先生という専門的な職業ではなくても、その道に詳しい人は世の中にたくさんいるものです。中にはこれまで取り上げられてこなかったものの、他人から必要とされている知識や経験もあるでしょう。もしかしたら、自分もそういったスキルをもつ一人かもしれません。

そんなスキルを人と人とが教えあうスキルシェアサービスが時代の流れとして注目されています。いろいろなところが立ち上げる中、4月25日にメルカリが『teachaティーチャ)』を本格的に開始。iOS版、Web版にて、これまでの事前登録から一般公開となりました。teachaにはどのような特長があるのか、また、メルカリで培われた技術や経験はどう活かされているのでしょうか。

立ち上げのきっかけ

teachaを運営するのは、メルカリが100%出資している子会社である株式会社ソウゾウ。今回はソウゾウの鶴田浩之さんにお話しを伺いました。

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株式会社ソウゾウの鶴田浩之さん
Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

teachaは鶴田さんが担当する、新しいアプリを作るという新規事業の中で企画と立ち上げが行われました。もともと教師になりたいという夢を持っていた鶴田さんは、IT業界でのキャリアを活かしてテックアカデミーで講師をするなど、人に教える経験をしてきています。その経験の中、個人と個人が教え合うプラットフォームに興味を持ち、事業化できないかと考えるようになったそう。鶴田さんご自身が、メルカリの新規事業を担うソウゾウに入ったことがチャンスとなり、「teacha」として実現化に至ったとのこと。

取材時点で一般公開してまだ3日なものの、専門知識から趣味まで幅広いジャンルのレッスンが登録されています。たとえば、個人と個人が教えあうというサービスの特性から、語学やプログラミングは相性が良いと予想していたそうですが、やはりたくさんのレッスンが見られます。他にも、ビジネススキルやプログラミングのような実用的なものだけでなく、「消しゴムハンコを作る」のようにユニークなものまであります。

「運営側からも『こんな面白いレッスンもあるのか』と感じさせられる、学びたい人たちのさまざまなニーズにマッチングするようなレッスンが徐々に増えてきています。『メルカリ』がそうであったように、今後、いろいろな使われ方をしていく中で、思わぬ面白い文化も生まれるかもしれません。お客様と一緒に成長していけたらいいと思っています」

フリマアプリの『メルカリ』で培われた技術や経験が活きること

個人と個人がやりとりするサービスで『メルカリ』の実績がありますが、それが一番活かされているのはカスタマーサポートの体制だそうです。teachaのカスタマーサポートの担当はメルカリも担当した経験があるので、知見は統一されているとのこと。登録されたすべてのレッスンは24時間365日の監視体制で事後審査され、ガイドラインに反するなどの問題があった場合に対応がされます。

また、何かトラブルや要望があった場合の問い合わせのデータや、レッスンごとのレビューのデータを活用し、ガイドラインの改定をはじめ、サービスの向上につなげていく予定だそうです。

技術面では、アプリファーストで開発が進められているゆえの使いやすさが強み。『メルカリ』のIDと連携しています。『メルカリ』ユーザーは二度手間でクレジットカードを登録する必要がなく、利用開始が簡単なことに加えて、teacha で発生した売上金は、メルカリでのポイントに交換し、すぐにお買いものに使うことができます。

teachaで人に教えるには

開始して間もないですが、予想以上に「教えたい」という人が多かったそう。teachaで「教える人」になるには、事前に厳しい審査があるわけではないですが、禁止事項が書かれたガイドラインを守ることが基本です。また、teachaのコンセプトは「教える」と「学ぶ」こと。名刺をデザインといったクラウドソーシング的な使い方や物販はできません。ただ、レッスンとして「教える」形にできれば登録は可能ですし、どういう形態にすればできるかのアドバイスはもらえるそうです。

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Image: teacha

使い方の流れは、教える側としてレッスンを登録できたらアルバイトのシフトのように実施したい日時を登録しておきます。レッスンを受けたい人が申し込んでくるので、承認するかしないかを選択。マッチングが成立したら、teachaのチャットシステムを通して、レッスンを受ける人とどこの場所で行うかなどを調整して決定となります。つまり、日だけでなく時間も設定できるAirbnbのようなものです。教育版と言えるかもしれません。

レッスン終了後にレビューができ、終わると決済がされます。教える側がかかるのは、レッスン料に対して20%の金額となります。

ちなみに、教える側が受付けをしていなくても、teachaに登録しているレッスンを受けたいユーザーは「この人に習いたい」と思ったらリクエストを申し込めるようになっており、教える側はリクエストの状況に応じて、レッスンを開始することが可能です。本業は繁忙期があるなど時間がないときがあるという人にとっては嬉しい仕様でしょう。鶴田さん自身もteachaで先生として登録しているのだそう。

「私もプログラミングやWEBのレッスンを教える側として登録しています。先ほど見たらリクエストが何件か来ていましたので、GWの後半に2回くらいレッスンを開催しようかと思ってるんですよ」

教える、学ぶのハードルを限りなく下げたい

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Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

鶴田さんは他のスキルシェアサービスでも先生として人に教えているそうですが、やはり教える側になる敷居は高いと感じ、teachaを企画する際にどれだけそれを下げられるかを重視したとのこと。よって少人数制がコンセプトのひとつで、教わる人数は最大6人まで。これは鶴田さんが実際に人に教えた経験から、声が届いて全員をフォローできる人数として実感した数です。

また、教える側だけでなく、いかに気軽に学べるかということを重視しています。

「1レッスン30分500円から、1対1からマッチングが成立したら、お互いにとって近いカフェなどでもレッスンが開始できます。それに普通のスクールだと、無料体験がありますが、しつこく勧誘されるのではという不安もありますしね」

そんな風に語る鶴田さんによるteachaの目指したいイメージは、「町の先生」なのだそう。

「最寄りの一駅~二駅先くらいで教えてくれる人を探すことを想定しています。思い立ったらすぐ学びたいという欲求が起きたときに挑戦できる。相性の良い先生が見つかったら、ずっとリピートして使ってもらえる形にになれば、いいなと思っています」

近所づきあいが当たり前だった時代は、隣のおじいさんやお姉さんなどからちょっとしたことを教わるということは珍しくなく、近い目線で気軽に教えてもらえる良さがありました。teachaはその現代版になるのかもしれません。

親しみがあることもコンセプトとして重視しています。必ずしも、熟達した人が教える必要はないという考えです。私自身ピアノを弾きますが、姉から教わりましたから。先輩後輩くらいの感覚で先生と生徒の関係性ができるのが理想ですね。それに、1年前は自分も初心者だったという人に教わると、教える側はさらに自身の知識の体系化ができて、教わる方は気負わずに教えてもらえるというニーズもあるのではないでしょうか」

気になったら、まずやってみよう

やはり、個人と個人が教え合うのは抵抗があるという意見は聞かれるそうです。でも、『メルカリ』を開始した5年前にフリマアプリという市場はありませんでしたが、今は当たり前となっているので、teachaもまだこれからだと考えているとのこと。需要と供給を考えると「いい先生」が集まる工夫がもっと必要だと、アイデアを出し合っているのだとか。

では鶴田さんの考える「いい先生」はどんな先生なのかというと、特別なわけではなく、「働いている人」なのだそう。

「スケールに際限ないレッスンができて、最新のスキルを持っているというと、『いい先生』は実際に最前線で活躍している人だという結論に至りました。そこで、フルタイムの先生を抱える形ではなく、企業などで働く人が土日などに1時間でも他の人に教えるようにできたらいいなと。さまざまな分野からスキルを高めあえるだけでなく、新しいアイデンティティを持つことができる。そんな世界を見てみたいと思ったこともteachaを考えたきっかけのひとつです。ですので、何か得意なことや好きなことがあれば、レッスンをぜひ登録してみてください。『メルカリ』と同じく、うまくいかなくても売れなかったのと同じで、ペナルティのようなものはありませんしね。一回投稿してもらうと、一歩踏み出せるというか、新しい世界が見えるはずですよ」

さらに、鶴田さんは一歩踏み出すためのアドバイスにもなりそうな、次のことを語っています。

「まずは他のレッスンを見て、カジュアルなものが多いということを知っていただいて、自分にもこういうものを教えられるかもと感じるきっかけになると嬉しいですね。たとえば、歌のスクールというとボイストレーニングくらいだったと思いますけど、『カラオケで福山雅治ぽく歌う方法教えます』みたいな声まねトレーニングとか面白いですよね。個人の方が多種多様な趣味特技を組み合わせると、可能性は限りなく広がるので、どんなレッスンが今後出てくるのか楽しみですし、それをサポートしていきたいです」

スキルシェアサービスができる時代だからこそ広がった、「教えられる」「学べる」ことの選択肢。やらないのはもったいないのではと思えてきました。そのハードルをできるだけ低くしたteachaは、世の中に大きな影響を与えるきっかけにもなりそうです。そこからまた新しいサービスが生まれるかもしれません。今後のteachaだけでなく、それを通してこれからの時代がどうなっていくのかも楽しみです。


Image: teacha, franz12 / Shutterstock.com

Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

Source: teacha

Reference: テックアカデミー