iPhoneが生んだ「スマートフォン依存」から人々を救い出せ:アップルが進むべき道(3)

あらゆる人々の生活を変えたiPhoneは、同時に深刻なスマートフォン依存も生み出した。人々がスマートフォンと健康的な関係を結ぶために、いまこそアップルは動き出すべきなのかもしれない。『WIRED』UK版5/6月号の特集「Apple's next move」から、「iPodの父」であり、スティーブ・ジョブズのアドヴァイザーも務めた元アップルの上級副社長、トニー・ファデルの提言を紹介する。
iPhoneが生んだ「スマートフォン依存」から人々を救い出せ:アップルが進むべき道(3)
IMAGE BY BO LUNDBERG

1976年、スティーブ・ジョブズは「普通の人々にとってのコンピューター」を夢想した。40年後、その夢は実現し、世界人口の3分の1以上がスマートフォンを使用するようになった。だが、このデヴァイスの成功は意図せぬ結果ももたらした。スマホ中毒や過剰な使用の懸念がそのひとつだ。

「これはFacebookの問題だ」という人は多い。確かに、一部のアプリ提供者は(特に広告やアプリ内課金に経済的に依存している場合)ユーザーの気を散らしたり、ユーザーが常時接続デヴァイスを持ち続けている現状を利用するよう動機づけられていることがある。

しかしわたしは、これがただの「Facebookの問題」でもなければ、「子どもの問題」でもないと確信している。

iPhoneが発表されてからの10年間で、大人も子どもも含め、わたしたち全員の生活が変わった。いまでは常時接続の電子メールやメッセージのやり取り、買いもの、銀行取引などに加えて、SNSやゲーム、エンターテインメント系アプリが周りに溢れている。多くは無害のように見えるが、わたしたちは思っている以上にこれらを使用している。

デヴァイスの「健康的な使い方」に関する共通認識は存在しないし、有益な「推奨される利用法」を作成できるようになるにはまだデータが足りない。

比較のために、健康的な食事を例にとってみよう。食事で摂取すべきタンパク質や炭水化物の量については、科学者や栄養士からアドヴァイスを受けられる。自分の体重の評価基準となる標準的尺度もあれば、運動量にも基準がある。

だが、デジタルの「栄養」となると、何が「野菜」で、何が「タンパク質」や「脂質」なのかはわからない。何が「太り過ぎ」で、何が「やせ過ぎ」なのか。健康的で適度なデジタル生活とは、いったいどんなものなのだろうか。

メーカーとアプリ開発者の「責任」

義務づけられた栄養表示のようなかたちで政府の規制当局が介入してくる前に、メーカーとアプリ開発者が責任をもってこの基準をつくるべきだと思う。興味深いことに、米国にはすでにデジタルデトックスを扱うクリニックが存在する。友人のなかには、子どもをここに送り込んだという人もいる。だがわたしたちには、そうなる前に使える基本的なツールが必要だ。

アップルなら、この問題をプラットフォームレヴェルで解決することで、顧客基盤を維持、あるいは拡大することすら可能だと確信している。ユーザーに対して、自分のデヴァイスの利用状況をもっと理解できるような力を与えればいいのだ。そうするには、ユーザーがあらゆるデヴァイスにおける自分のデジタル活動を詳細に追跡できるようにする必要がある。

自分が費やした時間を正確に把握でき、望めば結果に応じて自分の行動を加減できなければならない。体重を測定するのと同じように、「デジタル的な体重」を測定できるメーターが必要だ。

デジタル消費データを、ほかの活動記録と一緒にカレンダーのように表示することもできるだろう。クレジットカードの請求書のように項目別にすることで、例えばメールや、SNS投稿のスクロールに1日どのくらいの時間を使っているのかを簡単に確認できる。歩数や心拍数、睡眠の質などを追跡する健康アプリのようなものだと思ってくれればいい。

こうした使用情報があれば、ユーザーは、例えば1日に達成すべき歩数目標のように、自分の目標を設定できるようになる。またアップルなら、ユーザーが設定メニューをあれこれいじらなくても、デヴァイスを「リスニング専用」や「リーディグ専用」モードに設定させることも可能だろう。そうすればユーザーは、ひっきりなしに鳴る通知音に邪魔されずに電子書籍を楽しめる。

ピースはすでに揃っている

アップルは、この問題に取り組むうえで申し分のない位置にいる。各種デヴァイスを横断したシステムレヴェルのコントロールを行うことができるからだ。自分のこうした情報にアクセスできたら、多くの人はその内容に驚き、行動を変えることを選ぶのではないかと思う。

わたしはすでにこうしたことを家族で行っている。「テクノロジーなしの日曜日」や、食卓でのデヴァイス使用禁止、あるいは、ペアレンタルコントロール製品「Circle」といったものも試している。

こうしたツールを設計して開発することは難しいことではないはずだ。ピースはすでに揃っているのだから、自律走行車をつくるよりはるかに簡単で、費用も安くすむだろう。

多くのIT企業とは異なり、アップルのビジネスモデルは、多くのデヴァイスを購入するユーザーを中心に展開している。それは必ずしも、「デヴァイスに多くの時間を費やすユーザー」を意味するわけではない。デジタル活動を追跡できるようにすれば、アップルはさらにデヴァイスを売ることができるようになるだろう。

デジタル活動を管理できる機能があれば、人は自分や子どものためにそうしたデヴァイスを買いやすくなる。アップルが正しいことをすれば、業界全体がそれに続くはずだ。

トニー・ファデル|TONY FADELL
エンジニア。2001年、iPodの開発責任者としてアップルに入社。「iPodの父」と呼ばれ、06〜08年は同社のiPod部門担当上級副社長を務めた。その後はスティーブ・ジョブズのアドヴァイザーとしても同社に貢献したが、10年に同社を退職した。


特集:アップルが進むべき道


TEXT BY TONY FADELL

TRANSLATION BY MIHO AMANO/GALILEO