出会い系サイトに顔写真を擦り切れるまで使われる人たち

  • 112,517

  • author satomi
  • X
  • Facebook
  • LINE
  • はてな
  • クリップボードにコピー
  • ×
出会い系サイトに顔写真を擦り切れるまで使われる人たち
Image: Angelica Alzona (Gizmodo Media Group)

「デートを再び偉大にする(make dating great again.)」を旗印に春先に誕生したトランプ支持者の出会い系サイト「Trump.dating」。トップページに性犯罪歴のある人物の写真が使われ、運営者が正体不明で、異性しか検索できないと騒がれた割には公称25万人突破だそうですよ?

広報窓口のSean McGrosslerさんにメールで取材したら、「月24.99ドル支払う有料会員も25%以上いる」と教えてくれました。それが本当なら数カ月で1億円ほど稼いだことになります。

アンチの出会い系サイト「NeverTrump.dating」も数週間後に誕生し、これまたFacebookページしかない素性の知れない母体の割にはメディア話題になりました(Facebookの更新は3月で止まっていて、取材にも返事はなかったです)。

これで関心をもったデータ&ソサエティ研究所のAlexandra Mateescu研究員は利用登録し、内情を調べてみることにしました。さっそく地元ニューヨークの男性を検索してみると、リベラルの牙城の割にはトランプ支持者がうようよヒット。人種もさまざま混じっているではないですか。目を見張るAlexandraさん。でもプロフィールにはトランプのトの字もなくて、なんだかヘンです。直接話を聞いてみたいけど、有料会員にならないとメッセージはできないし、会員になるのは抵抗があります。しょうがないので、すでに会員になっている人の顔写真をリバース検索して探してみることにしました。

するとなんということでしょう。

「NY在住のトランプ支持者」はフロリダの不動産屋さん、上海の教員、西海岸のゲイのボディビルダー、サンフランシスコ周辺の不動産屋さん、乱射で亡くなったフロリダの男性などなどなどなど、トランプとは縁もゆかりもない世界中のあらゆる地域のあらゆる人びとだったのです!

勝手に写真が使われてしまった人々

出会い系サイトで使われている顔写真の圧倒的大多数は犯罪容疑者でした。そう、容疑者。警察で逮捕時にマグショット撮りますからね。アメリカではFBIが逮捕した時の顔写真は自動的にパブリックドメインになるので、誰でも無料で転載できるのです。もっとも訴訟リスクのないフリー素材と言えます。編集部に偽プロフィールと本物のサンプルを送信してくれたので、こちらも可能な範囲で当たってみることにしました。

まずひとり目。

180530ADBrown
Image: Trump.dating, The Register
2年前の銃乱射で死亡したAntonio Davon Brownさん

「25歳、結婚歴なし、ニューヨーク在住」。笑顔が素敵ですね。画像検索してみたらフロリダで2年前に起こったナイトクラブ「Pulse」の乱射事件で命を落とした予備役将校Antonio Davon Brownさん(享年30歳)であることがわかりました。軍服姿の写真は出会い系サイトで頻繁に悪用されるため、米軍はアラートを発令しているほどです。ここでは事件報道で使用された計5枚の顔写真がトランプ支持者の出会い系サイトに無断転載されていました。

次は「交際相手を真剣に探している58歳のニューヨーカー」。こちらは、どちらかと言えば男性が好みのカリフォルニアの不動産業の男性と判明しました。「年4回以上は詐欺で使われる」と嘆いているので、トランプ支持者の出会い系サイトで使われていますよ、と教えてあげたら頭が爆発する絵文字を送ってきました。

続いて「バツイチで遊び相手を探しているカリフォルニア在住のCanadaluvieさん」。こちらは、ミズーリ州の教会でパートタイムで広報のお仕事をしている既婚男性のGary Allmanさんでした。めがね、白ひげ、優しそうな目。本当にどこにでもいる普通の人で、「なんでサクラ画像に!?」って思っちゃいますよね。

180530GaryAllman
Image: Trump.dating, Flickr
出会い系サイトに刷り切れるまで顔写真が使われているGary Allmanさん

Allmanさんは副業がフォトグラファーで、数年前に毎日自撮りをFlickrにアップロードするプロジェクトを1年間続けたことがあるんですね。だから顔写真がオンラインにあり余るほどあって、出会い系サイトにいいように使われているというわけです。Allmanさん自身、Flickrに顔写真を投稿したことを後悔してはいません(現在の夫人と出会ったのはFlickrだった)が、なにしろ盗用の数が半端なくて、Facebookだけでも70個もなりすましアカウントがあるんだそうですよ? なぜ把握しているのかというと、みなどことなく本名に近いニックネームがついているからです。転載マンもネタ切れなんでしょうか。

(Facebookは顔認識技術でなりすましを検出したら本人に通知すると昨年発表しましたけど、自分の友達の範囲内でしか検出できないので、あんまり効果はあがってないとWashington Postがこないだ書いてました。)

「(詐欺の犯人だと勘違いされてしまい、)詐欺被害者からつきまとわれて嫌な思いをしたこともあるし、Facebookメッセンジャーで嫌がらせもしょっちゅうです。何度もしつこく電話をかけてくる女性もいましたが、その人は割と早い段階で僕が犯人じゃないって気づいてくれました」

…大変だ…。Allmanさんはブログで「(無断で画像が使われているなりすましアカウントと違って)奥さんはまだ生きてます。ダラスでもジュネーブでもなくミズーリ州スプリングフィールド在住です。おごられる番のとき以外、お金は要りません」と書き、なりすまし詐欺被害者に警戒を呼び掛けています。

トランプ支持者の出会い系サイト広報マンに通報したら、「詐欺の通報があれば、かならず調べて適宜追放処分にしています」とメールが返ってきました。


大量の「アクティブユーザー」はどこからやってくるの?

まあ、よくよく調べてみたら、トランプ支持者の出会い系サイトもアンチトランプの出会い系サイトも、使っているサービスは共通で、誰でもニッチなカテゴリ別に出会い系サイトを瞬時につくれる「White Box Dating」というポータルなんですね。ここで用意されているカテゴリはすごいです。ランナー、大麻愛好家、漁師、ボーリング好き、背の低い人、ギーク、銃マニア、救急隊、なんでもあり。

思いつくテーマを入力して、恋愛の写真をのっけて、少額を支払えば、出会い系サイトのできあがり。もうサイトには「数百万人のアクティブユーザーのデータベースが自動掲載」されています。それを見て誰かが入会すると、月25ドル入り、それはポータル運営会社Friends Worldwideと折半です。

気になるのはその「アクティブユーザー」の出元ですよね。それを知るにはサイト主にならなければなりませんので、「ジャーナリスト」で出会い系サイトをつくろうとしたら、取材依頼の情報と一致したせいか、アカウント上級責任者のKelly Myersさんから拒否のメールが届きました。なので友達に頼んで「コケ愛好者」で登録したら、すぐ作れました。

利用者としては、ニッチ出会い系サイトの一覧(膨大)から「Asianmatcher.com」に登録。プロフィールを作成したら、ほかの出会い系サイトにもまったく同じプロフィールが掲載されました。トランプ支持者の出会い系サイトにもアンチの出会い系サイトにも載ってますよ! どっちでもないのに!

180530Pro_Anti_Trump
Image: Trump.dating, NeverTrump.dating
トランプ支持者の出会い系サイト(左)とアンチトランプの出会い系サイト(右)の両方に載ってしまった

しかもどの出会い系サイトも同じパスワードで入れるし、表示されるのもまったく同じ人たちです。

どの出会い系サイトでも「最新ログイン」の一番上部に表示されるのは、青い目でカメラをにらむゴージャスな男性。プロフィールには「49歳、離婚、カリフォルニア在住」とあります。こんな地名あったっけ?と思って類似の画像を検索してみたら、スイスのDJのEmmanelさんと判明しました。Facebookでさっそく「出会い系サイトで見ました。本物ですか」と連絡してみます。すると…

180530Emmanuel
Image: Asianmatcher.com, Twitter
アジア系の出会い系サイトにまで顔写真が使われて困っているスイスのDJ、Emmanelさん

「ハロー!あれは僕じゃないよ!!! 」とブロークンな英語で返事が返ってきました。「あちこちで大量に出回ってるフェイク!! どうにもできないまま3年になる!!」。びっくりマークが切実さを物語っていますね。

長文なので、ここらでEmmanelさんのDJをどうぞ


おすすすめのプロフィール、2枚目は年配の軍服の男性です。類似画像を検索してみたら、「出会い系サイトの詐欺でよく使われる盗用プロフ画像のまとめ」というPinterestに掲載されていました。こうなると、ガチ画像はどこよって思ってしまいますよね。

出会い系サイトで使われる詐欺用サクラ画像のデータベースを売買している業者さんでもいるのかなと思い、盗用プロフを掲載している出会い系サイトに問い合わせてみたんですが、 どこからも返事はありませんでした。メッセージの下に「SSN(社会保障番号)、住所は教えない、送金はしないこと」と詐欺注意の警告が虚しく出るだけです。

人がたくさんいるように見える割にはアクティビティもありません。受信トレイにはスパム、男性からの「ウィンク」が何回も送られてきて、本物っぽいメッセージも入りましたが、返信はお金を払わないとできないので、1カ月経って有料会員の料金を払ったら、返ってきた返信はゼロでした。

数十人に連絡して返事があったのはたった1人。トランプ支持者の出会い系サイトの男性です。誰かと出会えた?って聞いてみたら、「あんまりない。サクラばっかりで。悲しいよね」と。

あれだけウィンクとメッセージが飛んできた割には、サイト解析ログのプロフィール閲覧回数はゼロです。1か月で数十人にメッセージを送っても8回ぽっきり。しかも「送信済みウィンク」を開いてみたら、閲覧した覚えもない男性2人に「いい写真ね」、「イケメン」とウィンクを勝手に送ってました

出会い系サイトを運営する側はどう認識してるの?

まあ、そんなこんなで出会い系ポータル運営会社Friends Worldwideを経営するDonald Hobbsさんに取材を求めたのですが、忙しいという秘書からの答えだったので、出会い系サイトを営む人たちに取材してみました。

これは「Copyright 2018 Friends Worldwide, Inc.」で検索ヒットした2,000件以上からWhoIs情報で運営元に取材。応じてくれたのは2名でした。うちニューヨークで「AdventistsConnection.com」という出会い系サイトを営むDavidさんは「2年前に立ち上げたけど登録会員は1名だけです。少額すぎるので出金もできません」と電話で言ってました。登録1名の出会い系サイトがこの広い地球上にはあるんですね。火星のマット・デイモンのようなものでしょうか。

もうひとりは孤独な消防士の出会い系サイト「911Singles.com」を4年前に立ち上げたJohnさん。

「会員は数十人いるけどたいして儲かってません。信頼できる人同士でちゃんと出会える場をつくりたいと思ったんだけど、あまり長く続ける人はいないので、出会えてないと思う。自分で本物かサクラを調べたり、管理できないのが嫌で、もうずっと放ったらかし」

…だそうです。Hobbsさんとは立ち上げのときにビジネスモデルの説明があったけど、「会員を集められるだけ集める、というだけのビジネスモデルだと思う。会員登録して、忘れれば、クレジットカードからそのまま引き落とされるからね」と言ってました。

さっそく経営者Hobbsさんにどういうことなんだってメールしたら、怒ってFreeconferencecall.comという無料カンファレンスコールで電話取材に応じてくれました。パートナーのAliさんも一緒です(姓はAsjabと言われたんですが検索できませんでした)。30分の予定が2時間、出会い系サイトを語る電話になって、少なくとも3回訴えてやると脅されました

Hobbsさんはジョージア州で親戚の看病中、Aliさんは香港のフォーシーズンズホテル宿泊中というだけで、現住所は教えてくれませんでした。社員は37人でみなバーチャル勤務。「2001年創業でインフラと広告に数十億円投じ、会員数百万人を集め、無数の出会いを生んだ」(Hobbsさん)、「マーク・ザッカーバーグが大学で酔っぱらってる頃から俺たちはこの商売をやってきた。今でも毎日数千人の登録がある」(Aliさん)と言っていました。

Hobbsさんが大柄な女性の出会い系サイト「big beautiful women」を最初に立ち上げた頃には、Googleも創業1年目でアドワーズで簡単に会員を獲得できたらしく、あっという間に月収200万円とかになったので、もっとニッチな出会い系サイトをいろいろ立ち上げたら、最初の数年は月収数千万円の毎日だったんだそうですよ? それをまとめたのが今のニッチ出会い系ポータルのWhite Box Datingというわけです。

トランプ支持者にもアンチにもプロフィールが掲載される件は、「そんなことはないはずだ」ということでした。それで戦闘モードにスイッチが入ったんですが、最終的には出会い系サイトの多くがゴーストタウン化していることを認め、出会い系サイト運営パートナーは何千人もいるのに、「80%は収入がろくにない。残りの20%が収入の80%を生んでいる」とAliさん。

ウィンクを勝手に送るのはバグなので、報告してくれって話でした。詐欺については自分たちも本当に迷惑してる、困ったものだ、サイトで使われる盗難クレカに報酬を毎日のように支払わされているこっちの身にもなってくれ、「NASCARファンの出会い系サイトでロシアのボットと出会っても困るよね」と言ってましたよ。全員アカバンにした国もあるし、スパムフィルターも15種あって、「量子コンピュータのプログラマーを雇って撲滅に努めてる」そうです。ちなみにアカバン対象国はナイジェリア、ガーナ、ウクライナ。

なんか本気で困ってるっぽかったので問題のプロフィールを送ったんですが、この原稿を執筆している段階ではまだ削除されていません。ち~ん。


取材を終えて

顔写真を世界中で使われている被害者はなんとかしないと本当にかわいそう。SNSと出会い系サイトがタッグを組んで、よく無断転載される盗用プロフのデータベースを作って、転載を試みるとフラグが立つようにするとか、児童ポルノ画像拡散を防ぐPhoto DNAみたいな取り組みが必要だと思います。

詐欺、サクラ、スパム、盗難ID、競争の荒波に揉まれても生き残る出会い系サイト。ネット黎明期から今も続いていることのほうが驚きです。Tinder、OkCupid、Matchがスーパーなら出会い系サイトは街の酒屋さんですかね。Facebookが出会い系サイトをやる計画なので、それがはじまったらAmazonになってゲームオーバーという気もしますが…。


Image: Gizmodo US

Kashmir H - Gizmodo US[原文
(satomi)