BMWが選んだイスラエル発の自動運転センサーには、ほかにはない「強み」がある

自律走行車の性能を左右する、レーザー光を使ったセンシング技術の「LiDAR(ライダー)」。その確保を巡って自動車メーカーの競争が激化している。BMWが目を付けたのは、イスラエルのスタートアップであるイノヴィズだ。同社の技術には、ライヴァル企業のLiDARにはない「強み」があるのだという。
BMWが選んだイスラエル発の自動運転センサーには、ほかにはない「強み」がある
レーザー光を使ったセンシング技術「LiDAR(ライダー)」を製造するイスラエル企業イノヴィズは、BMWに製品を供給する契約を結んだ。PHOTOGRAPH COURTESY OF INNOVIZ

自律走行車の開発には、結婚式の準備のようなところがある。どんなにたっぷり時間があっても、やらなければならないことが多すぎて圧倒されてしまうかもしれない。それは結婚式の場合、会場決めや内装のデザイン、テーマソングの選択などである。これに対して自律走行車の開発では、全世界に広がるサプライチェーンの再構築が何と言っても急務だ。

BMWがライドシェアリングサーヴィスの一環として、2021年までに完全な自律走行車を提供すると発表したのは2016年のことだ。当時、時間はたっぷりあると思えたが、もう3年しか残されていない。

新しいクルマの開発に7年かけることもある業界だ。BMWがこのほど、レーザー光を使ったセンシング技術「LiDAR(ライダー)」の供給業者との契約に踏み切ったのは、よい判断と言えるかもしれない。

LiDAR企業を奪い合う自動車メーカー

このほどBMWは、自律走行車にLiDARを搭載するため、カナダを本拠とする自動車部品大手のマグナと、そのパートナーであるイスラエルのLiDARメーカー、イノヴィズ[日本語版記事]と契約したことを明らかにした。

契約に関する十分な詳細情報が提供されておらず、現時点でBMWがセンシング技術をどう活用する計画なのかは不明である。だが、強力な自律走行車のほか、半自動運転のクルマにも搭載されるとみていいだろう。BMWは半自動運転技術の開発を、テスラの「オートパイロット」やキャデラックの「Super Cruise」などに対抗するかたちで進めている。

今回の発表は、この分野におけるセンシング技術の重要性を示している。自動車メーカーとLiDAR開発企業との連携が増え続けているのだ。

ゼネラルモーターズ(GM)は、ストローブ(Strobe)というLiDARのスタートアップを買収した[日本語版記事]。フォードの自動運転システムを開発しているアルゴAI(Argo AI)[日本語版記事]は、LiDARメーカーのプリンストン・ライトウェイヴを傘下に収めた。トヨタ自動車は、フォトニクスの天才とも呼ばれるオースティン・ラッセル(23歳)が経営するルミナー(Luminar)と契約した[日本語版記事]。

自律走行車向けのLiDARを最初に開発したヴェロダイン(Velodyne)[日本語版記事]も、年間10,000ユニットを生産している主要プレイヤーだ。グーグルの関連会社であるウェイモ(Waymo)は長い間、独自システムの開発[日本語版記事]に巨額を投じてきた。

1,000万円のコストは回収できるのか

LiDARシステムは光のパルスを発射し、反射して戻ってくるまでの時間を測定することで、周囲の世界を読み取る。対象となる範囲は最低200mだ。これだけあれば、高速道路を走るようなスピードでも、障害物を見つけてブレーキを踏むことができる。

各社の類似点はこんなところで、差異というとレーザーを回転させて向きを変えるものがあれば、可動部がまったくないものもある。ユニット当たりのレーザーの数は、1個や4個から128個までと幅広い。単価は1,000ドル(約11万円)しないところもあるし、100,000ドル(約1,100万円)近いものもある。

範囲、信頼性、適応性、コストの組み合わせはそれぞれ異なる。そして、乗り越えるのが最も難しい障害はコストであることが分かっている。128個のレーザーを使うヴェロダインの最上位ユニットは75,000ドル(約830万円)かかる。ロボットタクシーに搭載するなら長い時間かけて償却できるかもしれないが、一般の乗用車には高価すぎる。

イノヴィズによると、同社のLiDARは「ソリッドステート設計」を採用しているおかげで、「コストが100ドル単位」だという。この数年で登場した人気上昇中の設計手法であり、多くのLiDAR企業に広がっている。

イノヴィズの創業者であり最高経営責任者(CEO)のオメル・キーラフは、「コストは低くする必要があります。これはどうしようもありません」と語る。

シンプルでも高性能

イノヴィズのLiDARは、レーザービームの方向を変えるのに幅わずか数mmの小さな鏡を使っている。ヴェロダインが開発したような機械的に複雑な回転機構ではなく、よりシンプルなものだ。そのぶん安価につくれる上に、でこぼこ道に耐える丈夫さも簡単に実現できる。

また、例えばルミナーは波長1,550nm(ナノメートル)のレーザーを採用しているのに対し、イノヴィズは平凡な905nmのレーザーにこだわっている。見通せる距離は限られる[日本語版記事]ものの、高価なヒ化インジウムガリウムではなく、シリコンでつくったコンポーネントを使えるのだ。

それでも、イノヴィズのLiDARは黒ずくめの服装の人など、光の10パーセントしか反射しないものを200mの距離から見つけられる。キーラフによるとこの性能は、センサーに戻ってくる光線を測定する検知システムを改善して実現した。

イノヴィズはそうしたデータを、クルマが把握すべき世界のデータへと変換する仕事にも取り組んでいる。こちらにある点の集合は自転車乗りで、あちらには木が立っている──といった具合だ。

ウェイモや、スタートアップのオーロラ・イノヴェイション(Aurora Innovation)[日本語版記事]のような生粋のテクノロジー企業なら、自社で問題なくやれることかもしれない。

しかし、レーザーデータの領域を急きょ扱うことになった自動車メーカーが相手だと、これが付加価値になるのだという。「彼らはこうしたサーヴィスを必要としているのです」とキーラフは語る。

イノヴィズは今回、BMWというトップレヴェルの顧客を得て、2年かけて開発してきた製品の価値を証明した。一方のBMWは、来たるべき“披露宴”までに準備しなければならないことを、ひとつだけ減らすことができたのである。


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TEXT BY ALEX DAVIES

TRANSLATION BY RYO OGATA/GALILEO