1430億円を放棄してまでWhatsApp創業者が辞めたFacebookにまたプライバシー問題。Appleも情報の共有先だった

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1430億円を放棄してまでWhatsApp創業者が辞めたFacebookにまたプライバシー問題。Appleも情報の共有先だった
Image: Win McNamee/Getty Images News/ゲッティ イメージズ

1430億円もらえる会社、辞めるのって、勇気要りますよね。

Facebook(フェイスブック)が2014年に創業以来最高の190億ドル(約2兆円弱)で買収したWhatsApp(ワッツアップ)の共同創業者2人が、残りの報酬13億ドル(約1430億円)も受け取らずに会社を辞めてしまいました。理由は「プライバシー方針が相容れないから」

Facebookはプライバシー情報がベースの広告収入で運営している会社。WhatsAppは完全暗号化によって政府はおろか、自社でさえも解除できないメッセージアプリの会社。今にして思えば合体したことの方が不思議です。買収当初は「広告は絶対出さない。従来路線でいい」とマーク・ザッカーバーグCEOが気前よく言っていたらしいのですが、2兆円近くの買い物です。元はとらにゃあきません。近ごろは、「広告を出せ」「利益を出せ」と役員たちからの圧力がすごくて、もともと広告嫌いなWhatsApp共同創始者のブライアン・アクトン(9億ドルをポイ)が3月に辞め、ついで創業者のジャン・コウム(4億ドルをポイ)も5月に辞めてしまったというわけです。WhatsAppにとってプライバシーは譲れないものであり、そこを譲ってしまったらもうWhatsAppではないという、強い意思表示を感じます。それにしても…


1430億円。


自分だったらいくらベクトル正反対でも「笑顔1回100万円」と己に言い聞かせて8月の受け取りまで残ってしまうだろうなぁ…。

CA事件から約2カ月、端末メーカー60社への情報流出が発覚

さて、残されたFacebookは今どうなっているかと申しますと、3月のCambridge Analytica事件(以下、CA事件)の余波がずーっと尾を引いています。国会審議や取材対応では「もう誰でも彼でも、のべつ幕なし情報をシェアするようなことはしません」と宣言し、社外アプリ開発者への情報開示方針も2011年にプライバシーが問題になったときに米連邦取引委員会(FTC)と交わした同意審決をベースに改定したと何度も言っています。ところが裏では相変わらず、端末メーカーに個人情報をシェアし続けていたことが日曜、New York Timesの報道で明らかになりました。

そのメーカーというのは他でもないAppleAmazonBlackBerryMicrosoftSamsungをはじめとする「端末メーカー60社」。個人情報の共有は過去10年に渡って行なわれてきたそうですよ?

提携メーカーは、プライベートAPIを使って個別のユーザーの50種以上の個人情報にアクセスできます。CA事件のときみたいに、友達の友達の情報まで回収されたりもする仕様で、今も行なわれているっぽいです。Appleのティム・クックCEOがFacebookのプライバシー管理を非難したとき、マーク・ザッカーバーグが「ばらしてやる」って一瞬いきがっていたのは、もしかしてこのこと?

CA事件では性格判断アプリで回収した個人情報を勝手に大統領選の選挙運動などに使って大問題になりました。「本人の事前同意なしに流用していた」という点がFTCとの同意審決違反に相当する可能性大ですので、仮にFTCが同意審決違反と判断した場合には、Facebookが被る罰金は1件4万ドル×5,000万人で「数兆ドル(数百兆円)」にものぼるものとみられています。数百兆円!!!!

もちろんFacebookは認めていません。認められるわけがありません。数百兆円です。しかし、その論拠は非常に頼りないものでありまして、それで裁判とか乗り越えてゆけるのかね…と他人事ながら心配。

The New York Timesは2013年のBlackberry端末を使って本プログラムのしくみを紹介すべく、記者のFacebookアカウントにアクセスしています。以下はそのくだり。

記者が端末をFacebookアカウントに接続すると、たちまち端末から一部プロフィール情報、ユーザーID、氏名、写真、「ABOUT」記載情報、位置情報、メール、携帯電話番号がリクエストされた。そして記者の非公開メッセージのやりとりの内容、先方の名前とユーザーIDの情報が端末に取り込まれた。

取り込まれたデータは「Hub」と呼ばれるBlackBerryアプリに表示される。これは本来、BlackBerryユーザーが自分のメッセージとSSNアカウントを一元管理する用途で開発されたものだ。

「Hub」ではFacebookの規約で禁じられているはずのデータもリクエストし、受信できるのだ。2015年以来、Facebookは一貫して「アプリでリクエストできるのは、同じアプリを使っている友達の名前だ」と言い続けている。ところが、このBlackBerryアプリでは記者のFacebook友達全員の情報にアクセスし、ユーザーID、誕生日、職歴と学歴、 現在オンラインかどうかといった情報まで回収することができた

取材で使った記者はたまたま友達が550人しかいなかったのですけど、Facebookのシステムでアクセスが許可されている全情報に当たったら、なんとなんと「29万5000人近いFacebookユーザーの身元特定情報」がHubアプリに流れてきちゃったんだとか。

さっそくFacebookの広報に取材してみたところ、「タイムラインに友達がコメントすると、その友達の情報が見えますよね。それと同じです」という説明をいただきました。The New York Timesの匿名筋も、個人情報の用途は「Facebookエクスペリエンス」の実現目的のみという厳しい用途規定があるから大丈夫と言っています。広報ブログに掲載されたThe New York Timesへの反論はこちら

固執する「Facebookエクスペリエンス」から生まれる問題

メンバーが急に増えた初期は、全員に快適な使用環境(Facebookエクスペリエンス)を届けることを最優先にするあまり、プライバシー保護が後回しになったけど、最近はAndroidとiOSに集約されつつあるし、昔ほどゆるくやっていない、提携22社との情報共有契約は打ち切ったと広報の方は言っていました(残りのメーカーとの契約終了時期は不明)。提携全社の名前を問い質したら、まだ発表できる用意はできていないという回答でした。

一方、The New York Times側の取材では「9月から個人情報にはアクセスできていない(Apple)」、「お客様のFacebookデータの回収や解析はしていない(BlackBerry)」、「データはすべてユーザーの端末に保存されている(Microsoft)」という回答。AmazonとSamsungはノーコメントだったそう。

FacebookはプライベートAPIにアクセスできるのは約60社で、うち自社サーバーに個人情報を保存しているのは「一部の提携メーカー」としか答えていません。60社の残りがどこか、気になりますね。

もちろん「厳しい用途規定」で安心していいなら、前提としてCambridge Analyticaだって収集した個人情報に対する用途規定は厳然とあったはずなんです。そんなルールをガン無視し、本人のあずかり知らない外部の会社に、本人のあずかり知らない用途で流用したからこそ、あんな騒ぎになりました。その辺りの管理体制、提携パートナーに個人情報が渡った後の用途まで調べないんですかと聞いたら、Facebook広報は「特になんの問題もないので調査もしていない」というお返事でした。むぅ…。

「Facebookエクスペリエンス」のためと言えば、プライバシー流用を見逃してもらえるんなら警察要りませんよね。米議会、欧州議会、独政府にも役員が呼ばれて尋問されたんですが、この端末メーカーとの情報共有提携プログラムのことはほとんど触れられていません。もっと詳細な報告書を国会に提出しないのかと質してみたのですけど、「国会から質問があれば喜んで答える」と言うばかりで、たしかなところは聞けませんでした…。

米議会でも欧議会でも、議員がせっかく苦労して核心の質問をしても、答えははぐらかされたまま。問題含みのプログラムも、マスコミが騒ぎ立てるまではひた隠し。一難去るとまた一難で、抜け穴だらけの複雑極まりないプライバシー方針に「ユーザーが同意したんだから」と言い訳し、個人情報は本人の同意なしに回収、そして第三者に共有、利用させる。Facebookは当分それをやめる気配もありません

会社が大きくなりすぎて、何がどうなっているのか中の人さえわからないというもあり、一部ではFacebook分割論まで真剣に議論されています。信頼が地に落ち、裏で立ち回って、質問をのらりくらりとかわす最近のFacebookにはユーザーもげんなりで、話をわざとややこしくして、正確にフォローできないようにしているとしか思えないこともあります。

あまりにも毎回同じことの繰り返しなので、いっそショートカットでもつくっちゃいたい気分。「Facebookエクスペリエンス」とか。


Image: Win McNamee/Getty Images News/ゲッティ イメージズ
Source: New York Times, Wall Street Journal, Facebook

Rhett Jones - Gizmodo US[原文
(satomi)