サンフランシスコを走る電動キックスケーターは、かつてUberが起こした「紛争」を繰り返すのか

新たな交通手段として注目される「シェアリングキックスケーター」が、サンフランシスコで大きな問題となっている。シェアリングキックスケーターのサーヴィスを提供する企業は、かつてUberが引き起こした紛争をまた繰り返してしまうのか? 新たなモビリティが引き起こす問題を整理し、その本質を考えた。
サンフランシスコを走る電動キックスケーターは、かつてUberが起こした「紛争」を繰り返すのか
サンフランシスコで急増する電動キックスケーターシェアリングサーヴィス。いらだちを感じる人々と愛情を感じる人々が、その価値を議論するために市庁舎に詰めかけた。PHOTO: GETTY IMAGES

議場の半分を取り囲み交代で発言を求める人々の列は、混雑している複雑な街の縮図のようだ。そのなかには、テック系スタートアップの代表もいれば、電動車椅子に乗った身体障害者の支援者たちや、ギグエコノミーによって臨時収入を得ている武道のインストラクター、そして現状を懸念する大勢の市民たちがいる。

地域住民のフラン・テイラーは、サンフランシスコ市監理委員会に対して、「無秩序に走り回るこれらのキックスケーターは、実のところわれわれのような高齢者を絶滅させようとする若者たちの陰謀だと思います。彼らは、われわれがレントコントロール(家賃制限)を受けて住んでいる住宅を奪おうとしているのです」と訴えた。

不格好な電動キックスケーター[日本語版記事]を悪質な陰謀に結びつけたこの発言はナンセンスな冗談のようだったが、いかにもサンフランシスコ的でもある。4月16日午後(米国時間)のサンフランシスコ市庁舎には、不満をもつ大勢の人々が監理委員会の土地利用および輸送委員会が行った会議に出席しようと詰めかけていた。

無許可のシェアリングキックスケーターや、公道上に駐車されたキックスケーターを撤去し、所有する企業に罰金を科す権限を市に与えるための条例案について、会場では議論が交わされていた。

ただし今回の公聴会からは、問題が実際にはもっと深刻なものだという印象を受けた。成長を続けるモビリティ(移動手段)市場に参入しようとするスタートアップは、各都市との間で対立を激化させている。キックスケーターは、この対立の最も新しい動きにすぎない。

企業の狡猾なやり口

こうした対立の一番乗りは、UberとLyftだった。そのあとにChariotやViaなどの「マイクロトランジット」[日本語版記事]を扱う企業が続き、さらに、ドックレスの自転車シェアサーヴィス[日本語版記事]が登場した。JumpやOfo、Bluegogo、Mobikeといった企業だ。そして現在は電動キックスケーターが、民間企業は公道をどのように利用できるのか、そしてそれに対して当局はどのように対処するべきかという課題を突き付けている。

議題となった条例案を作成したひとりであるアーロン・ぺスキン委員は、「本当にメッセージを送りたい相手は、これらのキックスケーターだけではありません」と述べた。「テック系企業の人たちが、何かが起きてから許可を請うのではなく、自ら進んで協力的なかたちで許可を求めてくれることを願っているのです」

背景を少し説明しよう。2018年3月中旬に、電動シェアリングキックスケーターを提供するBird、LimeBike、Spinの3社が、市条例の小さな抜け穴を利用してサンフランシスコでサーヴィスを開始した。条例によると、このようなサーヴィスを運営するための営業許可は必要ないのだという。

とはいえ、3社が提供するバッテリー電源のキックスケーターは最高速度が時速15マイル(約24km)もある。しかもその保管場所は歩道だ。つまり、公共の共有スペースであり、徒歩や車椅子の人々が普段利用する場所なのだ。

4月16日の会議で監理委員たちを特にいらだたせたのは、街で事業を開始する前に各企業から詳細な通知がなかったことだ。ぺスキン委員とともに条例案を作成したジェーン・キム委員は、Spinが誤解を招くような言葉を使って、キム委員が開業の許可を与えたかのように見せかけようとしたと述べた。

さらにぺスキン委員は、Birdがメディアに対して誤解を招くリリースを送ったと批判した。それは、電動キックスケーターを禁止しようとする同市が、通常は地震のような災害のためだけに使われる緊急措置を発動させようとしているという内容のリリースだったという。

条例案は、土地利用および輸送委員会において全員の賛成を受けて可決され、翌17日の監理委員会でも満場一致で可決された。その一方でサンフランシスコ市交通局は、電動キックスケーターの許認可手続きを整えるための作業を続けており、夏までには完了する予定だ。

各都市に広がるいらだち

キックスケーターに対するこうしたいらだちは、サンフランシスコだけに見られるものではない。カリフォルニア州サンディエゴや、テキサス州オースティン、ワシントンD.C.では、近隣住民や高齢者、障害者、歩行者などからなる複数の団体が協力し、都市中心部で進むシェアリングキックスケーターの急速な導入に対して反対の声を挙げている。その主張は、電動キックスケーターは歩道を走ることが多く、バスやクルマの乗り降りに不可欠な歩道をふさぎ、転倒の危険もあるというものだ。

クルマを使わない交通手段を推進する最終準備を進めていた市当局は、板挟みの状態だ。そして、交通問題を悪化させることなく、誰にとっても安全で快適な道路を維持できるような、手ごろな価格で環境に優しい移動の選択肢が望まれると述べている。

サンフランシスコにおける解決策のほとんどは罰則によるものだ。16日に市庁舎で公聴会が行われていた一方で、市検察局はシェアリングキックスケーター業者3社に対して業務停止通告書を送付した。歩道上でヘルメットをつけず電動キックスケーターに乗るユーザーを容認していること、および許可なく歩道を障害物でふさいでいることが、カリフォルニア州の法律に違反していると通告したのだ。

Bird、Spin、LimeBikeの代表者たちは声明を出し、当局とは話し合いを続けるがサーヴィスを停止するつもりはないと述べた。さらにBirdとLimeBikeは、今後サンフランシスコのユーザーはキックスケーターの利用後に、駐車した車両の写真を撮影してアップロードして、道をふさいでいないことを示さなければならないようにすると説明した。市検察局では3社に対して4月30日まで猶予を与え、事業内容を見直して、どのようにして違反をなくしたかを説明するよう求めた。

さらにカリフォルニア州サンタモニカ市は強硬路線をとっている。適切な営業許可を取得しなかったとして、Birdに30万ドルの罰金を科したのだ。同社は罰金を支払った。

これ以外の市は、もう少し柔軟に対応している。オースティン交通局は、当初これらの電動キックスケーターを押収していたが、現在は各企業に対し、稼働する車両台数に厳格な上限を定めたうえで、迅速な許認可手続きを整備し、交通サーヴィスが不足している地域の車両には助成金を出すとも提案している。

ワシントンD.C.には対象範囲の広いドックレスの試験プログラムがあり、このなかに電動キックスケーターも含まれている。このプログラムでは、多数の企業に市内でのサーヴィス事業を認める一方で、企業が守るべき規則は当局が決めることになっている。

「空間」の共有こそが問題

全体的な状況に見覚えがあるような気がするのは、各市の規制に対してこれまでUberがとってきた姿勢のせいだ。Uberは、「まず開業し、あとで質問する」というやり方によって、地方の政治家たちに苦い思いをさせた。そして数年にわたって広く注目を集めたUberの一連の紛争のあとでは、たとえその戦略がどことなく模倣されただけであったとしても、テック系企業に反対した方が政治的に適切だと感じられるようになった。

そういうこともあって、ぺスキン委員は会議冒頭の発言のなかで、シェアリングキックスケーター各社の戦略を「攻撃的で傲慢」だと述べ、嫌悪感を明らかにした。

「われわれはどういうわけか、Uberが公共輸送手段に代わるものであり、道路の混雑を緩和していると聞かされています。ところが、サンフランシスコ交通局が作成した信頼できるデータによると、実際にはピーク時に市内の一部の地域で渋滞が26パーセント増える原因となっているのです」とぺスキン委員は述べた。

この調査はUberとLyftのデータをかき集めて行われたものである。ラッシュ時におけるサンフランシスコ市のダウンタウンとSoMa周辺の移動のうち、Uberなど交通ネットワーク企業によるものが20〜26パーセントを占めると推定している。

驚くことではないが、電動キックスケーターの支持派は、自分たちは「Uberとは違う」ことを示そうとしている。公聴会では、市内でも特に交通サーヴィスが不足している地域のひとつであるベイヴュー・ハンターズポイント地区の住民たちが、LimeBikeが地元のコミュニティ団体と提携して地元住民を雇用していると指摘した。キックスケーターを充電して道路に戻すことで1台につき5ドルを稼いでいるBirdの「チャージャー」たちは、このような臨時収入が米国で最も物価の高い街での助けになるのだと語った。

一方で高齢者団体は、徒歩や車椅子で行きやすいようにつくられていないことが多い場所に行くことの難しさについて主張した。要するに問題は、サンフランシスコ市民(およびすべての都会に住む人々)が、自分たちのクルマや自転車、キックスケーターを共有するだけでなく、自分たちの空間を共有することができるかということなのだ。


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TEXT BY AARIAN MARSHALL

TRANSLATION BY MAYUMI HIRAI/GALILEO