サイエンス

がんの免疫療法を腸内バクテリアが加速させている


がんの治療には一般的に外科治療、抗がん剤などの化学療法、放射線治療の3つが挙げられますが、近年は4つ目の治療法として「免疫療法」が注目されています。免疫療法で使用される薬剤は腸内バクテリアと組み合わせることで大きな効果を得ることが示されたことを受けて研究が加速。2018年現在では臨床試験が行われようとしています。

How gut microbes are joining the fight against cancer
https://www.nature.com/articles/d41586-018-05208-8

過去数十年において、多くの研究者は腸内バクテリアとがんとの間に関係性があると考えていませんでした。しかし、2015年にグスタフ・ルッシーがん研究所のローレンス・ジットボーゲル氏らの発表した研究が、多くの研究者に衝撃を与えることになります。


ジットボーゲル氏らは、T細胞の活性を持続させるCTLA-4やPD-1といった免疫療法で使用される免疫チェックポイント阻害剤の効果に腸内バクテリアがどのような影響を与えるかを、マウスで実験を行いました。すると、バクテイロイデス・フラジリスというバクテリアを与えられたマウスは、バクテリアを与えられなかったマウスに比べて、免疫チェックポイント阻害剤によく反応したことが示されました。

この研究は、新しいがん治療の可能性を多くの研究者に示すことになり、それと同時に、まだ発見されていない腸内バクテリアと薬剤との組み合わせを調査するきっかけとなりました。同年にはシカゴ大学のがん専門医であるトーマス・ガイェウフスキー氏が、ビフィズス菌ががんの免疫療法の効果を高めるという研究を発表しました。


この研究発表を見たテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターで准教授を務めるジェニファー・ワーゴ氏は、すぐに皮膚がん患者の便の調査を始めました。その後、ワーゴ氏らの研究チームは、免疫チェックポイント阻害剤による治療を受けたがん患者のうち、効果があった患者は腸内フローラ(腸内細菌叢)が多様性に富んでいたことを発見。そして、患者と同程度のがんを保有するマウスの腸に「免疫療法で効果のあった人の腸内バクテリア」を入れたところ、「効果のなかった人の腸内バクテリア」を入れられたマウスよりもがんが小さくなったことが確認されました。

2017年11月にワーゴ氏の研究が発表されたことで、複数の研究機関がマウスの実験だけでなく人でも同様の効果が得られるかを確かめるため、便微生物移植の臨床試験を行う準備が進めるようになりました。しかし、過去には、自身のものと異なる腸内バクテリアを体内に入れることで体重増加につながった例があり、「まだ人間でテストをするのは早いのではないか?」と指摘する声があがっています。


ワーゴ氏はこれらの指摘に対して「それでも臨床試験に入る必要があると強く感じています。当然、体内に入れる腸内バクテリアをうまく設計しなければなりませんが、この試験から学んでいく必要があります」と語り、臨床試験を通してノウハウを高めることで、1秒でも早く便微生物移植を実際の治療に役立てたいとしています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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