ライドシェア大手のLyftは「カーボンニュートラル」なサーヴィスを目指す

ライドシェア大手のLyft(リフト)が、サーヴィスを「カーボンニュートラル」にする取り組みを打ち出した。すべての配車サーヴィスから生じる二酸化炭素を相殺するカーボン・オフセットに数百万ドル規模を投資することを表明したのだ。不祥事続きのUber(ウーバー)に次ぐ業界2位の同社は、「善良な市民」として存在価値を高められるのか。
ライドシェア大手のLyftは「カーボンニュートラル」なサーヴィスを目指す
PHOTO: KELLY SULLIVAN/GETTY IMAGES

Lyftリフト)の共同創業者兼プレジデントであるジョン・ジマーは何年も前から、環境における持続可能性についての自身の考えが、大学時代に受けた授業に影響を受けていると発言してきた。そしてその考えが、もっと環境志向の交通機関を生み出すという同社の目標につながっているのだと。

ジマーが受講したのは、コーネル大学の「グリーン・シティーズ(Green Cities)」という講座だった。ロバート・ヤング教授は最初の講義の冒頭に、何十年も前に建設された道路や交通網は、現在の都市人口の急増に耐えられるように設計されていないと説明したという。

「インフラ問題を解決しなければ、経済および環境面で大きな問題を抱えることになります」。ジマーは今年3月下旬、ワシントンD.C.で開かれた記者との座談会でこう語った。

2012年に創業したLyftは、Uber(ウーバー)に次ぐ業界第2位のライドシェアリング企業で、企業価値は110億ドル以上と評価されている。同社のライドシェアリングに関する構想は長年、マイカーを所有する必要性を減らすことに立脚してきた。

だが今回、同社はおそらく、CO2排出量の削減に向けて過去最大の有意義な行動をとった。世界全体で配車すべてのCO2排出量をオフセットし、全配車を「カーボンニュートラル」にすると約束したのだ。

カーボンオフセットに数百万ドル

ジマーと共同創業者のローガン・グリーンは「Medium」への投稿で、今後は「Lyftの配車を利用するという消費者の決定が、気候変動との闘いを支援することになります」と書いている。

投稿によると、Lyftの年間投資総額は100万トン分以上の炭素に相当し、「数千万本の木を植えたり、数十万台の車を道路から排除したりするのに相当」する。カーボンオフセット権の自発的な買い手としては世界有数になるという。

Lyftのコミュニケーション責任者であるスコット・コリエルの話では、投資費用は特に見積もっていないが、数百万ドルになる見込みらしい。NGO「Ecosystem Marketplace」の2015年報告書によると、12~13年におけるオフセット権の自発的な買い手のトップ3社は、ゼネラルモーターズ、バークレイズ銀行、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニー(PG&E)だ。それぞれ460万、210万、140万トンのカーボンオフセット権を買い付けている。

これまでカーボンオフセットプロジェクトのなかには、スキャンダルの疑惑を生み、厳しい目が向けられるものもあった。植樹や排出CO2の捕捉を約束して金をとる企業のなかには、無価値なものや、詐欺だと発覚したものもある。

コリエルはLyftのカーボンオフセットプロジェクトについて、Lyftの支援なしでは存在しなかったプロジェクトへの投資だと説明した。これらのプロジェクトは、いずれも米国が拠点であり、Lyftにとって最大の市場に近いものだ。

具体的には、ミシガン州における製造段階でのCO2削減や、オハイオ州での油の再利用、オクラホマ州の風力発電ファームへの投資などである。こうしたプロジェクトは、ACR(American Carbon Registry)やCAR(Climate Action Reserve)、VCS(Verified Carbon Standard)といった第三者の認定団体から厳正な検証を受ける。

ライドシェアの利用がクルマの利用を増やす?

Lyftが環境における持続可能性に向け明確な姿勢を示したのは、今回が初めてというわけではない。ドナルド・トランプ米大統領が17年にパリ協定離脱の意向を表明したあと、多くの州や都市、企業が、パリ協定で約束された米国のCO2排出量削減目標を維持すると誓う「ウィー・アー・スティル・イン(We Are Still In)」宣言を行ったが、Lyftはこれに署名している(Uberも参加している)。

Lyftは当時、25年までに車両の大部分を自律走行車や電気自動車(EV)にする計画の概要も発表した。「将来的にもっと多くの電気自動車をLyftに投入すれば、オフセットの必要性を減らすのに役立ちます」と、コリエルは書いている。

Uberは最近、自動車所有の削減を目指す独自の取り組みの一環として従来の方針を転換し、複数の交通手段を提供するようになった。自動車だけでなく、自転車のシェアリングサーヴィスをアプリに組み込むようにしたのだ。なお、UberはCO2排出量のオフセット計画は発表しておらず、Lyftの発表についてもコメントを避けた。

カーボンニュートラルに向けたLyftの取り組みは、特に有意義だ。というのも、ライドシェアリング業界は皮肉なことに、これまでのところ車両の走行距離を減らすのではなく、増やしていると見られるからだ。

確かに、ライドシェアリング利用者はマイカーの所有をあきらめる可能性が高いことを示唆する研究はある。その一方で、オンデマンド配車が便利で比較的低料金であるため、旅行者が利用し、本来なら生じない環境汚染がもたらされていることを示す調査結果が増えている。

また、こうしたサーヴィスにひきつけられる乗客は公共交通機関を利用しなくなるので、UberやLyftの利用が特に環境に優しいとは主張しにくくなっている。今回のLyftによる発表は、そうした状況を変えるものだ。

Lyftは「完璧な市民」になれるか

Lyftが完璧な市民であるとか、地球を救う賢い企業であるなどとはとても言えない。米国の都市は可能な範囲で、環境面で最も効率が高いかたちで道路空間を整理しようとしている。だが同社はUberとともに、地元の規制を未然に食い止めようと州議会議員に働きかけている。Lyftのこうした動きによって、都市にとって可能なことが制限されるかもしれない。

それに持続可能性の観点から言えば、Lyftのビジネス自体をカーボンニュートラルにして、Uberがやろうとしているように自転車シェアリングに投資するほうがおそらく望ましいだろう。たとえ再生可能エネルギーを利用したEVであっても、カーボンフットプリント(炭素の排出量))はかなり多い。顧客が、どれも同じように環境に優しいと考えて、徒歩や自転車の代わりにLyftを利用するとすれば、それは間違いだ。

とはいえLyftはこの1年間、ジマーの言葉を借りれば、不祥事続きのUberに代わる「意識の高い」企業というイメージを獲得するため本腰を入れて取り組んできた。米国自由人権協会(ACLU)への寄付や、銃規制を求める集会への無料送迎は、進歩主義者の間で信頼を勝ち取ってきた。

カーボンニュートラル化はおそらく、こうした方向性のなかでも最も大きな一歩になるだろう。同社の最も基本的な約束を持続的に守るということになるからだ。

オバマ政権下で環境に優しいブランドを目指していた自動車メーカー各社は、トランプ政権下で昔に戻り、環境規制を弱めるよう迫っている。こうしたなか、これは真に重要なことと言える。

Lyftは社会意識の高い交通システムには市場価値があると確信しているようだ。顧客はほかのアプリやマイカーよりもよい選択だと理解してLyftを選ぶはずだ、と。

ジマーは3月、次のように語っている。「一連の価値を積極的に追求しているのは、ひとつにはそうするのが正しいと考えているからであり、ふたつ目にはビジネスにプラスになると考えているからです。そうしたことを証明しようと懸命に取り組んでいます」

この記事はCityLabに掲載されたもので、Climate Deskとのコラボレーションの一部です。

TEXT BY LAURA BLISS

TRANSLATION BY MINORI YAGURA/GALILEO