疲れにくく、疲れたとしてもすぐに回復できる体になるには、どうしたらいいのか?

それは、多くのビジネスパーソンにとっての悩みでもあるでしょう。そこでご紹介したいのが、『スタンフォード式 疲れない体』(山田知生著、サンマーク出版)です。

世界でもトップレベルを誇るスタンフォード大学の「科学的知見」。 在籍している多くの学生選手が世界レベルの大会に出場し、その層が『全米No.1』といわれるスタンフォード大学のアスリートたちのために、同大学のスポーツ医局が実践している「最新のリカバリー法」。 この2つを軸に組み立てた「疲労予防」と「疲労回復」のメソッドを初めてまとめたものが、この本です。 (「プロローグ 全米最強のスポーツ医局が明かす『疲れない体』の作り方」より)

著者は、スタンフォード大学スポーツ医局のアソシエイトディレクター。スポーツ医局の方向性とビジョンを決め、医局で働くスタッフを統括しているのだそうです。また現役のアスレチックトレーナーでもあり、現在、東京オリンピックでメダル獲得を目指す水泳チームを専属で担当しているのだとか。

スタンフォードには「頭のいいエリート大学」というようなイメージがありますが、「賢い」というのはあくまで一面にすぎず、実際には「文武両道の大学」。多くの競技で、多数のプロアスリートを輩出しているのだそうです。つまり本書では、スタンフォードが培ってきたそのような実績を軸に、「疲労予防」「疲労回復」についての独自の考え方を公開しているわけです。

きょうはそのなかから、1章「世界最新の疲労予防『IAP』メソッド ―― 『体内圧力』を高めてダメージを完全にブロックする」に焦点を当ててみたいと思います。疲労を予防し、「疲れない体」をつくるため、スタンフォードで選手たちが実践しているという疲労とケガを防止する理論『IAP』に焦点を当てたパートです。

IAP呼吸法とは? スタンフォードスポーツ医局が取り組む「疲労対策」

さまざまな疲労回復法を実践しているスタンフォードにおける、いちばんのトピックスが「IAP呼吸法」。ちょっと疲れているという選手も、ケガでリハビリ中の選手も、慢性的な痛みがある選手も、必ずIAP呼吸法を行いながらメンテナンスするというのです。

「IAP」とはIntra Abdominal Pressureの略で、日本語に訳すと「腹腔(ふくこう)内圧(腹圧)」。人間のおなかのなかには「腹腔」と呼ばれる、胃や肝臓などの内臓を収める空間があり、この腹腔内の圧力が「IAP」。

「IAPが高い(上昇する)」という場合は、肺に空気がたくさん入って腹腔の上にある横隔膜が下がり、それに押される形で腹腔が圧縮され、腹腔内の圧力が高まって外向きに力がかかっている状態を指すのだそうです。

IAP呼吸法とは、息を吸うときも吐くときも、お腹の中の圧力を高めてお腹周りを固くする呼吸法で、お腹周りを固くしたまま息を吐ききるのが特徴です。(70ページより)

著者は「腹圧呼吸」とも呼んでいるといいますが、しばしば「腹式呼吸」と間違われることも。しかし両者は大きく異なる呼吸法であり、その違いは、息を吐き出すときに「おなかをへこませる」か「へこませないか」という点。

腹式呼吸の場合は「息を吐くと同時におなかをへこませる(IAPを弱める)」わけですが、腹圧呼吸ではおなかをへこませず、息を吐くときも圧をおなかの外にかけるように意識して(=高IAPを維持)、おなかまわりを「固く」するということです。

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Image: サンマーク出版

腹腔の圧力が高まることで体の軸、すなわち体幹と脊柱という「体の中心」が支えられて安定し、無理のない姿勢を保つことができるわけです。そうして体の中心を正しい状態でキープすることで、中枢神経の指令の通りがよくなって体の各部と脳神経がうまく連携。そのため、余分な負荷が減るという理論です。(68ページより)

高IAPで体が「無駄なエネルギー」を使わなくなる

「IAP呼吸法」を実践すると、次のような効果が期待できるそうです。

・腹圧が高まることで、体の中心(体幹と脊柱)がしっかり安定する

・体幹と脊柱が安定すると、正しい姿勢になる

・正しい姿勢になると、中枢神経と体の連携がスムーズになる

・中枢神経と体の連携がスムーズになると、体が「ベストポジション」(体の各パーツが本来あるべきところにきちんとある状態)になる

・体が「ベストポジション」になると、無理な動きがなくなる

・無理な動きがなくなると、体のパフォーマンス・レベルが上がり、疲れやケガも防げる (72ページより)

だとすれば、それは「好循環」であると言えるはず。

体のバランスは、疲れと大いに関係する要素。逆にいえば、体が歪んで姿勢が悪くなり、それが定着してしまうと、ちょっとした動きにも余計な負荷がかかるようになるわけです。それが慢性化すると、限られたエネルギーを無駄に消耗する「疲れやすい体」になってしまうということ。(72ページより)

「肺の下の筋肉」を動かす

腹圧呼吸が重要だといっても、自然にそれを行うことは難しく、最初はトレーニングが必要。そのトレーニングこそが、IAP呼吸法だということです。そこで本書では、「腹圧=IAP」「腹圧を高める呼吸=腹圧呼吸」「腹圧呼吸をマスターするためのトレーニング=IAP呼吸法」と定義しているそうです。

私たちの体は筋肉の使い方の癖や骨格の違い、生活習慣によってゆがんでいるもの。そこで、腹圧呼吸をモノにするためにもIAP呼吸法をしていくべきだということ。「腹圧が高い」状態を自然につくれるようになれば、姿勢も整っていくという発想です。

呼吸は無意識に行なっているだけに、「いつものやり方」が癖になっているものです。意識的に変えなければ、いつまでたっても浅い胸呼吸のまま。胸呼吸を続けていたら、姿勢は歪んだまま。そして歪んだ姿勢で呼吸を続けていれば、体は疲れやすいままだということ。

なおIAP呼吸法をマスターするために、まずは横隔膜に目を向けることを著者は勧めています。横隔膜は呼吸に関する筋肉で、下の図のように肋骨に囲まれているもの。この横隔膜こそが「IAP呼吸法」のポイントで、疲労予防の鍵になるというのです。

(74ページより)

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Image: サンマーク出版

「横隔膜の可動力」がきわめて重要

胸だけの浅い呼吸をしていると、肺の下にある横隔膜をあまり動かせないため、本来上がったり下がったりする横隔膜の動きが悪くなるそうです。するとおなかに圧力はかかりにくくなり、体は縮こまり、姿勢が悪くなり、中枢神経の信号も体の各部に届きにくくなるため、より疲れやすい体になるわけです。

逆に横隔膜をしっかり下げて息を吸えば、腹腔が上からプレスされ、外側に圧力がかかることに。横隔膜を下げながら息を目一杯吸い、お腹をパンパンに膨らませたまま息を吐くのが、自然に腹圧がかかった「腹圧呼吸」。

横隔膜を下げて腹腔内に圧力が生じた結果、おなかは外側へ膨らみ、体幹まわりの筋肉が360度ぐるりと伸びることになります。これが、おなかが大きく固くなる仕組み。また、「おなかの内側から圧力」がかかると、それを押し返そうとして「おなかの外側からの筋力」も働くことになります。

このダブルの力で、体の中心(体幹と脊柱)がしっかり安定し、姿勢が整うということ。これが、IAPを高めることによる「体の中心・基礎固め」効果だといいます。

(76ページより)

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Image: サンマーク出版

実践! ボディ・バランスを整える「IAP呼吸法」

実際に横隔膜を下げ、おなかを膨らませたまま息を吐ききる「IAP呼吸法」は、その感覚をつかむためにも、座って練習するのがいいそうです。

取り組む前に

・筋肉に力を入れずに、できるだけリラックスして行いましょう。

・決して無理をせず、体調が途中ですぐれなくなったりしたときは中断。コンディションが戻ってから再開しましょう。

・疲労を防止するためにも、「1日最低1回」は取り組みましょう。 (79ページより)

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Image: サンマーク出版

所要時間は1分程度なので、忙しい人でも行いやすいはず。「腹圧を高めておなかを膨らませたまま、息を吐く」感覚をつかむためにも、最初は指先を足のつけ根に差し込んで練習するのがいいそうです。

そして慣れてきたら、今度は手を使わずに行い、立ってできるようになったら普段の生活でも「IAP呼吸法」を実践し、できるだけ腹圧を高めて呼吸するようにシフトしていけばOK。(79ページより)




IAP呼吸法はシンプルでありながら、疲れの予防と解消が期待できる強力なメソッドだと著者はいいます。なぜなら「呼吸」は、体の働きのなかで“数”的にも“内容”的にも非常に大きな要素を占めているから。決して難しいものではないので、試してみてはいかがでしょうか?


Image: サンマーク出版

Photo: 印南敦史