特集 2018年6月5日

飲み会はもう外歩くのでよくないすか考

飲み会を店でなく遠足化することによって、外のよさと店のよさが見えてきた
飲み会を店でなく遠足化することによって、外のよさと店のよさが見えてきた
長袖のシャツ一枚で過ごせる一番いい気候がやってきた。こうした季節に外で飲むビールはおいしい。

飲み会はお店でお酒を飲んで楽しくおしゃべりするものだ。でもいっそのこと外をぶらぶら散歩しながら飲んだ方が楽しいんじゃないか。

そんなことを考えてたらすでにやってる人たちがいた。彼らに同行して外ぶらり飲みのよさを考えた。
動画を作ったり明日のアーというコントの舞台をしたりもします。プープーテレビにも登場。2006年より参加。(動画インタビュー)

前の記事:食感再考 ~外はサクッ中はトロ~ッが本当に良いのか?~

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

お店で飲むのに飽きてきた

「そろそろ気候もよくなったから誰か外で飲みませんか」というツイートがTwitterに流れてきた。

店で飲むの飽きてきたなーと考えていたところに、すでにこういうことを活動としてやってる人がいたのかと感心した。
主催してたのは『冷凍都市でも死なない』というサイトを作っている野口さん。大学を出たか出てないかゴニョゴニョ言ってるくらいの若い人だった。彼らに飲みに連れていってもらった。
「冷凍都市でも死なない」というサイトの野口さん(右)と郷田いろはさん(左)
「冷凍都市でも死なない」というサイトの野口さん(右)と郷田いろはさん(左)

遠足のような期待感がある

集合場所は今回は都市部でみんなのアクセスがよい場所、となって秋葉原に。どの方向に行くかは決めてないが今回は隅田川を目指しましょうという。

集合場所をやりとりしていると、期待感があった。遠足の前のワクワクというやつである。飲み会に対してこんな思いを抱いたことがない。もしかしたら長い距離を歩くのはそもそも期待をはらむものなのかも。

シベリアからマンモス追って日本にやってきた人たちも「さあ歩くぞ」とワクワクしてたのかもしれない。
写真左から筆者、一番右は共通の知人の東さん、あと編集の古賀さんの5人体制
写真左から筆者、一番右は共通の知人の東さん、あと編集の古賀さんの5人体制

まずコンビニを探すところから

午後7時半集合。まずは乾杯のためにコンビニを探して歩き始める。飲み会でいうオーダーが来るまでの時間だろうか。

コンビニでは各自好きな食べ物と飲み物をそれぞれ買う。財布も別だ。この時点で飲み会から遠く離れている。

好きなものを好きなだけ買うのだが、片手に一つずつ持つことを考えれば基本的には飲み物1つ、食べ物1つになる。

足りなければまた次のコンビニで買う。後半になるとコンビニは「補給所」「セーブポイント」とも呼ばれ始めた。
片手で持つ食べ物と考えると棒状のものが増えた。結果ねりものだらけ。ベンチが治安の悪いベンチに
片手で持つ食べ物と考えると棒状のものが増えた。結果ねりものだらけ。ベンチが治安の悪いベンチに

食べ物は棒状のもの

各自買ったものを確認。

まず全員ビールなのに銘柄がバラバラである。ふだんシール集めてるからという理由で金麦を選ぶ者もいれば、こんなときは奮発してプレモルという者もいる。

食べ物も特殊だ。コンビニで食べ物を買うときも視点は「片手で持てるかどうか」だ。そうやって見ていくと種類は限定される。ちくわ、アメリカンドッグ、かにかま、焼き鳥……と棒状のものが人気だ。気づくと遊園地の子供みたいになった。
カンパーイ。あ、なるほど。ビールのおいしさはお店有利だと思った
カンパーイ。あ、なるほど。ビールのおいしさはお店有利だと思った

単品目ですぐ腹いっぱいになる

お互い何を買ったかでわいわいと盛り上がるが、それを共有したりはあんまりしない。歩きはじめると食べ物の交換が難しくなるからだ。

飲み会って同じものを食べて共感を交わして親密になる部分も大きい。そしてたくさんの種類が食べられる楽しさもある。

一方、この日一店目のコンビニで筆者が選んだものはメンチカツバーガー。一発目でお腹が空いていたので。おにぎりを買った者もいた。それを丸々一個食べるのだからお腹がすぐいっぱいになる。

食べ物や飲み物に関しては店での飲み会に軍配が上がりそうだ。
アイスコーヒー100円を買って氷として活用し、濃い酒を割り始める。そういうネットの記事を見たことがあるが、実際に活用してるのをはじめて見た
アイスコーヒー100円を買って氷として活用し、濃い酒を割り始める。そういうネットの記事を見たことがあるが、実際に活用してるのをはじめて見た

ビールのうまさは店の勝ち

外で飲むビールはうまい。しかしそういう気候のときは中で飲むビールも相当うまい。なんせ冷えているし、缶に比べてジョッキは飲み口が広いのでり香りも立つ。

一方外のビールは片手がずっと冷たいし次第にぬるくなってくる。飲み物は常温で飲むものの方が適してそうだ。「その点カップ酒が一番理にかなっているのかも……」と野口さんは言う。

我々はカップ酒がすでに通った道を歩いているのかもしれない。この先の道のりは険しそうだ。
片手で食べ物、片手でビールというものになり棒状のものと缶ビール
片手で食べ物、片手でビールというものになり棒状のものと缶ビール
二軒目で工夫をこらしはじめる。棒状のものを胸ポケットに詰め込みまくり品数をかせぐ筆者(左)と、部屋に別れた皿の上に缶を置いて多品目化しようとする東さん
二軒目で工夫をこらしはじめる。棒状のものを胸ポケットに詰め込みまくり品数をかせぐ筆者(左)と、部屋に別れた皿の上に缶を置いて多品目化しようとする東さん
こちら焼売を片手で持てるように箸に刺したもの。1軒目でおにぎりが買われたり、2軒目でフルーツが導入されたり。個人個人が食べたいものを頼むのでフリーダムが過ぎる
こちら焼売を片手で持てるように箸に刺したもの。1軒目でおにぎりが買われたり、2軒目でフルーツが導入されたり。個人個人が食べたいものを頼むのでフリーダムが過ぎる

飲み会に前方から人が飛び込んでくる

今日なぜ秋葉原から川を目指すことになったのか野口さんに聞いた。

野口「落ち着くじゃないですか。人が多いと落ち着きがないので。歩くにしても、向こうから来る人の動きとかを考えて歩かないといけない。障害物が少ないところの方がやりやすい」

従来の飲み会にまったくなかった視点である。向かってくる人を避けるのはそれだけで心も体も使う。そしてそれはお酒と相性がよくない。店はよくできているなと思う。人が飛び込んで来ないからだ。
ぶらぶら歩いてると話題はつきない。これはハラルマークのついたココイチ
ぶらぶら歩いてると話題はつきない。これはハラルマークのついたココイチ

これは楽しい、話題がつきない

外を散歩してると飛び込んでくるのは人だけではない。あの看板は? あの店何? と、視界がどんどん更新され話題が生み出される。

それはおもしろ看板やニッチな店など対象そのものを話題にすることもあるし「この辺大体こういうビルだよね」と街自体を話題にすることもある。

野口さんに過去の散歩で印象に残ってる回を聞いてみたところ、埋立地を目指したのがよかったそうだ。

野口「人がいなくて街路樹とか整備されてなくて荒廃してる感じがあって。違う国に来てる感じが。埋立地は異世界っぽい感じがありましたね」

人のいない場所と今回みたいな都市部とそれぞれによさがあるという。都市部では「ここに出るんだ!」といった、電車では結びつかなかった街同士を足でつなげる感覚があった。
マリカーの駐車場だ! ここから渋谷まで来てるのか
マリカーの駐車場だ! ここから渋谷まで来てるのか

お互いのインナースペースを侵さない

考えてみれば店での飲み会は風景が変わらない。話すことはお互いの近況や記憶、人の内面をさぐっていくことになる。

野口「相手の内面を探らずに一緒に飲めるってのがぼくはけっこう好きですね」

と言う野口さんが大学生なのか働いているのか私は知らないままだ。

でもそれで仲良くならないわけではなく、フットサルだったり料理教室だったり目的のある場での人間関係のようなものだ。同じことをして共感して親密になる。
ローソンの近くにローソンの看板だけ入った入ったビルがあった。「ニセのローソン」「概念としてのローソン」「ローソンではないトマソンだ」「未来の昭和博物館だ」「ここでニセのローソンにあきらめて帰った人かわいそう」など盛り上がった
ローソンの近くにローソンの看板だけ入った入ったビルがあった。「ニセのローソン」「概念としてのローソン」「ローソンではないトマソンだ」「未来の昭和博物館だ」「ここでニセのローソンにあきらめて帰った人かわいそう」など盛り上がった

風景で飲む

「◯◯を肴に飲む」という言い方があるが、この場合食べ物でなく風景を肴に飲むことになる。

マンションのそばを通りがかったときは「暮らしがあるよなあ」とぼそっとだれかが言う。そりゃあるだろう、窓の数だけ暮らしがある。しかしお酒が入ってるのでしみじみと「あるよなあ」になって、この場合私達は「暮らしを肴に飲む」という状態になっている。

めざしとか炙ったイカとかでない。肴は「暮らし」でいい。そう歌わないといけない。

ボクシングジムの前を通りがかったときは「ボクシングを肴に飲むのいいんじゃないですかね」という話になった。きっと減量中のボクサーに殺されていただろう。
「ウェブホだ、ウェブホ」「ウェブホ行こうよ、だ」「泊まってみたいな」「Airbnbの具現化じゃないか」「実際なんなんだ」「サーバーしかないんじゃないか」「Wi-Fiが見えるくらい飛んでそう」など盛り上がる
「ウェブホだ、ウェブホ」「ウェブホ行こうよ、だ」「泊まってみたいな」「Airbnbの具現化じゃないか」「実際なんなんだ」「サーバーしかないんじゃないか」「Wi-Fiが見えるくらい飛んでそう」など盛り上がる

飲み会の疲れがすごい

はあ、疲れたなと思い時計を見るとまだ一時間しか経っていない。飲み会も少しは疲れるものだが、一時間でここまで疲れるとは思ってなかった。

野口さんによるとアルコールをとると関節が痛くなったりするそうだ。ビタミンが欠乏するからと聞いてウィダーinゼリーのビタミン味を飲みながら歩いたが効き目がなかったという。

アルコールと運動は根本的には相性がよくないようだが、それでも飲んで歩く。これはやっぱり楽しいものだという感触はある。
公園での休憩。足がめちゃくちゃ疲れる。
公園での休憩。足がめちゃくちゃ疲れる。

気持ちがいいしエモい

飲み会の最中に野口さんが「ちょうどいい気候だな」とポロッと言っていた。

これまでの説明をふまえて(……外ぶらぶら飲み会あんまり良いとこないんじゃない?)と思ってる方に圧倒的な気持ちよさを伝えておかなければならない。

それは気候の良さや風が当たるといった身体的な心地よさに加えて、前進して探索するスタンド・バイ・ミー的な高揚感だ。
飲み会開始から1時間程度。水の匂いがする。これは隅田川に到達したんではないか
飲み会開始から1時間程度。水の匂いがする。これは隅田川に到達したんではないか
「わー、気持ちいいね」「川いいなー」「川のそばいい」「無料コンテンツやばい」川は歩きやすいのもあるが、圧倒的に気持ちがいい
「わー、気持ちいいね」「川いいなー」「川のそばいい」「無料コンテンツやばい」川は歩きやすいのもあるが、圧倒的に気持ちがいい
隅田川沿いに歩いていく。若者はだれも口にしてなかったがおじさんは青春を感じていたし家に帰ってそっと日記を綴ったよ
隅田川沿いに歩いていく。若者はだれも口にしてなかったがおじさんは青春を感じていたし家に帰ってそっと日記を綴ったよ
行き止まりの向こう側から水の匂いがしたとき、堤防を上って川が見えたとき、屋形船が向こうからやってきてその派手さに笑ったとき、息を呑むほどエモかった。

歌でも歌ったら泣いてしまうかもしれない……たとえそれがピコ太郎だとしてもペンをアップルに刺すくらいのところで涙が思わずこぼれただろう。

どれも十代なら青春の1ページとなるようなものだし、筆者も(よし、これをFacebookに投稿して保育園のお父さん仲間から10いいねくらいもらおう…)と力強く思った。
野口「水辺はお酒を飲むと気持ちいいんですけどコンビニがないんです。そこは両立しない」ファミリーマート隅田川川べり店ビジネスチャンスや
野口「水辺はお酒を飲むと気持ちいいんですけどコンビニがないんです。そこは両立しない」ファミリーマート隅田川川べり店ビジネスチャンスや
気づいたら浅草まで来てた「あ、ここに出るんだ~」も都会の遠足の醍醐味
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歩いて2時間ちょいで浅草寺についたので解散。みんなばらばらに帰る
歩いて2時間ちょいで浅草寺についたので解散。みんなばらばらに帰る

外に出て中のよさを再認識したような

合計2時間半。浅草まで来て、私はこっちから私はバスで、ぼくらまだ飲んできますんで、という具合にばら、ばら、と解散した。場合によっては朝まで飲むこともあるらしいが、足がパンパンなのでよくストレッチをして寝た。これは運動だ、とはっきりと自覚した。

最近、居酒屋も低価格な店が流行っていて、しかしそんな店は少ないのでたまたま入った普通の店を相対的に高く感じてしまい、結果、店選ぶこと自体めんどくさくなってきて、、、

そんなふうにどよーんと停滞してる気分だったが、楽しんでる人は楽しんでる。遠足しながら飲んでる。不満もいわずに外で楽しく遊んでいる。それ自体明るくて痛快だ。

なにより外で飲むことで、店で飲むよさもわかってきた。生中、680円。下にいくにしたがって細くなってくるプレミアムモルツのジョッキ。お通しあり。それもパスタの揚げたやつ。それでいい。

だって店は人が自分の動線に飛び込んでこないもの。それは酒を飲むうえでとっても重要なことだ。
疲れすぎて水木しげるの兵隊みたいな顔になる
疲れすぎて水木しげるの兵隊みたいな顔になる
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