GoogleのAIの電話も実録に聞こえないし業界のデモはどれも嘘臭い

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  • author satomi
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GoogleのAIの電話も実録に聞こえないし業界のデモはどれも嘘臭い
やっぱり嘘だったのか!?
Image: Google Developers/YouTube

疑惑が急浮上、Googleは黙して語らずです。

AIが実店舗に電話をかけてアポを取るという、今月のGoogle I/O基調講演でスンダー・ピチャイCEOが披露したGoogleアシスタントのDuplex機能の紹介デモ。AIの受け答えが人間過ぎてリアルタイム更新の手が思わず止まってしまいましたが、あれは結局、実録ではないのではないかと疑問視する声が広まっています。

人間にしか聞こえない

問題のシーンは以下の動画の1:00からです。ピチャイCEOは「今からご覧に入れるのはGoogleアシスタントが実在の理髪店に電話をかけて実際に予約を取るところです」と前置きして披露。2本目のレストランの電話予約では、AIが機転を利かせて予約を入れたい時間帯はお店が空いていることを確認し、「今のも電話の実録です」と紹介していますよ。いかがでしょう? 本当にAIと人間の会話だと思いますか?

本物? 嘘? いま話題のシーン
Video: Jeffrey Grubb/YouTube

訳者は音声で聞いていたんですが、人間対人間にしか聞こえなくて、ピチャイCEOが「本物です」と言っても頭が回らなくて、動画を見直したり大混乱となってしまいました。あんな全身から血の気が引く感覚はリアルタイム更新でも初めてです。

会場は拍手喝采。さすがグーグルはAIのレベルが違う!未来!となってその日は終わりましたが、あれを信じられない思いで見守っていた人はほかにも大勢いたようです。やがていろいろとつじつまの合わない点が出てきて、長文のまとめ検証記事がAxiosブログに掲載されてしまいました…。

諸々の事情でデモ用コンテンツに修正やエンハンスメントを加えることはあると思うんですけど、Googleのトップがステージで「通話の実録です」と明言していますからね。作り物でした、な~んてことになったら、もうテック企業のデモは何も信じられない心境ですよ…。

スマホやパソコンをスクリーンにつないで操作しながらデモしたり、クレイグ・フェデリギのFace ID認証みたいに本番で大失敗することもあるので、もちろん全部が全部、嘘ではないですけどね…。デモでは何度もリハーサルを重ねてベストコンディションを披露するので、「現実はこの何割引きなのかな」という目で見るようになっている自分がいます。

ビル・ゲイツが見守るWin 98のデモ中にBSODが呼び覚まされたNG場面(本物)
Video: r0909/YouTube

企業にとってステージのデモは貴重なPRマシンです。広報マンは精度より、好印象を最大化するのが仕事ですから、デモにおいても、実物を正確に伝えることより、売り込むという感覚が強いように思います。

デモは源流からして嘘だらけだった

新製品をステージでデモするというスタイルを確立した人はスティーブ・ジョブズです。その最初のステージとなったのが1984年の初代Macintosh発表イベント。

Video: macessentials/YouTube

Macが第一声「Hello」を発する歴史的名場面が3:28から出てきます。これ、実は初代の128Kではしゃべれなかったので、デモでは当時まだ2台しかなかった第2世代の512Kモデルを使ってるんですよ? この有名なエピソードは映画「Steve Jobs」でも再現されています。

Video: Movieclips/YouTube

本番直前になっても間に合わず、ジョブズにどやされた天才開発者アンディ・ハーツフェルド(デモ冒頭の「炎のランナー」の音声と「Hello」を担当)が、「本当はやってはいけないことなんですが…521Kモデルならしゃべれます」とおずおず言い、ジョブズがよっしゃよっしゃそれで行くわーとデモに意気揚々と向かう様が描かれています。脚色もあるとは思いますが、「512Kを使ったのは実話」だとハーツフェルドが個人サイトFolkloreで紹介していますよ。

512Kモデルでデモした128KモデルのMacintoshは狂ったように売れ、こうしてステージデモのスタイルは業界全体に広まっていったのでした…。

演出 vs. 実演の境は明白にある

デモの中には、誰が見ても演出とわかるものもあります。たとえばこちらは去年のMicrosoftのBuildカンファレンスのデモ。

170522ms
自撮りしながらドリル。危険をAIが検知して違反報告されるデモ
Image: Microsoft Visual Studio/YouTube

ここまでオーバーアクションだと嫌でも演技とわかるし、デモの人もそう言っているので、誰も問題にはしません。

去年のWWDCでフィル・シラー上級VPが行ったHomePodのデモも、笑っちゃうほどのサウンド差です。これを真に受けて買いに走る人はまずいません。

Video: VentureBeat/YouTube

GoogleもGlass初代CMのときは誰もが「未来きたー!」って熱狂しました。

Video: Huzaifah Bhutto/YouTube

幻で終わってしまいましたが。この動画はいわゆる「イメージ映像」ですよね。

今回のDuplexのデモは、しかし、漫画みたいなデモ、盛り過ぎたデモ、夢の再現などとは明確に違います。ピチャイCEO自身がステージで全世界に「実際にあった会話」だと言っているので、もし事実と異なるのであれば釈明しなければなりません。再三コメントをお願いしたのですが、Googleからはまだ返答はありません。

アップルブロガーが渦中のレストランを特定

そうこうするうちに、しびれを切らしたアップルブロガーのジョン・グルーバーが疑惑のレストランを突き止めようと腰をあげました。Google公式ブログで「DuplexのAIで予約したテーブルで食事を楽しむDuplex開発リードと技術マネジャー」のツーショット写真を拾い、フォロワーたちに「この店知らない?」ってツイートしてみたんです。

そしたら、ものの22分で「窓に写っている隣の店はMASU寿司だ」という有力情報が得られ、「Googleの写真は裏返されている。だからカウンターが逆なんだ」と慧眼の誰かが気づき、高級住宅街サラトガの中華レストランと特定されました。たいしたもんだ…。

さっそく店にMashableが電話をかけ「本当にGoogleのAIで予約を受け付けたんですか?」と取材を決行。電話に出た男性は最初「はい」と言ったんですが、だんだん「ソワソワしだして」、再度念押しすると返事もしないで切っちゃったんだそうですよ? 挙動不審すぎますよね!

AIが予約した事実なんかなくて全部嘘だったとしたら、かなりガッカリです。でもあんまり驚かないかな…。


Image: YouTube(1, 2), Twitter
Video: YouTube(1, 2, 3, 4, 5, 6
Source: Dan Primack/Axios, Andy Hertzfeld/Folklore, John Gruber/Daring Fireball, Google

Alex Cranz - Gizmodo US[原文
(satomi)