(そしてオーケストラの指揮者と、チートコードを入力するときのゲーマーのような気分を同時に味わいたい)人には、こう伝えたい。複雑さのヒエラルキーの頂点へようこそ。


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TEXT BY ERIC ADAMS

EDITED BY CHIHIRO OKA