どこまでいっても家の続きみたいに居心地よい街「清澄白河」

著: 白方はるか(鳩) 

日曜日の夕方、清澄白河には観光客があふれている。ブルーボトルのコーヒーを片手に駅にむかって歩く若いカップルとスーパー赤札堂のレジ袋を両手に抱えて家にむかって歩く私、すれ違うたびに「彼らは今日どのお店をめぐったのだろう?」と気になってしかたがない。

 

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清澄白河には美術館や公園がある。コーヒーショップや雑貨店も増えてきた。しかし実際に住んでみるとこの街に「あるもの」よりも「ないもの」に気がつくようになる。そして気がつくほどに、なぜか街への愛着が増してきた。

今日は住んでみて気がついた清澄白河の「ないもの」と、だからこそ気づいた街の魅力について紹介したい。

 

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そんなにおしゃれな街じゃない

最近の清澄白河は「コーヒー」とか「アート」のような、おしゃれなイメージが強い。


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しかしガイドブックのイメージに期待をふくらませて地下鉄の駅から地上に出たら、まちがいなくがっかりする。駅のまわりは何もない。駅前の交差点で信号待ちをしていると「コーヒーショップの集まる通りはどこですか?」と聞かれることがあるが、残念ながらそんな通りは存在しない。

下の写真が清澄白河駅前。「どちらへむかって歩いたらブルーボトルへたどり着くのか……」初めて訪れた人は必ず困惑する。


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実際、すてきなお店はたくさんあるが、四方八方に点在している。駅から西へむかえばおいしいビールとバーベキューを楽しめるホテル・LYURO、水曜日と金曜日限定のおいしい菓子店・PARLOURがある。東へむかえばお子さん連れの方にもおすすめしたいmammacafe151Aやコーヒー片手にピクニックしたくなる木場公園がある。


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北へむかえばクラフトビールの充実しているNICO、コーヒーも朝ごはんもおいしいiki ESPRESSO、南へむかえば織物や籠をそろえたくなるババグーリに、おなじみブルーボトルがある。


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好きなお店を1日かけて徒歩でまわるとヘトヘトになってしまう。それくらい店と店の距離がある。だから「おしゃれな街」のイメージは、かなり広範囲のお店をぎゅっとまとめて生まれた紙面上のイメージなんだろう。(たいていの観光地のイメージは、そんなふうにガイドブックの上につくられたものなのかもしれない……)

おしゃれな街に期待して訪れた人にはとても不親切な街だなと思いつつも、この街で見られる意外な生活感は、けっこう気に入っている。清澄白河の風景は、だいたいこんなかんじだ。


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川が多いから、橋も多い。道が広くて、緑が多い。家やお店は小さくて、派手な看板やお店はほとんどない。とにかく穏やかでゆったりとした空気が流れている。私はこの空気が大好きだ。


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ファストフード店がない

清澄白河には、ファストフード店がない。ハンバーガーショップも牛丼屋も定食屋も深夜までやっている居酒屋もない。だから平日の夜はどこを歩いてもほとんど人がいないし、このあたりはお寺と墓地が多いので、夜道はかなり不気味だ。

下の写真は秋に行われるかかしコンクールのときに撮影したもの。人間サイズの手づくりかかしが通りに点々と並んでいて、夜中に歩くとびっくりさせられる……。


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ただしファストフード店が少ないおかげで、いいこともある。近所の飲食店へ足を運ぶと誰かしら顔なじみに出くわして、いつのまにかテーブルをこえてお酒をかわすことが何度もある。好きな人たちの集まる飲食店は家の食卓の延長のようで、心地よい。ビールを飲むならDragon FLY CRAFT BEER HALL、日本酒を飲むならぼたん、ワインなら九吾郎、全部飲みたいときは山食堂、とにかくたくさん食べて飲みたいならだるまへ……。酒好きの私にはありがたい環境である。


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飲食店以外もこの街には小さな個人経営店が多い。引越してきてからは、それぞれのお店で必要なものを買うようになった。下の写真中央の「ヤハタソース」は、清澄白河で製造されている鳩印のソース。(現在は清澄にあるARiSE COFFEE ENTANGLEなどで購入可能)


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魚は新鮮な刺身が500円以下で買える駅前の魚金で、酒は人気の「獺祭」からニッチな銘柄まで幅広くそろえてある越前屋で、季節の花はただ探索するだけでもおもしろいLUFFで、花器にぴったりのガラスは実験室みたいなリカシツで。好きなお店の好きな人たちと会話してお買い物すると、払うお金に加えて感謝の気持ちも手渡したくなる。

小売店以外、チェーン店でよく通うのは、スーパー赤札堂・OKストア・ホームセンターコーナンの3つだけ。コンビニは、ほとんど通わなくなった。


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ちなみにその3つのうちのどこへでかけても、道端あるいは店内で、近所のお店の人に遭遇しては「鳩さん」「鳩ちゃん」と声をかけられる。

買い物しに外へでかけるだけで誰かしら知り合いと遭遇するから「休みの日に誰ともしゃべらず終わった……」なんてことがほとんどなくなった。ファストフード店がないのはたしかに不便なように映るが、いくつもある行きつけのお店のおかげで、今は特に必要と思わない。


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清澄白河なんて住所はない

じつはそもそも「清澄白河」という住所は存在しない。

じゃあ「清澄白河」はどこを指すのかというと、どうやら4つの川に囲まれた4つの地区(清澄・白河・平野・三好)をいうらしい。下図のあたりが「清澄白河」。最近雑誌で森下エリアの南部を指す「奥清澄白河」なんてワードを見かけたが、見なかったことにする。


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私の家は、駅から南に10分ほど歩いたところにある「仙台堀川」に面している。細くて小さな川なのだが沿道の両側に桜が植えられていて、ベランダから川と桜の木を眺めると、とても贅沢な気持ちになる。

駅から見て西に流れる「隅田川」に注目がいきがちだが、この街の住人としては四方の川どれもが季節で表情を変えるし散歩に適していて愛おしい。


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4つの地域についても、住人にとっては重要な要素のようで、この街の人たちと会話すると決まって「何丁目に住んでるの?」と話題にあがる。(ここに引越すまで、町名と番地なんてまるで意識したことがなかったので驚いた)

なぜこんな話になるかといえば、門前仲町にある富岡八幡宮の例大祭が関係している。この祭りは通称「水掛け祭り」、3年に1度行われている昔からある大きな祭りだ。町会単位で神輿を担ぐから「平野の◯丁目に住んでいます」と答えると次に返って来るのは「XXXさんの町会だな!神輿、担がないの?」である。下の写真は、2017年の例大祭の様子。びしょびしょである。


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昨年の祭りで、神輿を担ぐ人たちはもちろん、老若男女が沿道に出てあらゆる手段で神輿に水を掛けている姿、行きつけのスーパーの店員さんや近所の病院の先生たちが発泡スチロールの箱や桶を使って水を掛けている姿には、興奮を隠せなかった。「街全体がお祭り騒ぎ」というのはまさにこのことである。

住所の上では存在しない「清澄白河」だけど、この祭りを通じて確かにこの街が存在していることを感じた。


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隣との壁がない

2016年から現在まで、街のトークイベントやまち歩きイベントをイラストでお手伝いさせてもらった。

これらのイベントのおかげで、近所の人たちとの距離がぐっと縮まった。下のイラストは、トークイベント「コウトーク」で描いたレポートイラスト。好きな人たちの話をタダで聞けて、結果好きな人たちのことをたくさんの人に知ってもらうお手伝いができて、とてもうれしかった。


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私は、文化祭や会社の飲み会といったイベントごとに携わるのが苦手で「わざわざ手を挙げて大勢とかかわることは面倒くさい」と考えるほうだった。

そんな消極的な人間なのに、引越し直後、とつぜん近所のガラス屋さん(イベントの主催者だった!)に声をかけられ、彼らとモツ焼き屋さんでビールを飲んでいるうちにイベントの運営側に巻き込まれていた。もう2年前になる。あのとき巻き込んでくれた人たちには、今も感謝している。

そういえば引越してきた最初の年、近所のお店の人たちとその家族が集まる忘年会に参加させてもらった。みんなで指人形劇をしたのだけれども、夢のようにあたたかい時間だった。最近も近所の人たちで集まる場やイベントにちょこちょこ声がかかったりして、近所に家族や親戚が増えたような気持ちだ。




おそらく、この街の人たちには壁がない。年齢・性別・在住年・職業…… 「楽しけりゃ関係ない!」と堅苦しいあいさつをすっとばして声をかけてくれる。同じ街に住んでいるだけで、ほとんど仲間になれる。

働く場所がこの街ではないOLの私が、まさか家のある街の人たちとこんなにも親しくなれるなんて、引越し前には想像もできなかった。だからきっとこれを読んでいるあなたも、私のように、この街の一員になれると思う。イベントに参加しなくても大丈夫。無理は必要ない。きっかけは街に山ほど転がっている。


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近所で買い物したり、コーヒーを飲んだり、川や桜の木をながめて散歩したり。そうしているうちに、いつのまにかこの街の人たちはあなたをやさしく受け入れてくれるだろう。

もし今、次に住む街をどこにしようか迷っていたら、ぜひ清澄白河に足を運んでみてほしい。
 

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著者:白方はるか(鳩)

白方はるか(鳩)

1988年生まれ、清澄白河在住。近所の人には「鳩」と呼ばれている。現在はフリーライター・イラストレーターとして活動中。ビールが大好き。

Twitter:@tyore