レーザー光で発電して空を飛ぶ! ケーブルレスで極小の「ハエ型ロボット」、米研究チームが開発(動画あり)

電力供給用のケーブルなしに羽ばたく超小型の「ハエ型ロボット」を、米大学の研究チームが開発した。極小のソーラーパネルにレーザー光線を当てて発電するこのロボットが進化して飛び回るようになれば、ドローンにできないような調査活動やデータ収集が可能になるかもしれない。その仕組みと動きを、動画と写真で紹介する。
レーザー光で発電して空を飛ぶ! ケーブルレスで極小の「ハエ型ロボット」、米研究チームが開発(動画あり)
レーザー光を用いて電力を送る。PHOTOGRAPH BY MARK STONE/UNIVERSITY OF WASHINGTON

マサチューセッツ工科大学(MIT)で人工知能(AI)を研究していたロドニー・ブルックスとアニタ・フリンは、1989年にゾッとするような予言をした。「数年後には、安いコストで数億個の超小型ロボットを製造し、惑星を侵略できるようになるだろう」と述べたのだ。

この予言は、『Fast, Cheap and out of Control: A Robot Invasion of the Solar System』(高速かつ安価:制御不能なロボットによる太陽系の侵略)という論文[PDFファイル]に掲載された。小型で自律性のある「ハエ型ロボット」を安いコストで大量に生産し、さまざまな問題を解決できる日が近いうちに実現するというのが、この論文の主張だった。

それから30年近くたったいま、ブルックスとフリンが予言したような超小型ロボットが数億個も飛び回る世界は訪れてはいない。しかし、世界中で7億台を超える「iPhone」が使用されているのを考えれば、彼らの見立てがある程度は正しかったといえる。

だが、ブンブンと音を立てながらすばやく飛び回る、自律性のある超小型ロボットはまだ夢物語だ。地面から離陸したあとに飛行し、着地できるハエサイズのロボットは存在するが、常に外部からの電力を必要とする。

しかし、この状況はもうすぐ変わる可能性がある。

レーザーで発電して羽ばたく超小型ロボ

ワシントン大学で機械工学を研究するソーヤー・バックミンスター・フラー教授(ジオテックドームを発明した著名な建築家バックミンスター・フラーとは別人)は5月15日、飛行範囲や動きを制限するケーブルを必要としないハエ型ロボットを開発したと発表した。彼らはロボットに超小型のソーラーパネルを搭載し、レーザー光線で電力を供給することに成功したのだ。

フラー教授の目標は、人類の最も実用的な発明品である回転機構を使わず、生物学的原理に従って動くロボットをつくることだった。電動の動力機構を利用した最新の電子機器は、何らかの回転機構を必要とする。一方、生物は波をつくるように羽を動かす。

人間も腕を上下に振って波のような動きをすることはできるが、腕を軸にして前後に回転させることはできない。フラー教授のロボットも羽をヘリコプターのように回転させるのではなく、ハチドリのようにすばやくはばたかせる。

このハエ型ロボットは体が小さいため、モーターを使うものと比べて消費電力は少ない。しかし、それでも多くの電力を利用する。市販の電池では、このハエ型ロボットが飛ぶ電力を供給できないのだ。

「補聴器用電池のサイズぴったりだが、電力が弱すぎるのです」と、フラー教授は説明する。このため、電源コンセントの電気よりも高い電圧をレーザーで供給しているが、ロボットに届く電力はおよそ4分の1に減ってしまう。電力を供給する方法としては「きわめて非効率」だ。しかし、「このハエ型ロボットが飛ぶには、そこまで多くのパワーを必要としません」とフラー教授は説明する。

だだし、ハエ型ロボットを電線から解放したからといって、いますぐ果樹園でハチの代わりに花粉を集めてもらうことはできない。ロボットに十分な電力を供給するには、ロボットから7フィート(約2.1m)以内の距離にレーザー発射装置を置かなければならないのだ。

また、レーザー光線は電線とは違って人間の目に有害だ。このためロボットを自由に飛び回らせて、西部開拓時代にあちこちでリンゴの苗を植えた人物として語り継がれるジョニー・アップルシードのように、自由に活動させるのは難しいだろう。

それでもこのロボットは、ハエという生物の動きを解明するのに役立つ。「脳の仕組みを解明する対象としてハエは扱いやすく、優れた生命体です」とフラー教授は主張する。「ハエの脳が動きをコントロールする仕組みを解明するのは、サルやネコと比べればはるかに簡単で、扱いやすい問題なのです」

ドローンにはできない作業が可能になる

研究所の外で虫サイズの自律型ロボットを利用すれば、ドローンのような大きなマシンより実用的かもしれない。電力の問題が解決するのは先になりそうだが、そのときには一気に役立つ存在になっていく可能性がある。空中で静止できるので、大きなロボットでは難しい調査活動ができるのだ。

「ある地域に大量の虫型ロボットを解き放ち、データを収集できるようになるかもしれません」と、パデュー大学で生物を模倣したロボットを研究するシンヤン・デンは語る。

ハエ型ロボットの重量は、つまようじより少し重い程度だ。PHOTOGRAPH BY MARK STONE/UNIVERSITY OF WASHINGTON

未来の虫型ロボットは、非常に狭い空間に入り込んで偵察したり、汚染物質の漏洩を見つけ出したり、捜索活動を行ったりできるようになるだろう。「自然は何百万年という時間をかけて進化しました。人間はその自然から学び、一定の目標を達成するシステムを構築するのです」とデンは語る。

虫は4億年かけて進化してきた。研究が進めば、惑星を侵略できるような超小型ロボットが誕生するかもしれない。


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TEXT BY ELLEN AIRHART

TRANSLATION BY TAKU SATO/GALILEO