「ピチカート・ファイヴをもう一度」と言われるけど… 小西康陽が語る、凄い十人の女

    小泉今日子、夏木マリ、八代亜紀、Negicco、そして野宮真貴。小西康陽が語り尽くした創作のミューズたち

    音楽家の小西康陽が、初期作品「黒い十人の女」やほかのアーティストへの提供曲など90曲をまとめた5枚組BOXセット「素晴らしいアイデア 小西康陽の仕事 1986-2018」を出した。

    BuzzFeedでは、「凄い十人の女」をテーマに小西にインタビュー。作品集に収められた9組の女性アーティストに、ピチカート・ファイヴで長く活動をともにした野宮真貴を加えた10人について、じっくりと語ってもらった。

    小泉今日子「面白おかしく生きてきたけれど」

    小泉今日子さんは本当に憧れのアイドル。「生徒諸君!」っていう映画も封切り日に見に行ったぐらい、大ファンでした。

    昔「六本木WAVE」っていうレコード屋さんがあったんですけど、そこのスタッフに紹介されてお会いしたのが初対面。

    「女王陛下のピチカート・ファイヴ」を聴きましたと言ってくれて、収録曲の「衛星中継」をその場で歌ってくださって。本当に雲の上を歩くような気持ち。最高すぎましたね。

    小泉さんの「午後のヒルサイドテラス」や「まっ赤な女の子」を聴いて、ああ自分がやりたい音楽はこれだって思った。

    歌手としても素晴らしくて、僕は王道の歌謡曲の歌い方を継承つつ新しくした人だと思ってるんですよ。

    1960年代の歌謡曲黄金時代に活躍した、園まりさんや小川知子さんにも通じる独特の歌唱法、発声法を持ってますね。

    「素晴らしいアイデア」に入っている「面白おかしく生きてきたけれど」は、久しぶりに小泉さんの曲を書けることになって嬉しいなと思っていたら、不意におりてきました。

    同時に、この歌詞は僕の気持ちでもある。若さに任せてくだらないこともやってきたけど、年を重ねるなかで歯を食いしばって鬱に耐えてるような感じもあって。

    そんな時に小泉さんの「艶姿ナミダ娘」っていう曲にある「なぜなの涙がとまらない」というフレーズを思い出して、作詞家の康珍化さんと作曲家の馬飼野康二さんの許可を得て引用したんです。

    細川ふみえ「スキスキスー」

    細川さんはイタリアの女優さんみたいな人。すごく色気があって、自分でもわからないうちに、それを振りまいている。「スキスキスー」はそんなイメージでつくった曲です。

    でも当時、ピチカート・ファイヴの仕事が忙しくてアレンジができなくて、福富幸宏さんにお願いしたんです。

    実を言うと僕はこのアレンジがずっと気に入ってなかったんですけど、最近になって考えが変わりました。

    去年、サントリーのウーロン茶のCMで「スキスキスー」が使われたんですよ。細川さんが自ら歌われて。

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    年末にその広告代理店の忘年会パーティーでDJをしたんですけど、スペシャルゲストが細川ふみえさん。めちゃくちゃお綺麗でビックリしました。時間が止まってるのかと思うぐらい。

    すごく盛り上がって、みんなワーッとなって。で、その時、福富さんのアレンジで良かったんだと思いました。僕がアレンジしたら、クールすぎる感じになっちゃったかもしれないし。

    Negicco「アイドルばかり聴かないで」

    Negiccoの「アイドルばかり聴かないで」は、ここ10年の間に僕がつくった曲では一番、気に入ってます。

    あの曲は、「夢中になれるものがある人生が一番」「オタク万歳!」って曲なんですよ。

    ムッシュかまやつさんの「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」と同じことを歌っている。ムッシュと違って僕の方はちょっと自己韜晦が入っているというか。

    Negiccoの魅力はアマチュアな面とプロフェッショナルな面を両立して持っているところ。そういう意味ではアイドルの理想型ですよね。

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    T-Palette Records / Via youtu.be

    Negicco「アイドルばかり聴かないで」

    仕事をたくさんやってると、どうしてもプロになっちゃうところがあるでしょう。だけどファンはいつまでもアマチュアでいてほしい。Negiccoは知ってか知らずか、両面を持ち続けてる。

    アイドルブームだからって、アイドルを踏み台のひとつだと考えている人がいるじゃないですか。そんな子は絶対に売れるわけがない。ファンにもすぐわかっちゃうと思うし。

    Negiccoにはそういうところが全然ない。ああいう人たちがアイドルをやってるのは、ファンもすごく嬉しいですよね。

    戸川京子「動物園の鰐Nobody in town」

    戸川京子さんは何かのコンサートだったか、DJ で出たイベントだったかの時に急に話しかけてくれたんです。「女王陛下のピチカート・ファイヴ最高でした」って。

    そういえば中川比佐子さんにも同じこと言われましたね。あのころちょっとモテてたのかなあ(笑)

    ピチカート・ファイヴの関西のツアーにジョイントする形で、京子さんのショーケースライブをやったこともありました。

    一度、夏木マリさん、京子さん、僕、奥さんの4人で居酒屋に話したことがあって。いま思うと夏木マリさんが恋バナを聞いてほしくて、招集したんじゃないかという気がしますが(笑)

    京子さんはすごい気を使う人で、さっと飲み物出してくれたりして。だから、自殺と聞いた時は信じられなかったですね。

    収録した「動物園の鰐Nobody in town」はピチカート・ファイヴのカバーです。どうして自分でアレンジしなかったんだろう…。おそらくピチカートと同じになっちゃうからでしょうね。

    夏木マリ「ミュージシャン」

    夏木マリさんのアルバムをつくることができて、本当にラッキーでした。

    長い黒いコート姿でヨーロッパの街を歩いているのをテレビで見て、ああ絶対レコードをつくりたいと思ったんです。かっこいいですよね。

    初めて会った時、マリさんは透ける素材の服を着ていて、直視できませんでした。まぶしい!みたいな(笑)

    チャーミングな方で、ロックなイメージもある。もともと「ザ・タックスマン」っていうGSの追っかけをしてたぐらいですから。

    「歌手・夏木マリ」というよりは、映画や舞台の女優さんとしての夏木マリさんにアプローチしたい、という思いがあって。結果的に成功したんじゃないかと思っています。

    ある時、マリさんに「銀座で食事しません?」って誘われて行ったら、ダイアモンド☆ユカイさんが一緒にいて。この組み合わせは何なんだろう、と思ったことがありました。

    ユカイさんに関係を聞いても「いや、舎弟ですから」ってそれしか言わないんですよ(笑)

    マリさんといえば、90年代に「13CHANSONS」というアルバムをプロデュースしたんですけど。ピチカート・ファイヴの米国ツアーに出ている間に、レコード会社が勝手に発売しちゃって。

    フランス語だから、本来は複数形の「S」は読まないのに、日本語表記を13シャンソン「ズ」とされてしまった。そのことを20年ぐらいずっと残念に思っていて、本にも書いたりしてたんです。

    そうしたらなんと、今年ちゃんとした名前で出し直してくれることになりました。いや、よかったです。

    和田アキ子「生きる」

    アッコさんのレコーディングに立ち会うことになって、指定されたのが日曜の午後だったんですよ。

    「アッコにおまかせ!」の後だから、仕事モードで臨めて調子がいいんだそうです。担当者の方には「3時から競馬があるから中断すると思います」とも言われました(笑)

    スタジオの角でちょこんと座って待っていたら、アッコさんが開口一番「あっ、先生!」と言うので驚きました。

    アッコさんのデビューしたころって、作曲家の人たちはみんな「先生」で、歌のレッスンなんかもしていた。そういう時代を生きてきた方なんだなって。

    レコーディング中、アッコさんはブースに目張りをして、完全に何も見えないようにしちゃうんですよ。ビデオのモニターとかも全部とっちゃって。

    まったく見えないようにしてレコーディングするのは、僕の知ってる限り、和田アキ子さんとルースターズの花田裕之さんだけですね。

    八代亜紀「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」

    八代亜紀さんは、ものすごく歌唱力のある方。

    僕はどちらかというと声量で勝負する人じゃなくて、マイクを絶妙にコントロールして、少ない声量で効果的に聞かせる人が好きなんです。八代亜紀さんはまさしくそう。本当にテクニシャンですね。

    実際レコーディングした時も、こんなに小さく歌うんだ、こんなにもマイクをコントロールするんだ、と感動しました。フォノグラフ(蓄音機)で録音・再生するシステムができて以降の、代表的な歌手だと思います。

    キャラクターも素晴らしくて、NHKの社食でご飯食べてる時に、おばちゃんたちが「わあ、八代さん!」なんてやってきても、すごくサービスするの。

    一方でライブのメンバー紹介の時は、錚々たるバックの人たちを呼び捨てにするんですよ。「コーラス、誰それ!」って苗字だけ。あれはギャップがあって面白かったなあ。

    三浦理恵子「日曜はダメよ」

    「素晴らしいアイデア」のマスタリングで、何十年ぶりに三浦理恵子さんの「日曜はダメよ」を聴いて、歌がすごくうまいと思った。今回聴き返して、一番感動した曲かもしれません。

    キョンキョンと同じで、60年代からある伝統の歌謡ポップスの歌い方をちゃんと受け継いだ素晴らしい歌手です。

    作曲当時はアレンジやサウンドばかりに気をとられていて、三浦さんの歌声の素晴らしさにあまり気づいてなかったんですよね。

    この曲のアレンジは僕じゃないんですけど、いつか僕のアレンジでリミックスしてみたい。チャンスがあれば、三浦さんのボーカルでもう一回僕の曲を歌ってもらいたいなあ。

    慎吾ママ「慎吾ママのおはロック」

    慎吾ママは「十人の女」に入れちゃっていいのかな? まあアリということにしましょう(笑)。

    「慎吾ママのおはロック」をつくった時、打ち合わせでフジテレビに行ったら何十人もいて。とにかく、いろんな人がいろんなことを言うわけですよ。

    僕は真ん中に座らされて、それをメモしてたんですけど。

    「パパ、ママ、おじいちゃん、おばあちゃん、お隣さんもみんな大切にして」とか、「朝ごはんが大事だ」とか、バーっと言われて。

    全部書き留めたら歌詞になっちゃった。自分がつくるところがないぐらい(笑) 家に帰るタクシーで、だいたい曲ができてましたね。

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    新しい地図 / Via youtu.be

    小西が作詞作曲した「72」のレコーディング風景(※今回のアルバムには収録されていない)

    「慎吾ママ」っていうキャラクターはもともとあったし、「おはロック」っていうのもマニピュレーターの福富さんの発案。「慎吾ママのおはロック」のうち、僕がつけたのは「の」だけなんです(笑)

    レコーディングの時、香取さんは夜10時過ぎに来て、ハンバーグ定食の出前をとってました。食後に3回ぐらい歌って、サッと帰っていった。音はバッチリでしたね。

    前にも言ったけど、香取さんは天才なんですよ。反射神経、観察力、サービス精神…エンターテイナーとして、すべての面で天才的な方だと思います。

    野宮真貴(アルバム収録なし)

    野宮真貴さんは、とにかく声がいい。小泉今日子さんとは違う意味で、やっぱり僕の理想のボーカリストだったんですよね。

    決して器用な人ではないんですよ。 歌に関してはできないこともたくさんある。ブルーノート・スケールが苦手でシャウトもできないから、ロックには向かない。

    逆に言えば、八代亜紀さんと同じで自分のスタイルや声量、持ち味を知り尽くしてるってことですよね。

    ボーカリストって、何でもかんでもできなくていいんです。持ち味さえあれば。ビリー・ホリデイだってそうじゃないですか。

    野宮さんのあの声は、ある時代の東京のアイコンだと思いますね。僕にとって、重要な曲を書かせてもらった一人です。

    ただ、2年契約、2年契約で野宮さんと10年やって、自分に書ける曲ほとんど書きつくした感じもあって…。

    ピチカート・ファイヴを解散したころは、自分の違う扉を開けてくれる人が必要だった。きっと、野宮さんもそうだったんだと思う。

    いまでもたまに、「ピチカート・ファイヴ、もう一回やりませんか?」って言われます。

    キッパリ言っとくと、お金を積まれればやります! ちょっとやそっとの額じゃないですよ(笑)

    っていうのは冗談として、まあ前向きに考えてはいますけどね。

    〈こにし・やすはる〉 1959年、札幌生まれ。作編曲家。1985年にピチカート・ファイヴとしてデビュー、2001年に解散。アーティストのプロデュースやドラマ・映画の楽曲制作、DJなど幅広く活躍。海外でも高い評価を誇る。著書に『ぼくは散歩と雑学が好きだった。 小西康陽のコラム1993-2008』(朝日新聞社)など。監修を手がけた大映映画スチール写真集『いま見ているのが夢なら止めろ、止めて写真に撮れ。』(DU BOOKS)が6月22日に発売される。

    BuzzFeed JapanNews