YouTube Musicレビュー:無料視聴は当たり前じゃないということを学びました

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  • author Rina Fukazu
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YouTube Musicレビュー:無料視聴は当たり前じゃないということを学びました
Image: YouTube Music

現状、いわゆるキラーコンテンツ不足。

Google(グーグル)から先月リリースされたYouTube Music。日本でのサービス展開は現時点で未定ですが、Apple MusicやSpotifyなどの音楽配信サービスがすっかり日常に馴染んできたなか、YouTube Musicは一体どんなことができるのか気になっていた人もいるのでは。

米GizmodoのDavid Turner記者によると、ずばり目新しいことは特になし。なんならSpotifyの輝きを失ったバージョンだと例えています。それでも10億人超のユーザーを抱えるYoutubeだからこそできることは何があるのか…今後への期待を込めつつ、YouTube Musicレビューを紹介します。


YouTubeやSpotifyを上回る新しさが見当たらず

最もポピュラーな音楽配信プラットフォームと認められているYouTubeは、すでに私たちの多くにとってオンラインで音楽を再生するうえでデフォルトのサービスになっています。今回リリースされたYouTube Musicの場合、同様のサービスへのアクセスからお金を集めるのに必死という感じでしょうか。

今年初旬に行なわれたSXSWで、YouTubeの音楽の責任者を務めるLyor Cohenさんは、有料会員を増やすための道のりとして機能制限と積極的な広告により「フラストレーションを高めて誘惑する」と語っていました。また、彼のプロモーションツアーに参加しても、特にわくわくするような最新機能や、この音楽配信アプリにサインアップしたくなるようなビジョンは紹介されませんでした。

YouTube Musicアプリを起動すると、新曲、リスニング履歴、おすすめのミュージックビデオ、場所や時間などの要因に基づいた状況別のおすすめが表示されます。 競合サービスと比較できるような独自のオリジナリティはなく、YouTubeのキュレーションされたプレイリストでさえSpotifyに寄せすぎという印象が拭えないのは、以下の画像をご覧の通り。

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(左)Spotifyのモバイルアプリ、(右)YouTube Musicのモバイルアプリ

YouTube Musicのミュージックビデオライブラリは無限で素晴らしいのですが、それはYouTubeを利用したことがある人にとってなにも新しいことではありません。音楽体験の斬新な方法はなく、楽曲と動画のあり方に新しい可能性がうまれたわけでもないのです。

YouTube MusicのプロダクトマネージャーであるElias Romanさんは、YouTubeが曲とビデオの間のシームレスな移行を可能にする機能をテストしていることを米Gizmodoのインタビューで明かしていました。ですが具体的な実装までのスケジュールが示されたわけではないので、いつ実現するかはわかりません。ただ、こうした新機能への期待を胸に毎月の音楽購読料を支払うというのは、2018年という今の時点では不十分といえるでしょう。

YouTubeは3月、Spotifyで最も人気のあるプレイリスト「RapCaviar」を手掛けるTuma Basaさんを採用しました。このことからプレイリストやコンテンツへの投資準備が整ったことが伝えられましたが、YouTubeの広報担当者によればBasaは現在、新しいストリーミングサービスには直接絡んでいないようです。

YouTubeはこれまで、Demi Lavatoのようなアーティストと組んでオリジナル動画を発信することもありましたが、現時点でApple Music Beats1のラジオに匹敵するような有名なキュレーターや、ミュージシャンによるオリジナルのプロジェクトはありません。アーティストが選ぶプレイリストやインタビューといったオリジナルコンテンツが欠けていては、月額代金を支払う価値を見出しにくいものです。

それでも他サービスに比べて優っているのが、YouTubeのユーザーによって作成されたDJミックスなどの素材です。Apple Music、Spotifyなどの音楽プラットフォームがあるにも関わらず、僕がYouTubeを使うのは、まさにこの多様性が大きなポイントだと思っています。正式なライセンスのもと配信される数百万の音楽だけでなく、リミックスやカバーが混在するのはYouTube Musicの最も魅力的な部分でしょう。多くのプラットフォームでは出会えなかったニッチな音楽を、Bruno Marsの最新曲と並べてプレイリストに入れておくことができるのはYouTube Musicならではです。

楽曲を自由に分類できないのが弱点

残念ながら、YouTube Musicはユーザーがコンテンツを管理するための方法がまだきちんと整備されていません。閲覧/検索方法がやや限られていて、ジャンルや音楽スタイルの選択肢はない状態なんです。プレイリスト作成だって、もっとユニークな方法があって良いはず。YouTube Musicに統合されることになっているGoogle Play Musicは、ストリームのほかクラウドに音楽をアップロードしたり再生することができます。Romanさんが米Gizmodoに話したところによると、YouTube Musicも同じ機能を備える予定なんだそう。これは僕のようにいまだMP3を手放さずお気に入り動画のそばに置いておきたいユーザーにとってグッドニュースといえるでしょう。

SpotifyのプレイリストやPandoraのラジオ局のようにコンテンツをパーソナライズ化してくれるサービスとは異なり、YouTube Musicからはこれといった独自のリスニング体験が用意されていません。他の音楽ストリーミングアプリ体験に慣れ親しんだ人たちにとっては物足りなく感じ、YouTubeの膨大なライブラリを最大限に活用してきた人たちにとっても機能的でないものです。将来的なコンテンツ管理の展望として「たとえばアルファベット順や追加日時などの基準でのライブラリを並べ替えなど、より高度なライブラリ管理が可能になるでしょう」と、Romanさん。

ただし、現時点でアルバムやプレイリスト、楽曲はそのまま保存していく以上のことはできません。曲は自分の思うように分類することはできず、かなり非効率です。YouTubeをよく使う人にとって、ただコンテンツを保存していくだけの操作は違和感ないかもしれませんが、聴きたい音楽を自由に「分類できない」のはマイナスポイントでした。

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Image: YouTube Music/Gizmodo US

そしてYouTube Musicは、もうひとつミスを犯しました。バックグラウンド再生が有料版でしか使えないんです。無料版を使っている限り、音楽を聴いているあいだは他の操作ができなくなってしまいます。無料でバックグラウンド再生できたって、なんの損もないでしょうに…。

まとめると、YouTube Musicのいまの状態を言い表すなら「過去10年のあいだ、広告を視聴しながら無料で利用してきた音楽プラットフォームにお金を支払わせようとする試み」です。ただし努力不足で、いま有料会員になっても他のサービスで手に入らなかったものが得られるとは限らないでしょう。


Image: YouTube Music
Source: YouTube Music

David Turner - Gizmodo US[原文
(Rina Fukazu)