巨大テック企業の給料から、ビジネスモデルの違いが見えてくる

テック企業の従業員は一体いくら稼いでいるのか? 各社が米証券取引委員会(SEC)の新ルールの下で公開した年収中央値から明らかになってきたのは、企業のビジネスモデルの差異である。そしてシリコンヴァレー企業の高額な報酬からは、同エリアで繰り広げられる技術者獲得競争の激しさも浮かび上がる。
巨大テック企業の給料から、ビジネスモデルの違いが見えてくる
アマゾンの配送センター。56万6,000人いる同社従業員の大半は、配送センターで働いている。PHOTO: LUKE MACGREGOR/BLOOMBERG/GETTY IMAGES

テック企業の従業員はいくら稼いでいるのだろう?

その答えは、雇い主が誰かによって大きく異なる。アマゾンが米証券取引委員会(SEC)に提出した2017年の年次報告書によると、同社従業員の年収中央値は28,446ドル(約313万円)だった。これに対して、フェイスブック従業員の年収中央値は24万430ドル(約2,640万円)で、アマゾンの8倍以上だった。

もちろん、これだけ大きな差が生じることにはいくつかの理由がある。フェイスブックで働く25,000人の従業員には多くのソフトウェアエンジニアが含まれており、同社は人件費が高くて競争の激しいサンフランシスコのベイエリアで彼らを雇用している。

一方、56万6,000人いるアマゾンの従業員の大半は配送センターで働いていて、多くの海外拠点も含まれている。アマゾンは米国内における配送センター従業員の平均時給は15ドル以上だと述べており、それに基づくと、残業代を除いた年給は30,000ドルを少し上回る計算になる。

ビジネスモデルによって年収中央値は変わる

それぞれの企業の事業内容やビジネスモデルの違いは、年収にも反映されている。自動車メーカーであるテスラは、従業員の26パーセントが生産ラインの労働者で、18パーセントは米国外にいると説明している。

同社によると、従業員の年収中央値は54,816ドル(約603万円)だ。さらに従業員は、同社株価の値上がりからも恩恵を受けているという。

IBMは、近年積極的に仕事を海外に移転しているが、従業員の年収中央値は54,491ドル(約600万円)となっている。『ニューヨーク・タイムズ』が2017年9月に掲載した記事は、IBMの従業員はいまや米国よりインドのほうが多くなっていると伝えている。IBMの広報担当者にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

同じ技術セクターに属している企業でも、年収中央値は、それぞれのビジネスモデルによって大きく異なる。例えば売上では米国最大手の半導体メーカーであるインテルは、自社でチップを生産している。6つある工場のうち3つは米国内にあり、10万2,000人の従業員の半数はここで働いている。同社の年収中央値は10万2,100ドル(1,123万円)と報告されている。

グラフィックスチップが機械学習や人工知能(AI)で広く使われているNVIDIA(エヌヴィディア)は、14万7,640ドル(約1,623万円)と報告している。NVIDIAはチップの生産を外部に委託し、従業員数は8,200人しかいない。NVIDIAの広報担当者は、同社従業員の半数は「非常に競争の激しい」シリコンヴァレーの雇用市場にいるとしたうえで、「非常に高いスキルをもち、大学教育を通じて深い専門知識を身につけており、市場においてプレミアがつく条件を備えている」と語った。

年収中央値は、ベイエリアにおける技術者獲得競争の激しさを示すものだ。米労働省によると、ソフトウェア開発者やプログラマーの賃金の全米平均は10万2,470ドル(約1,127万円)だが、ベイエリアにあるテック系企業はもっと高額な報酬を支払っている。

例えば、財務や人事の管理支援ソフトウェアを企業に提供するWorkday(ワークデイ)の場合、株主総会の議案には17万8,903ドル(約1,967万円)と書かれている。セールスフォースの中央値は15万5,284ドル(約1,707万円)。決済代行を行なうSquare(スクエア)は15万2,265ドル(1,674万円)となっている。

CEOの収入は参考にならない?

SECの新ルールの下で、各社が従業員の年収中央値を公開したのは今回が初めてだ。新ルールは、各社の最高経営責任者(CEO)の高額な収入にスポットライトを当てることを目的にしたもので、17年12月31日以降に終了する会計年度から発効した。つまり、アップルやマイクロソフト、オラクルなど会計年度が異なる企業は、年給中央値の報告をもう少しあとで行うことになる。

企業は、一般従業員の年収中央値と比較したCEO報酬の割合を報告するよう義務づけられている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』の報道によると、石油業界のMarathon Petroleumの場合、17年のゲイリー・ヘミンガーCEOの報酬は1,970万ドル(約21億6,603万円)で、同社従業員の中央値である21,034ドル(約231万円)の935倍だったという。

こうした割合の比較は、大手テック企業にとってはあまり意味のないことだ。CEOの多くは創業者で、自社株を大量に保有し、報酬はほんの少ししか受け取っていないのだから。ツイッターの株主総会招集通知には、CEOであるジャック・ドーシーは報酬を一切受け取っていないと書かれている

フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグや、グーグルの親会社アルファベットのCEOであるラリー・ペイジの報酬は1ドルだ。ただし、ザッカーバーグに関する経費には、会社が提供する身辺警護の費用が880万ドル(約9億6,756万円)と、社用航空機の利用コストが含まれていると報告されている。

アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾスには1998年以来、年間81,840ドル(約900万円)の報酬が支払われている。年間160万ドル(約1億7,592万円)かかるベゾスの身辺警護コストについては会社が支払っているという。


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TEXT BY SCOTT THURM

TRANSLATION BY SATOMI FUJIWARA/GALILEO