投資というと過剰な「期待リターン」を設定する人が多すぎます。

正直に言って、投資だけで暮らしていけるような収益をあげることは、ほとんどの人にとっては不可能です。

…いきなりこんな話題から切り出すのも読者の方をがっかりさせてしまいそうですが、あなたが年平均20%以上の運用利回りで、かつ投資だけで仕事もせずに暮らしていくことをイメージしているとしたら、それはほぼ夢物語です。

現実的な運用利回りは?

まず、あなたは投資対象ごとの平均的なリターンを知らないと思います。「日本株というのは平均的に年○%くらいを見込める」とか「外国株は平均○%くらい稼げる」というイメージもなく投資をしているとしたら、それは稼げる平均値を知らずに勝負をしようとしているわけで、愚かなことです。

現実的には年平均で4%程度(+物価上昇率)を設定するのが妥当です。

国の年金運用を行っているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のデータによれば、国内株式の平均的リターンは5.9%、外国株式については6.7%を標準としています。これは賃金上昇率を加えた数字なので、実質的には国内株3.2%、外国株4.0%が「本当に増えた分」のイメージです。

ここ数年のことだけを考えると、株式投資は年10%以上は稼げるような気がしますが、リーマンショックのときのように年に数10%下がった年もあるわけですから、平均するとこれくらいのものです。

しかも、実際には「財産の半分は定期預金にして残り半分で投資」「投資をするけれど債券も保有して分散投資」などのように、すべてを株式に投資しないのが現実であり、「あなたのお金全体の期待リターン」はもっと低めに考えておくべきだと思います。

「え、株って何千万円も稼げるんじゃないの? 億り人とか聞くし」なんて思う人は、彼らがどれだけ危険なリスクテイクをして(偶然にも左右されながら)、その成果を得ているかに気がついていません。億り人の後ろには、資産の多くを失ったたくさんの「沈黙する人々」がいます。

"普通の人"の"普通の投資"においては、年4%くらいを想定するのでちょうどいいはずです。

あなたの生涯賃金は2〜3億円あるはず

一度株のことを忘れて、「人生で一番稼げるものは何か」と考えてみると、実は「仕事であなた自身が稼ぐ額」が最大であると気づくはずです。

労働統計によれば、大卒男性の生涯賃金は2億9000万円、大卒女性の生涯賃金は2億4000万円だそうです。ちなみにこれは退職金を含みません。

「そんなにもらえるわけがない!」と思うかもしれませんが、あなたの社会人人生が年収400万円からスタートし、最終的に600万円まで上がっていったとします。5年働いたら年収が30万円くらい上がるペースです。これで、生涯賃金は約2億円になります。平均より少なかったとしても、2億円前後を会社員は「仕事」で稼ぎ出すということです。

しかし、株で2億円を稼ぐ人はほとんどいません。毎朝9時から出社し、平日は基本会社に缶詰で働いて残業までさせられる、というのはしんどいようですが、最終的に人生で最大の収入を得る手段であることは間違いないわけです。

普通の会社員が投資で儲けられるのは、おそらく数千万円

普通の会社員にとって、投資の条件はそれほど簡単に調整できるものではありません。

運用成績を決定づけるファクターはおおむね「投資元本」「投資に拠出する追加金」「運用利回り」「運用期間」の4つに分けることができます。エクセルのFV関数などはこの4項目を入力すると、ゴール時点での金額が計算できます。

あなたが新卒社会人として投資をスタートするとして、

初期元本:0円

毎月の積立額:1万円

運用利回り:年4%

運用期間:38年(22歳から60歳までとして)

という運用をしたとします。

これは投資元本456万円を積み上げることに相当しますが、最終的な受取額は1068万円まで増えます。これでも十分な運用成果だと思いますが、運用収益は612万円でしかありません(実際には利益確定のたびに20%課税になるので、非課税投資口座を活用しなければもっと低くなる)。

あなたが年8%の利回りを稼ぎ出したとすれば、ゴールが2954万円、運用収益は2498万円と拡大しますが、何億円という稼ぎにはなりません。

もちろん、これだけのお金を投資で稼げた人とそうでない人の間には決定的な人生の差がつきますが、それでも仕事をしないですむほどの運用収益ではありません。

仕事で稼ぐ環境を投資が邪魔してはいけない

ところが、「仕事での稼ぎ」は「投資での稼ぎ」に対して軽く見られがちです。仕事中に投資をしようとする人もいます。確かに、最近では手持ちのスマホであれば誰にも知られず仕事中に投資ができます。

アラートメールを設定し(一定の株価や売買成立の場合に通知を出す)、スマホのバイブレーションが鳴ったら何食わぬ顔をしてスマホを持ってトイレに向かいます。

誰だってトイレに行くときはスマホを持っていきますから、バレる心配はなかろうと、トイレの個室で売買を行い、また何食わぬ顔でデスクに戻る。一見すると完璧なトレードです。

しかし、その「トイレーダー(=トイレでトレード)」スタイルは、同僚や上司にバレバレです。

ある上場企業の人事部長曰く「午前9時から午後3時までやたらトイレにいくからバレバレ。彼女とメッセをしているなら、席を立つのは5時半前後だろう?」とのこと。

そして、業務時間にトレードを繰り返したツケは、人的資本の空費、つまり「生涯賃金減」として降りかかって来ます。

同僚から昇格昇給のペースが遅れることは、その後のキャリアの差にもつながる可能性が高く、生涯賃金数百万円を簡単に損します。ボーナスの査定で5〜10万円の取りこぼしを繰り返したとすれば、こちらも数百万円の損です。

数百万円の「損」ですめばまだいいのですが、その人生の損が1000万円を超えてきたとしたら、あなたは投資でそれを埋めていくことができるでしょうか。

多くの人が「仕事>投資」という優先順位を忘れているように思います。仕事を投資が邪魔することほど、「稼ぎの悪い」ことはないわけです。

投資をする「種銭」は仕事で稼ぐしかない

それに、そもそも投資に回すお金はどこから得るのでしょうか。想定外の相続で数千万円が手に入ったとか宝くじが当選したとかでなければ、あなたは仕事で稼いだお金の一部を投資に回すしかないはずです。

かなり低い勝率になるかもしれませんが、「100万円で1億円を稼ぐ」ようなトレードもできなくはありません。しかし、そもそもの100万円は仕事をして稼ぎ、生活費を手取り収入より低く抑えて、投資予算として確保するしかないのです。

100万円が「溶ける」か200万円になるかはあなた次第ですが、その100万円は仕事で稼ぐしかないのです。

投資は重要です。

しかし、投資によってあなたの毎日の仕事を軽んじるべきできではないですし、否定すべきでもありません。

仕事あっての投資ですし、仕事に支障が出ない範囲で、投資を資産形成のエンジンに取り入れていけばいいのです。


Image: bluedog studio/shutterstock

Source: 年金積立金管理運用独立行政法人,ユースフル労働統計 2017