太陽系に未知の惑星「プラネット・ナイン」が存在する? 相次いで公表された“証拠”の真偽

太陽系の奥深くには、知られざる惑星が存在しているという説がある。「プラネット・ナイン」と呼ばれるこの惑星は地球の10倍もの質量をもっており、その存在を裏づける証拠が次々に見つかっているという。その存在可能性を改めて検証した。
太陽系に未知の惑星「プラネット・ナイン」が存在する? 相次いで公表された“証拠”の真偽
PHOTOGRAPH COURTESY OF OLENA SHMAHALO/QUANTA MAGAZINE

2016年初め、ふたりの惑星科学者が新たな説を主張した。太陽系の奥深く、冥王星の軌道よりもはるか彼方に、幽霊のような惑星が隠れているというのである。

ふたりの主張は、冷たく広大な宇宙における奇妙な軌道を根拠としていた。それが発表されるや否や、いわゆる「プラネット・ナイン」──地球の10倍の質量をもつと推定される惑星──の発見をめぐる論争に火がついた。

「まさに吸い寄せられるほどの魅力があります」と、イェール大学の天文学者、グレゴリー・ラフリンは語る。「この太陽系に地球の10倍の質量をもつ惑星が見つかったなら、ほかとは比較にならないほどの重要な科学的発見になるでしょう」

現在、複数の天文学者から非常に奇妙な軌道をもつ天体──おそらく準惑星に相当するくらいの大きさ──を、はるか遠い宇宙に発見したという報告がされている。この軌道の異常性から考えて、プラネット・ナインの影響を受けている可能性があるという。

この天体は、カリフォルニア工科大学の天文学者、コンスタンティン・バティギンマイケル・ブラウンの出した予測を裏づけるものだ。プラネット・ナインの存在を初めて主張したのが、このふたりである。

「プラネット・ナインが存在する直接の証拠にはなりません」と、ミシガン大学の天文学者で新たな論文の共著者でもあるデヴィッド・ゲルデスは言う。「しかし、このような天体が太陽系に存在することは、プラネット・ナイン存在説をさらに強く後押しすると思います」

「傾いた軌道が暗示するプラネット・ナインの存在」についての図。新たに発見された天体は、冥王星より遠い地点にある巨大な惑星の存在を示唆している。(1)太陽系の惑星はほぼ例外なく、同じ基準面に位置している。(2)新たに見つかった天体「2015 BP519」の軌道は、太陽の赤道面に対して54度傾いている。(3)2015 BP519の奇妙な軌道を説明づけるには、地球の10倍の質量を持つ惑星、プラネット・ナインが存在するという仮説を受け入れるしかない。IMAGE COURTESY OF LUCY READING-IKKANDA/QUANTA MAGAZINE

データを予言する理論

ガルデスと研究仲間らは、「Dark Energy Survey(DES)」というプロジェクトから得たデータによって、この新たな天体を発見した。DESは太陽系惑星の公転平面から上にずれた宇宙空間を調査することで、加速しつつある宇宙の膨張を探ろうとしている。

太陽系惑星は太陽の自転軸に垂直な平面(太陽の赤道面)上に位置することから、太陽系内部の天体を見つけようとするのであれば、これは通常なら考えられない方法だ。

しかしそれこそが、この新たに発見された天体の特殊性だったのである。軌道が太陽系の領域に対して54度傾いていたのだ。ゲルデスには予想外の発見だった。しかしバティギンとブラウンはこれを予測していた。

2年前、プラネット・ナインの存在を裏づける根拠として、バティギンとブラウンは「カイパーベルト天体」と呼ばれる天体の一群が描く特殊な軌道を示した。この小さな天体群は外側に向かい、太陽系と同じ象限の方向へと軌道を描く。

この現象が偶然起きたとは極めて考えにくい。バティギンとブラウンは、9番目の惑星がこの小宇宙を奇妙な軌道へと導いているに違いないと主張した。

さらにバティギンとブラウンは、時の経過とともにプラネット・ナインの重力がカイパーベルト天体を現在の領域から押し出し、さらに高い位置の軌道へ移動させるだろうと予測した。

すでに複数の天文学者が、太陽系と垂直に太陽の周りを動く奇妙な天体群を発見している。だがそれでも、このふたつの天体群の間を移行する天体を発見した人間はいない。「このような軌道は、本来とても説明がつかないはずです。プラネット・ナインが存在すると考えるしかないのです。そして実際、わたしたちが予測していた通りになっています」と、ブラウンは語る。

バティギンは、新たに見つかった天体が彼らのモデルにぴったり符合し、まるで彼らのシミュレーションにおけるデータのひとつのようにすら見えると言う。「優れた理論はデータを再現します。しかし、偉大な理論は新しいデータを予言するのです」

強力な裏付けの発見

2014年末、DESが新たな天体の存在を裏づける初めての証拠を見つけた。それ以来ガルデスと同僚たちは、この天体の軌道を追跡し、起源を突き止めようと研究を重ねてきた。

今回の新たな論文によれば、彼らは時間を45億年進ませたり遅らせたりしながら、既知の太陽系における天体のシミュレーションを数多く繰り返した。だが、天体がこのように傾いた軌道を描くことの説明はつけられずにいた。しかし、9番目の惑星──バティギンとブラウンの予測に完璧に一致する特徴をもつ惑星──を加えてみたとき、初めてこの奇妙な軌道の辻褄を合わせることができたのだ。

「プラネット・ナインをシミュレーションに加えた瞬間、この天体のような存在がありえるものになり、そして同時に完全な現実になったのです」と、ミシガン大学卒業生でこの新しい論文の主著者、ジュリエット・ベッカーは言う。

「カイパーベルトにこれほど軌道の傾いた天体が集まることは、この仮説以外に説明がつきません」とバティギンは言う。「これでもう、プラネット・ナインの存在を示す、まさに強力な裏づけができたと思います」

プラネット・ナインは仮説のひとつ

ただし、そこまで断言できないという天文学者たちもいる。初期の太陽系がいまもなお謎のまま残されていることが、その理由のひとつだ。

太陽は惑星が密集したなかで生まれたのではないかと科学者たちは考えているが、それはすなわち、太陽系誕生初期には惑星同士が何度も接近した可能性があるということである。だとすれば、現在では考えられないような方向に惑星が押し出されたかもしれない。

そして惑星が分散したあとも、初期太陽系には何十万個もの準惑星が存在したと思われる。それら準惑星の重力の影響で、2015 BP519と呼ばれるこの新たな天体が奇妙な軌道を描くようになった可能性がある。

「わたしにとっては、プラネット・ナインも太陽系の示しえた数多くの状況のひとつにすぎません」と、クイーンズ大学ベルファストの天文学者、ミシェル・バニスターは言う。彼女はこの研究には関わっていないが、「可能性はあります」と指摘する。

しかし、現段階ではそこまでの発言に留まっている。つまりは、ひとつのアイデアにすぎないということだ。

とはいえ、より広い宇宙へと調査を広げていくと、このアイデアがあながち意外でもなくなってくる。地球の2〜10倍にあたる質量をもつ惑星は、銀河系内にごく普通に存在するのだ。それを考慮すれば、太陽系にその種の惑星がないと考えるほうがおかしい。

「この太陽系にそのような天体がないとする可能性が低いと考えていいなら、この仮説が正しいことはまず確実でしょう」とラフリンは言う。「わたしがつい立ち止まってしまうのは、この理論があまりに素晴らしすぎるから。ただそれだけです」

太陽系内部で9番目の惑星が見つかれば、それはまさに画期的なことであり、同時に極めてポジティヴな刺激になるはずだと彼は語った。「科学的理論が劇的に立証されることになります。真実がまだ明らかになっていない現代では、極めて新鮮な変化になるでしょう」


本稿Simons Foundationが発行する『Quanta Magazine』から許可を得て転載した。Simons Foundationは物理化学やライフ・サイエンス、数学等の研究開発や趨勢を取り上げ、科学に対する一般の理解を深めることを目指している。


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TEXT BY SHANNON HALL

TRANSLATION BY YOKO SHIMADA