とある地方都市、母と兄との三人家族。物心がついた時には既に、母から厳しい「躾」という名の暴力を日常的に受けていた。
私には何かしらの、検査に引っかからない程度の発達の遅れがあったのだと思う。小学校へ入学する頃になっても、母が私に要求していることを理解できていなかった。自分がなぜ怒られているのか、私の何が悪いのかもわかっていなかった。
怒鳴られれば謝る。殴られれば謝る。ただそれだけ。反省なんてなかった。「母は正しく、私は間違っている。」それが私の、理解の全てだった。
年が離れた兄は、私に優しかったと記憶している。受験のストレスからか、一度だけ八つ当たりのように殴られたことはあるけど、それ以外に私を虐めたりすることはなかった。友達と遊ぶ時間を削って、私を家の外へ連れ出してくれることもあった。私は兄のことが好きだった。
同時に、私は心のどこかで「兄は私の味方ではない。」と思っていたかもしれない。兄は、少なくとも私の前では、母に殴られることがなかった。そして、母の暴力から私を助けようとしなかった。兄は甘やかされているように見えた。母に贔屓されているように感じていた。
私は家出を繰り返すようになった。その度に警察に保護され、家に帰され、そして折檻を受けた。家出が「悪いこと」だとは暗記していた。ただ、理解はしていなかった。だから繰り返した。家に帰るのがとにかく嫌だった。
やがて私は、家の一室に軟禁されるようになった。それでも私は外に出たかった。外から鍵をかけられた部屋の中で一人、じっとしていることができなかった。
他に外へつながる場所を見つけられなかった私は、ベランダから飛び降りた。動けなくなる程度の怪我を負って入院し、数週間の後に退院し、待っていたのは引っ越し先の見知らぬ家と、以前と変わらぬ軟禁生活だった。
一時保護は9歳の時。ほとんど学校に行けなかった私を案じて、教師と同級生が動いてくれたのだと後になってから知った。
私はただ、運がよかった。もし誰も声を上げてくれなかったなら、私は今ここにいないだろう。エスカレートしていく母の暴力は、しばしば生命の危険を孕むものだったから。
施設を出て、もう10年以上が経つ。母は死に、兄とはもう連絡さえ取っていない。
母の望みはきっと、ささやかなものだったのだろうと思う。「家族三人で仲良く、穏やかに過ごしていけたら。」少し贅沢かもしれない、でも当然の願い。私を持て余し、余裕を失い、叶えられることのなかった願い。
兄もきっと、嵐が吹き荒れる家の中で、家族を守ることができない自分の無力に苦しんでいたのだろうと思う。
悲しい事件があるたびに、生まれた家のことを思い出す。私を守ろうとしてくれた人たちのことを思い出す。身を切られるような痛みの中で、自分に与えられた運を思い知る。
私が今、この世界をどうにか信じて生きていられるのは、家出を繰り返す私の言葉を信じ、受け止めてくれた人たちのおかげだ。「そんなにひどい親はいないだろう。」「親が子供を殴って躾けるのは普通のことだ。」そんな人にしか出会えなかったとしたら、きっと私はここにいない。
最近、ある児童相談所の責任ばかり追及する声を多く見るから書いてみた。
今までどれほどの子供が救われたのか、救われなかったのかはわからないけど、私は確かに、児相に救われたと思っている。
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それは最終的に施設入りを認めた母親の英断のおかげでもある
ブクマカのテレビコメンテーター感がやべえな 宮根感というか
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あなたが生きていて良かったよ
怒鳴られれば謝る。殴られれば謝る。ただそれだけ。反省なんてなかった。「母は正しく、私は間違っている。」それが私の、理解の全てだった。 これすごく分かるな、怒鳴って殴る...
お母さんが救われたらいいね。