現代アートを巡る議論の現場に、アフリカ視点の「対話」の重要性を見た:アフリカンアートの現在地(2)

従来のアートが欧米中心に考えられ、つくられてきたなか、そこにアフリカは何を提示できるのか。ロンドンで開催された現代アートフェア「1-54 Contemporary African Art Fair」は単なる展示にとどまらず、対話を促す場が設が設けられるといった固有の「オープンさ」が存在していた。アフリカからの多様な視点を世界に発信することをミッションに活動する、「Maki & Mpho」共同創業者・代表のナカタマキによる集中連載の第2回。
現代アートを巡る議論の現場に、アフリカ視点の「対話」の重要性を見た:アフリカンアートの現在地(2)
2013年、17のギャラリーが参加して開始したアートフェア「1-54 Contemporary African Art Fair」。2017年は、実に42ギャラリー、130組以上のアーティストが展示していた。PHOTOGRAPH BY KATRINA SORRENTINO

イギリスで最大規模の現代アートフェアの「フリーズ・ロンドン(Frieze London)」が、毎年10月にロンドンのリージェントパークで開催されている。これと並んで注目されているのが、サテライトフェアとして開催された「1-54 Contemporary African Art Fair」(以下1-54)だ。アフリカおよびアフリカ系ディアスポラの現代アートに特化したこのアートフェアは、いまや英国のみでの開催にとどまらず、2015年にはニューヨーク・エディションもスタートし、18年2月からは待望のアフリカ大陸開催となるマラケシュ・エディションも始まった。

対話の場としてのアートフェア

そもそもアートフェアと名のつく催しには、「アート」と名のつく場所に特有な堅苦しさはない。だが、1-54におけるオープンさは際立っていた。

2017年に開催された際のロンドン会場には、13年のスタート当初から変わらずロンドン中心部に位置するサマセット・ハウスが選ばれている。歴史ある門をくぐると、目の前には石造りのコの字型の建物に囲まれた大きな中庭が広がる。その中庭では、カメルーン人アーティスト、パスカル・マルティーヌ・タユによる巨大なインスタレーションが出迎えてくれた。

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カメルーン人アーティスト、パスカル・マルティーヌ・タユによるインスタレーション「Summer Surprise」。

1-54の「オープンさ」を象徴するのが、こうしたインスタレーションや世界各国からのギャラリー出展だけでなく、対話を促す場が設定されていることだ。会期中、週末の午後になると1時間程度のセッションが計9回開催され、アーティストや専門家を招いての対話が行われた。

2017年のテーマは「The Conversationists」。「対話する人」を意味するこのテーマに込めた想いを、キュレーターを務めるカメルーン人、コヨ・クオに訊いた。彼女は1-54の開始当初からキュレーターとしてかかわってきた人物だ。

アフリカの視点、世界の視点

クオは現在、セネガルのダカールにおいて、芸術、ナレッジ、社会を取り巻く対話を促す機関「RAW Material Company」の主宰者として、キュレーション、アートに関する教育的プログラムや、アーティストのレジデンシープログラムなどを開催している。

モデレーターを務めたクオ。今回のテーマは「The Future of Conversation」。まさに「対話の未来」を探るディスカッションが繰り広げられた。PHOTOGRAPH BY KATRINA SORRENTINO

RAW Material Companyは、アフリカにおけるアート・知的創造性に対する適切な評価をし、それらの成長を促すことを目的としている。そしてそれは、クオ自身にとってのパッションでもあるという。

「(1-54のトークセッションを)アートフェアにありがちなものにしたくないという思いがありました。(現状からの)逸脱が必要とされる議題、つまりキュレーションや批評、そしてアートに関する条件、さらには芸術の領域の決定にまつわる相互作用に関して議論する、包括的なシンポジウムにしたいと思っていたのです」

つまるところクオの試みは、アートが欧米中心に考えられ、つくられ、提示され、保存され、批判されてきた現状に対するスタンスを提示することにあるわけだ。

彼女はアフリカの視点を通じて、これまでのナラティヴを複雑化させる必要があるとも言う。論点は次の2つだ。「グローバルな文脈において、地政学もしくは認識としてのアフリカやアフリカのディアスポラに、どのようにアプローチし続けることができるのか」。そして、「批評する主体は誰であり、文化創造のナレッジをどのようにシフトしていくことができるのか」である。

デジタルメディア時代の「対話」

クオは、そのために必要なものとして「対話」の重要性を挙げる。それではなぜ、いま対話なのか。クオに直接質問を投げかけた。

「わたしたちのまわりには対話が溢れています。対話の形態はさまざまなかたちに発達しました。デジタル技術によって、わたしたちは常に会話をしています。しかし、その会話の相手は、ある意味抽象的で目に見えることがありません」と、クオは言う。

そして次のように続けた。「こうした会話の『Facebook化』あるいは『Instagram化』によって、何を議論しているのか領域を限定するのが非常に難しくなっています。会話は単なるサウンドバイツに集約されてしまっていて、中身がありません。画像がすべてに取って代わっています。こうした現況が、フェアやビエンナーレにとってどういった意味をもつのかに興味をもったわけです。フェアやビエンナーレは、まさに芸術的なプラクティスにかかわる枠組みを展開するために行っているものですからね」

過去に実施されたパネルディスカッションの様子。PHOTOGRAPH BY KATRINA SORRENTINO

クオはもちろん、テクノロジーを日々活用し、それらが不可欠なことを認識している。しかし、ソーシャルメディアが「過大評価されすぎている」というスタンスでもある。

一方で、若いクリエイターたちがソーシャルメディアをおおいに活用しているのも事実だ。実際、『WIRED』日本版VOL.29でも取材をしたナイロビや南アフリカの若いクリエイターたちは、ソーシャルメディアでの発信を通して自己実現を果たしている。そういった若者たちについては、どう考えているのだろう?

「(ソーシャルメディアは)ツール。包装でしかなくて、多くの部分はノイズでしかないのです。デジタル化は、わたしたちのベストな部分とワーストな部分を表面化すると思います。人と人との関係性に取って代わるものではありません」

フォーラム2日目の最初のパネルディスカッションのタイトルは「The Future of Conversation」で、クオがモデレーターを務めた。パネリストは作家で文化コンサルタントのアンドラス・ザント(András Szántó)、ヴェニス・ビエンナーレのナイジェリアパヴィリオンの共同キュレーターでもあるアデンレレ・ソナリウォ(Adenrele Sonariwo)、17年のケープタウン・アートフェアのキュレーターをつとめたトゥメロ・モサカ(Tumelo Mosaka)の3名である。

彼らの「対話」においては、サウンドバイツやキャッチーなフレーズもなければ、思わず写真を撮りたくなるようなスライドも存在していなかった。欧米がその枠組みをリードするアートの世界という文脈において、もがきながらもある視点を示し、対話を促進しようとする、「対話する人」のみが、ただそこに存在していた。そして、その対話を共有したものだけが、新たな視点を獲得できるような気がした。

『ブラックパンサー』というハリウッド映画における成功は、世界が「アフリカン・ディアスポラ」の視点を獲得するきっかけになったかもしれないが、やはりクオが懸念するところの中身の薄いやりとりとして過ぎ去っていくようにも感じられる。アフリカの視点を「ハイプ」として終わらせないためにも、こうしたアートフェアにおける、対話の場に参加し続けたい。

ナカタマキ|MAKI NAKATA
Maki & Mpho LLC共同創業者・代表。南アフリカ人デザイナー、ムポ・ムエンダネとともに、ファッション・インテリアブランド「MAKI MPHO」の企画販売事業、世界の時事問題や動向をアフリカ視点から発信するメディア事業を展開している。makiandmpho.com


短期集中連載:アフリカンアートの現在地


TEXT BY MAKI NAKATA