YESの9割はフロントトークで決まる!』(和田裕美著、日本経済新聞出版社)の著者は営業コンサルタント。外資系教育会社でのフルコミッション営業において、プレゼンした顧客の98%から契約を獲得し、世界142カ国中第2位の成績を収めたという実績の持ち主です。その結果、20代にして女性初、最年少で支社長となり、独立後は国内外で研修や講演を展開中。

本書ではそのような実績を軸として、相手の心をつかんで「YES」と言ってもらえる“即決アプローチ”を初公開しているわけです。ちなみに、その際にもっとも重要な必殺技は「フロントトーク」なのだとか。

この「YESの9割」が決まるというフロントトークを使えるようになれば、もっと楽しくお客様に感謝されながら結果を出すことができるようになります。(中略)きっと「背中を押してくれてありがとう」とたくさんの人が笑顔で言ってくれることになるので、楽しくてたまらない状態になるはずです。 そう、“営業が楽しくなる”のです。 (「はじめに」より)

きょうはそんな本書の中から、すぐに役立てることができそうなエッセンスが凝縮された補講「成約率98%! 和田式・営業基本動作」に焦点を当ててみたいと思います。

第1ステージ:見込み客を見つける

見栄えのいいウェブサイトや名刺、きれいなオフィスにロゴマークなどを準備することも、もちろん大事でしょう。しかし、そもそも集客できないと売り上げを出せるはずがありません。つまりスタート段階の第1ステージの目的は、マーケティングし、見込み客をつけてアポイント取りをすること。

「どんなことで困っている人がこれを欲しがる?」

「その人はどこにいる?」

「どんな未来を求めている人がこれを欲しがる?」

「その人とどうやって出会う?」

「その人が私たちの商品に気づくにはどうしたらいい?」

「広告をする? どんな? 予算は?」

「電話営業する? リストは?」

「訪問をする? どこに?」

「キャンペーンをする? どうやって?」

「メルマガを発行する? どんな内容で?」

「ウェブからの問い合わせを起こす? どうやって?」

「チラシを配布する? どのエリアに? どんな内容で?」

……などを、しっかり明確にしていくのです。

(183ページより)

自営業でない限り、広告もリストもある程度は会社が用意してくれるはず。しかし、会社から与えられたものをただ受け取ってやるよりも、自分で理解しているほうが創意工夫が生まれ、いい結果にもつながりやすいもの。そのため、まずは自分で考えてみることが大切だということです。

なお第1ステージでは、会社や業態によって「インバウンズ」なのか「アウトバウンズ」なのか、手法が変わってくるそうです。

インバウンズとは、広告などで広く知らしめてお客様からの「お問い合わせ」を待つ手法。たとえばテレビCM、新聞の折込チラシ、ネット広告などを見て、興味を持って請求したり、「サンプルを差し上げます」「○○が当たります」などのメッセージを見て応募する場合、すべてインバウンズの方法に乗っとったものということになります。待ちの状態からのスタートなので、営業的にはストレスの少ない方法。

対するアウトバウンズは攻めていく方法で、電話営業や訪問営業がこれにあたるわけです。ただし、やり方を間違えると嫌がられたり、電話を切られたり、説明する間もなく「いりません」と拒絶されるため、ストレスの多い方法でもあるでしょう。

とはいえ予測不能なインバウンズに対して、アウトバウンズは確実に行動量の結果が出る手法だとも言えるはず。そのうえ営業力も身につくので、一度はやっておいたほうがいいと著者は記しています。(183ページより)

第2ステージ:商品説明からクロージングまで

第2ステージは、アポイントが取れて、ついに「出会う」というところまで進んだ段階。流れとしては、

1. リサーチ

2. フロントトーク

3. プレゼンテーション

4. セミクロージング

5. クロージング

6. コントラクト

7. バトンナップ

(186ページより)

となるのだといいます。なお本書では、できるだけわかりやすくシンプルに「売れる人」になれるようにとの思いから、特に重要なフロントトークとプレゼンテーションに特化しているそうです。なぜならフロントトークとプレゼンテーションがしっかり身についていないと、クロージングにはたどりつけないから。そして基本を知っておけば、商品説明からクロージングまでのプレゼンテーションはスムーズになるわけです。ひとつひとつをチェックしてみましょう。

1. リサーチ

出会っていきなり商品説明をするのはNG。どんな商品の説明を聞いても、それが「相手の問題解決」に訴求していなければ意味がないからです。そこで最初は「相手を知る」ことが大切。あらかじめ質問を用意し、隠れたニーズを探るわけです。

2. フロントトーク

リサーチの段階では、「なんとなくそうかも」と相手に気づきを起こしただけ。そのためリサーチが終わってもまだ商品説明はせず、その前にフロントトークを入れることが重要。つまりはあとにくる本番のクロージングの前に、(たとえば「いつまでに手に入れたいですか?」など)決断を促す言葉をかけておくということ。

このフロントトークこそが、YESの9割を決定するのだといいます。そしていちばん大事なのは、営業側が「即決」することの重大な意味を理解し、営業の言葉で語れること。

3. プレゼンテーション

いわゆる商品説明。「その商品をつくっているのはどのような起業家?」「どんな問題解決ができるのか?」「どうやって問題解決を可能にしたのか?」「実際の方法は?」というような流れによって、商品の魅力を伝えるわけです。

4. セミクロージング

クロージングという「お金の話」をする前の段階。好んでお金払う人は少ないので、お金を払う段階になれば「ちょっと考えます」となるのは当然。そこで、

「金額よりも価値が高い」→付加価値の提案 「相場の金額よりもお得」→他者比較、相場確認

を行い、損と失敗への不安を軽減しておくということ。

5. クロージング

金額を提示し、お客様に選んで決断してもらう段階。内容を気に入ってもらえていれば、あとは「どれくらいなら支払い可能なのか?」「頭金を入れた場合のシミュレーション」など、具体的な話を詰めていくことに。フロントトークで「即決」の促しができていれば、あまり時間をかけずに進めたいところ。ちなみに人は嫌いな相手からものは買わないので、まずは好かれることが大切。

6. コントラクト

契約書にサインをいただく段階。できれば、なるべくいいペンを使うべきだといいます。

7. バトンナップ

バトンナップ(button up)とは、「きちんと仕上げる」という意味合い。契約が取れると、そこがゴールだと思いがちですが、購入されたお客様はそこからがスタート。「この決断は正しかったのだろうか?」と不安が襲ってくる場合もあるので、気を抜かず、最後までまめな対応をすることが求められるわけです。

【わくわくのバトンナップ~スタートした後のイメージを持ってもらう】

「3カ月後にはこのように、1年後にはこのように変化する可能性があります。そうなれば…」

「○○で売上もあがりますし、さらに新しい事業もスタートできるかもしれません」

「もっと人と出会いたくなって、仕事も楽しくなってくるかもしれません」

「外国人の友人ができたり、海外旅行に行くようになったり、今とはかなり生活も変わっているかもしれませんね」

(199ページより)

また、「こんな契約をしたんだけど」と相談した場合、家族から反対される可能性も。そこで契約後には必ず、

・なぜ、必要なのか?

・なぜこれを選んだのか?

・お金を払っていけるのか?

・得なことはなにか?

(200ページより)

などをきちんと客様自身で説明できるように、トークを伝授しておくことも大切だといいます。(186ページより)

第3ステージ:返報性の法則をつかむ

お客様との関係を未来にまでつなげていき、継続顧客になってもらうために、「どうやったらリピートになるのか」「リファーラル(紹介)をしてもらえるのか」ということを考えて仕組みを作っていく段階。

第1ステージでは、必死に見込み客の開拓をしているはず。行動量が必要とされるため、営業活動の時間の大半を取られてしまうのです。しかし、その時間をお客様と対面してクロージングする第2ステージに使うことで、成果もぐんとあがるはず。

つまり第3ステージでリピートや紹介が増えれば、アポイントをとる時間が不要になり、いきなり第2ステージからスタートすることが可能に。さらに、継続の意思のある(もう一度買いたい)お客様や他のお客様に紹介された見込み客は、最初から商品への信頼も高く、制約につながりやすいといいます。いわば第3ステージは、ファンになってもらうには最高のステージ。

しかし、だからといって「紹介をください」と早々にお願いしても嫌われるだけ。「自分の成績のために必死なんだな」という違和感を抱かせないためにも、いったん紹介のことは忘れ、「お客様が喜んでくれることはなんだろう」ということだけを考えるべき。

・誕生日、設立記念日に連絡する(カードでもOK)

・ときどき電話をかける

・興味のありそうな情報を伝える

・仕事の役に立てそうな人を紹介する

(205ページより)

など、すぐに紹介にならなくても、お客様の喜んでくれる顔を見て、うれしい気持ちになることを積み上げていく。そうすることで信頼関係が築け、確実にリピート・紹介につながっていくというわけです。これを、返報性の法則と言います。(202ページより)




著者自身の経験が軸になった、まさに営業マンのための1冊。成約率を上げたいと願っている方は、読んでみてはいかがでしょうか。

Photo: 印南敦史