・相手にどう思われるかがいつも気になっている

・人前で話すことはもちろん、電話で話をするのも緊張する

・第一印象に自信がない

・一度落ち込むと立ち直るのに時間がかかる

・いつも漠然とした不安がある (「はじめに」より)

著者によれば、『ぐるぐる考えてしまう心のクセのなおし方』(清水栄司著、大和書房)は、このような気持ちになりやすかったり、人間関係で悩むことが多いような人に向けて書かれたもの。

ところでそうした「心のつらさ」は、環境や生まれ持った性格によるものだけではなく、「考え方のクセ」のせいでもあるのだとか。それは自分ではなかなか気づきにくいものでもありますが、バランスのよい思考を身につけて心を健康に立てなおしていく方法が「認知行動療法」なのだそうです。

認知行動療法とは、その名のとおり「認知(考え方)」を扱う認知療法と、「行動」を扱う行動療法の2つのアプローチで自分自身を見直し、生きづらさを変えていこうというものです。 うつ病や不安症などに対する精神療法・心理療法として、国際的に高い評価を得ている心の病気の治療法です。これまでの医学研究では、うつ病では薬物療法と同じくらいの程度、不安症では薬物療法よりも高い効果を発揮することが、それぞれ証明されています。 (「はじめに」より)

つまり本書では、そんな認知行動療法の考え方を基本にしつつ、自分の「考え方のクセ」に気づき、変えていくための具体的な方法を紹介しているわけです。きょうは第1章「人間関係の苦手をなくす考え方」のなかから、「CASE 1 苦手な人と付き合わなければならなくてつらい」をピックアップしてみましょう。

職場やプライベートにかかわらず、「人間関係」は多くの人が日常的に抱える悩み。しかし、相手を変えるのは簡単なことではないのも事実です。だとすれば、自分の考え方のクセのなかで、人間関係を悪くしている可能性のあるクセを見つけ出して変えていくほうが有効であるはず。つまり自分の考え方が変われば行動が変わり、それが相手にも伝わって、相手の行動も変わってくるという考え方です。

どうがんばっても「苦手な人」がいる

「一緒にいると、なぜかこちらがグッタリと疲れてしまう」「なんとなくウマが合わないと感じる」など、いわゆる“苦手な人”は誰にでもいるもの。そのため、職場の上司や同僚、ママ友や親戚など、ストレスやイライラの原因になるような人間関係で悩んでいる人は少なくないわけです。けれど、「つきあわなければいい」ではすまされないことも多いのが現実。

「苦手だけれど付き合う必要がある」という相手とは、適度な距離をとったり、上手にかわしたりしながらつきあっていくのが理想的。自分の心を守りながら、コミュニケーションをとるコツがわかれば、ストレスやイライラは軽減できるようになっていくわけです。実際問題、それが難しいことでもあるのですが。(45ページより)

「苦手な人」のレッテルは自分が貼ったもの

なお、「この人って、どうも苦手…」と思う相手に対し、必要のないストレスやイライラをためない対処法が2つあるのだそうです。まずひとつめは、「苦手な相手に対して自分が無意識に貼っているレッテルに気づく」こと。

たとえば、あなたは同じ職場で働く先輩のAさんについて、「なんだかいつも不機嫌そうで苦手だな」と、思っているとします。 あなたが仕事上の質問をしても、ぶっきらぼうに答えるだけで笑顔はありません。あなたがミスをしたときは、ほかの人よりも厳しい口調で叱責されたような気もします。雰囲気を和ませようとプライベートな話を持ちかけても、「仕事中のおしゃべりはしない主義だから」と、クールなリアクションしか返ってきません。 そうした繰り返しにより、あなたのなかでは次第に「Aさん=怖い人=苦手」というAさんに対する苦手意識ができあがっていきました。(46ページより)

しかしここで一度、「そもそも、自分は本当にAさんのことが苦手なのか?」と改めて考えてみるべきだというのです。つまり、Aさんのどの部分が苦手なのか、より詳しく考えてみようということ。

たとえば質問や雑談に対して冷たい反応しか返ってこないのは、Aさんが意地悪をしているわけではなく、単純にAさんの顔の表情が乏しく、声のトーンが低いために冷たく感じられるだけのことかも。

ほかの人より厳しい指導を受けるのは、Aさんが自分のことを嫌っているからではなく、ほかの人より能力や成長に期待しているからかも。

そのように考えれば、Aさんが怖く感じられるのは、「なんとなく、そんな感じがする」といったイメージだと考えることもできるわけです。すなわち「Aさん=怖い人=苦手」というレッテルは、自分の思い込みに過ぎないかもしれないということです。

だからこそ、もしも自分のなかの思い込みに気づくことができたら、無意識のうちに貼っていたAさんへのレッテルを剥がしてみようと著者は提案しています。するとその結果、「Aさんは別に意地悪をしているわけではない」「Aさんは、特に自分のことを嫌いなわけではない」という事実が浮かび上がってくる可能性があるということ。

そこまで考えられれば、もはやAさんは怖い人でもなければ、苦手な人でもなくなるはず。Aさんに対する自分の苦手意識が、それまでより軽くなっていることに気づけるというわけです。

現実には、苦手だと感じていた人の意外な一面を見るような出来事(たとえばクールなAさんが、困っている人に親切にしていたところを偶然見かけたなど)があると、突然その人に対する印象が変わり、ことによっては好きになってしまうこともあるもの。

しかし、そんな偶然の機会を待っていたからといって、必ずしも都合のいい場面に遭遇できるわけではないでしょう。それどころか、永遠に訪れないことも考えられます。

そのため、自分の思い込みで貼っていた「苦手な人」というレッテルを自らの力で剥がしてみることが重要だということ。そうして相手のことを考えなおすだけで、少なくとも「決して好きではないけれど、そこまで苦手ではない人」くらいまでは軌道修正していけるというわけです。

「自分自身の考え方のクセを見なおす」とは、つまりそういうこと。たったそれだけのことで、いままで苦手だった人の見方を変えることができるようになるということです。(46ページより)

苦手な相手に対する自分の行動を見なおす

「考え方を見なおす」ということのほかにもうひとつ、効果が期待できる方法があるのだそうです。それは、「行動を見なおす」というもの。

私たちは、苦手な相手に接することを「できれば避けたいな」と思って過ごしているものです。そのため、電話をかけるのではなくメールですませたり、直接話すのではなくほかの人に伝言を頼んだりすることもあるでしょう。

つまりは意識的であれ無意識であれ、苦手な相手に対しては、「苦手ではない相手にくらべて接する時間が短くなる傾向がある」ということ。

しかし接する時間が短くなれば、必然的に「話しかける量が少ない」「あまり会話をしていない」ということになり、それだけ、お互いを知り合うコミュニケーションの機会も少なくなってしまいます。それどころか、ちょっとした誤解や勘違いがあったとしても、「話しかけるのが面倒だから、別の機会にしよう」「不快な思いをするのがいやだから、黙っておこう」と距離を置くことも考えられます。

ところが現実的には、そうすることで事態がややこしくなることも十分に考えられます。相手も「どうして話しかけてこないのだろう」「なぜ私に黙っていたのだろう」と不愉快に感じ、そのことがさらにふたりの関係をギクシャクしたものにしてしまうことがありうるわけです。

「苦手だから話しかけない」→「話しかけないから、相手と距離ができる」→「距離ができたことで、さらに苦手になる」という悪循環が生まれるのです。ここでひとつ、悪循環になっている可能性のある、あなたの行動を見直してみましょう。

あなたは苦手な人に対し、ほかの人と同じくらいのペースで話しかけていますか? ほかの人と同じくらい、会話する時間をつくっていますか?

そんなふうに自分の行動を振り返ってみて、苦手な人と接することを避けていることに気がついたら、少し勇気は要りますが、ほかの人と同じくらいの時間と量になるようにコミュニケーションを増やしてみましょう。(51ページより)

なぜなら、「苦手だと思っていたけれど、話してみたら案外“イヤな奴”というわけでもなかった」「最初は苦手だったけれど、一緒にいるうちにそうでもなくなった」というように、行動を変えることで考え(意識)が変わることもあるから。

もちろん、苦手意識を外してみて、一生懸命話しかけても、やっぱり合わないという相手もいるもの。そういう場合は「どんな人とも完璧につきあわなくてもいいのだ」ということを思い出し、60点、80点のレベルのつきあいかたをしていけばいいのだという考え方。自分の感情や行動をとらえ、冷静に見なおしてみることだけでも大きな意味があるというわけです。



著者は、認知行動療法のスペシャリストとして、不安症(パニック症、全般不安症、社交不安症)、強迫症とうつ病などの治療にあたっているという人物。そうしたバックグラウンドがあるからこそ、本書の内容には説得力があるのです。コミュニケーションに関する悩みを抱えているなら、読んで見る価値はありそうです。

Photo: 印南敦史