Oculus Goレビュー:スタンドアローンでお手頃、でも満足できないのはなぜ?

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  • author 福田ミホ
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Oculus Goレビュー:スタンドアローンでお手頃、でも満足できないのはなぜ?
Image: Patrick Lucas Austin(Gizmodo US)

アプリとかその中での自由度とか、中身がもうちょっと。

5月2日、Oculusからお手頃VRヘッドセット「Oculus Go」が発売されました。スマホもPCもナシで使えるスタンドアローン型で、しかも200ドル(日本価格は2万3800円)からというお手頃価格なことから注目されてますが、実際どうなんでしょうか? 米GizmodoのPatrick Lucas Austin記者が詳細レビューしていますので、以下どうぞ。


僕はいま家のリビングルームに座っているんですが、目に見えるのは船の甲板です。でも、VRの世界を存分に動き回るために壁際に押しやったソファの上で、現実世界の犬がハァハァ言っているのも聞こえます。僕はOculus Goを装着しているので、犬の姿を見ることはできません。一歩踏み出してみますが、甲板上では何も起こらず、ついため息をつきます。僕としては、Oculusが初めてポータブルなヘッドセットを出すからには、ハイエンドスマホにチープなヘッドセットをくっつけた競合からはきちんと差別化してほしかったんです。でもOculusは、必ずしもその期待に応えてはくれませんでした

Oculus Go

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Image: Patrick Lucas Austin(Gizmodo US)

・これは何?:Oculus Riftと同じメーカーによる、スマホもパソコンもなしで使えるポータブルなVRヘッドセット

・価格:32GBモデルが200ドル(日本価格2万3800円、送料・税込)、64GBモデルが250ドル(同2万9800円)

・好きなところ:すごく安い、着け心地も良い、スマホなしでポータブルなVRが可能

・好きじゃないところ:アプリの品揃えが残念、自由度がもっとほしい

お手頃にVRを体験する方法は、今まではせいぜいふたつの方法しかありませんでした。ひとつめは、ダンボールでできたゴーグルにスマホをはさんだだけっていう超ライトな形。ふたつめはサムスンのGear VRとかGoogle Daydreamみたいな、価格でいえば数千円から1万円ちょっとのヘッドセットで、それだと多少のコントロールもできるし、着け心地も良くなりました。

この選択肢の中で満足度の高いVR体験を得るには、たいていはGoogle Pixel 2とか最新のSamsung Galaxy端末みたいなハイエンドなAndroidスマホが必要でした。携帯キャリアからスマホを買うとVRヘッドセットがもらえたり安く買えたりといった事もあるんですが、そもそもVR対応Androidスマホは高価です。7万円とか8万円するスマホを買った挙げ句に、遊びにしか使わないVRヘッドセットにさらに1万円を払いたいという人はあんまり多くありません。

Oculus Goは、200ドルにしては良い買い物だと思うし、これならスマートフォンも、それを挿し込むためのドックも必要ありません。外見的にはOculus RiftのDNAを踏襲していて、コンシューマー用では唯一ワイヤレスなヘッドセットという意味で一番近い競合であるLenovo Mirage Solo(400ドル≒約4万4000円)より見た目に優れています。どちらも同じように角を落とした長方形で、シュノーケル用ゴーグルを彷彿とさせる形ですが、Lenovo Mirage Soloがよりメカメカしいのに対し、Oculus Goは布やプラスチックのデザインで、より洗練された印象です。それでもOculus Goは外見的には驚きの要素はなく、Oculusの3作目であることを考えるとちょっとがっかりです。

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Image: Patrick Lucas Austin(Gizmodo US)

Oculus Goには、今どきの多くのスマートフォンと同じプロセッサ、前世代のSnapdragon 821が内蔵されています。でも最新チップじゃないので、ときどきUIが一瞬固まったり、複雑なオブジェクトを同時に複数表示させると遅くなったりします。とはいえよっぽど気をつけて見ていない限り、パフォーマンスはハイエンドスマートフォンと同じくらいに感じられ、遅れが問題になることはほとんどありませんでした。

ディスプレイは明るい5.5インチの2,560 × 1,440の液晶で、それをふたつのレンズから見ることになります。内蔵ストレージは32GB(またはプラス50ドル≒約5,500円で64GB)で拡張は不可、充電はmicroUSB経由(残念)、電池は2時間保ちます。このへんのスペックは十分だし、価格を考えればさらに満足度は高いです。

ただVRの世界での動きの自由度に関しては、Oculus Goには制限があり、そこは値段なりといった印象です。Oculus Goの中では、頭を中心に、左右に傾けるか、前後、左右の3方向にしか動けません(視線を追う程度)。ちなみにもう少し高価なLenovo Mirage Soloは前面カメラを使うことで、6方向の動きを可能にしています。つまり、リアルでもバーチャルでも上下、前後、左右に動くことができ、リアルで何かにぶつかりそうになると警告を出してくれるのです。

マイクとスピーカーは本体内蔵で、VR内での動きに反応して音が聞こえますが、スピーカーの音を大きくすると周りに音漏れします(そもそもVRの世界に入り込んで動いてる時点で周りの人から見るとあやしいんですが)。人が近くにいる場合は、3.5mmジャックにヘッドフォンをつないで使ったほうがいいですね。

Oculus Goは(もちろん)メガネより重いんですが、でも1ポンド(約454g)ちょっとで、着け心地は十分です。延々とVRをする時は、ヘッドストラップを3カ所できちんと調節することで、鼻のブリッジにあたる圧力を軽減できます。メガネといえば、Oculus Goにはメガネ用のゴム状インサートが付属していますが、Oculus Go用のVRレンズを作ることも可能です。

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内蔵スピーカーの音量があるのは良いんですが、音漏れします
Image: Patrick Lucas Austin(Gizmodo US)

付属のコントローラは持ちやすく、いつかOculus Riftみたいにふたつのコントローラをサポートしないかな、という願望が芽生えてきます。両手でコントロールできるとアプリ内でできることがかなり広がって、他のVRヘッドセットとの差別化にもなると思います。が、200ドルという価格を考えれば、片手のみのコントロールでも十分です。それにOculus Goのゲームは両手コントロールに対応していないし、現状のOculus GoのVR空間でできることはそんなに多くはありません

というか、残念なのはまさにそのOculus Goのアプリ事情です。少なくとも今は。Oculusのアプリストアでプロモーションされている人気ゲームの多くはGear VRから来ているもので、Oculus Goのコントローラに対応していないケースも少なくありません。つまりコントローラのないGear VRで遊べるように、コントローラを前提としない作りになっているので、頭を使ってカーソルを合わせ、コントローラでクリックするという操作になります。この中途半端なアプリ環境からは、Oculusが手を抜いた感が感じられて悲しいです。

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ポートがUSB-CじゃなくmicroUSBなのも、お座なり感があります
Image: Patrick Lucas Austin(Gizmodo US)

また、動きの自由度の低さも、アプリの中で強く意識させられます。僕がプレイした多くのゲームではゾンビや光る標的を撃つとか、宇宙ドロイドを修理するためにレバーを引くとか、謎の生き物をつつくとか、ジェットコースターに乗るといった動きが入っていて、酔いを抑えるのが大変でした。動きを追う精度は、Pixel 2 XLを使ったGoogle Daydreamと同じくらいです。外国や博物館のビジュアルツアーは面白いですが、それもこの手のコンテンツを初めて見る数分間だけです。正直、このヘッドセットで「世界を旅する」みたいなことをしたいとは思いません。

すごく面白いゲームとかキラーアプリとか、本当に没入感あふれる体験はできませんでした。動画コンテンツはWWEとかNetflix、NextVRといったパートナーから出ていますが、それらでは動きの自由度がちゃんと生かされていなくて、しかも画質が低いのでむしろ普通の動画より没入感が低くすら感じられます。またYouTubeみたいなGoogle公式アプリもないので、Oculus独自のアプリを使わなくちゃいけません。ただOculus Goが発売された今は、アプリをのせるための(そして年末には衝動買いされるであろう)ハードウェアがあるので、デベロッパーのモチベーションも上がって、アプリもアップデートされていくかもしれません。が、それに何カ月、または何年かかるかはわかりません。

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ブルックリンで一番クールなバリスタだろうが何だろうが、Oculus Goを着けてるとマヌケに見えます
Image: Patrick Lucas Austin(Gizmodo US)

Oculus Goもお手ごろといっても2万円以上するわけで、その価格に見合う十分なVR体験ができるんでしょうか? その答えは、何を求めるかによります。スタンドアローンのポータブルVRヘッドセットで、画質もまあ良いという意味では、しっかりできてるし、このコンセプトに興味のある人にあげれば目新しいギフトになることでしょう。または確定申告の後とかでちょっとしたお金が入った人なら、そして特にAndroidデバイスとかハイエンドPCを買うつもりがない人なら、Oculus Goは悪くない買い物です。

でも今もうハイエンドなAndroidスマートフォンを持っていれば、スマホを挿し込むタイプのヘッドセットを使うことで、同じような体験がもっと安く可能になります。もうちょっと高めのLenovo Mirage Soloなら、画質ももっと良いし動きの自由度も高まります。とはいえそっちもGoogleのDaydreamプラットフォームなので、面白いソフトウェアがないという課題は共通です。

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Oculus GoはポータブルなVRを安く実現してくれますが、これが本当に求めていたものなのかどうか…
Image: Patrick Lucas Austin(Gizmodo US)

Oculus Goを使ってみて、僕は自分の過剰な期待を反省しました。今までPCにつなげるタイプのヘッドセットも、スマホを挿し込むタイプのものも、特定のゲームコンソール専用のPlayStation VRみたいなものも、何時間も使ったことがあり、それぞれに強みと弱みがあって、僕はいつも上質なVR体験の喜びを語ってきました。でも「上質なVR」といったって、その楽しさが数時間しかもたないとしたらどうなんでしょうか?

Oculus Goはたしかに、VRを一歩前進させたと思います。でもそこでの楽しい体験は、Lenovo Mirage Soloもそうですが、デベロッパーからのサポートがなければ、うっすら残念な買い物へと変化してしまうのです。

まとめ

・200ドルという値付けで、手頃かつ低リスクなVRへの入り口となっています。

・ゲームのラインナップがスマホクオリティで数が少なく、その多くがGear VRからざっくり移植しただけです。

・2、3時間いじる程度なら楽しいですが、入り込めるコンテンツがありません

・他社のものに比べれば着け心地は良いです。

・コピーみたいな外見が残念です。


Image: Patrick Lucas Austin(Gizmodo US)

Patrick Lucas Austin - Gizmodo US[原文
(福田ミホ)