あなたは、クルマを選ぶときに何を基準にしますか? よく言われるのは、ブランド性、燃費の良さ、走行性能、積載性、車両本体価格など。もちろん、これらは重要な要素ですが、本当にそれだけでいいのでしょうか。ライフスタイルが多様化し、クルマに対する価値観も大きく変わりつつある今、クルマ選びには新常識が生まれつつあります。キーワードは、時代に呼応した新しい意味での「ラグジュアリー」。

高級・高価といった前時代的な意味ではなく、現代におけるラグジュアリーは、自分の満足感や充実感を満たしてくれるモノなのかどうかがポイントのようです。では、それはクルマ選びの新常識とどう通じるのか。昨年話題になった『GINZA SIX』のインテリアデザインを手掛けたインテリアデザイナー、グエナエル・ニコラ氏とラグジュアリーの本質について考えてみました。

コンパクトカーなのにラグジュアリー。クルマ選びの常識が変わりつつある

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Image: Maxim Gaigul/Shutterstock.com

巷で指南されているクルマの選び方は、まず自分のライフスタイルから用途を見極めて、その使い方にあったデザインや積載性、サイズを決める。お眼鏡にかなった複数の車種から、燃費やメーカーのサポート体制、走行性能、安全性能、便利機能、ボディカラーなどを比較検討し、後悔しない1台を絞り込むといったところです。

しかし、燃費やメーカーのサポート体制、走行性能、便利機能などは、どのクルマもかなりの水準に達しています。では、クルマ選びの新基準はどうなるのか。そのキーワードが「ラグジュアリー」です。

ラグジュアリーなクルマ。多くの人はその響きだけで、自分には関係ないと思ってしまうかもしれません。

しかし今、世界の自動車市場で最も売れている1つが、「ラグジュアリーコンパクトSUV」というカテゴリー。コンパクトなのに高級感のある装いや走りが支持されています。以前のような、車体が大きく、大排気量で走行性能が突出した、価格が高いクルマという価値観は、古いラグジュアリーカーといってもいいでしょう。

ではなぜ、ラグジュアリーコンパクトSUVが受け入れられているのか。それは、時代の変化によってラグジュアリーという言葉の意味が変化しつつあるからです。根底には、話題の「モノ消費からコト消費への変化」や「多様性の受容」が関係していると言われています。

これまで、モノ消費では、モノを所有することに価値が置かれていました。そのモノが希少だったり、高級だったりすることが、ラグジュアリーだったのです。しかし、コト消費では、所有よりもエクスペリエンス(ユーザー体験)が重視されます。体験の満足度こそ、ラグジュアリーにつながります。そこには、お金を尺度にした基準はありません

また、画一化されたラグジュアリーの概念が変わりつつあります。誰もが認めるラグジュアリーはもちろん存在しますが、それ以上に自らの感性に合っているか、そのブランドの価値観に共感できるかどうかが重要視されているのです。たとえば、サスティナビリティを重視したクルマづくりを理念とするブランドの価値観に共感するのも、ラグジュアリーを追求した1つのスタイルです。

では、新しいラグジュアリーの価値観は、クルマ選びにどう影響するのでしょうか。前述のグエナエル・ニコラ氏に、ラグジュアリーの本質とラグジュアリーなクルマ選びを聞きました。

プロダクトの先にある、人とのつながりがラグジュアリーをつくり出す

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グエナエル・ニコラ:1966年フランス生まれ。来日後、フリーランス活動を経て1998年キュリオシティ設立。インテリア、プロダクト、グラフィックなどシームレスに活躍。近年は、日本をベースにしながらも国際的なプレステージブランドの店舗デザインを数多く担当。近作にGINZA SIX、ドルチェ&ガッバーナ ロンドン&マイアミ、モンクレール ドバイなどがある。
Photo : 木原基行 

── ニコラさんは「ラグジュアリー」の本質をどのように考えていますか。

グエナエル・ニコラ氏(以下、ニコラ):ラグジュアリーを構成する要素で重要なのは、人と人との出会いです。たとえば、ラグジュアリーブランドは、プロダクトがゴールではありません。誰がそのブランドのフィロソフィーを定め、どんな職人がプロダクトをつくっているのか。背景にいる人を感じられることが、ラグジュアリーを成す大きな要因の1つです。

つまり、プロダクト自体がラグジュアリーを演出するわけではありません。そのプロダクトに興味がある人の背景には、自分のライフスタイルがあるはずです。プロダクトに魅力を感じ、価値を理解することは、裏を返せば自分のイメージやライフスタイルが明確になること。プロダクトが他者とのコミュニケーションのきっかけとなり、そこにエクスペリエンスが生まれます。それも、ラグジュアリーを構成する要素の1つです。

── 確かに、多くの高級車ブランドは、理念や思想がはっきりしていますし、そのプロダクトには職人技が感じられます。さらに付け加えるとしたら、「積み重ねた歴史」というファクターは必要ありませんか。

ニコラ:個人的には、ラグジュアリーに歴史は関係ないと思います。伝統的な技法を駆使したクラフトマンシップ、日本で言えば匠の技はラグジュアリーを感じさせます。一方で、テクノロジーを駆使して、さらに高みを目指して変化することも、立派なクラフトマンシップです。

その意味では、現代のラグジュアリーカーは、クルマの基本的な性能である「走る、曲がる、止まる」のレベルが高いだけではダメ。重要なのは、テクノロジーをどのように生かすか。もちろん、走行性能の向上にテクノロジーを活用する方法はありますが、私はよりホスピタリティーを充実させて欲しいと思っています。

── これからのラグジュアリーカーは、ホスピタリティーがあるクルマですか。興味深いお話しです。

ニコラ:イメージはホテルと同じ。足を踏み入れると、さまざまなおもてなしで迎えてくれると嬉しいですね。本当は、乗った瞬間から何も考えずに、目的地まで安全で快適に移動できるのが一番ですが、少し先の話かな(笑)。

── 最近では、ボタン1つでコンシェルジュのいるコールセンターにつながり、オススメのレストランを尋ねると、その場所をナビに設定してくれるといった機能を備えたクルマもあります。また、高級車ブランドでは、アフターメンテナンスに訪れたときにナンバーを読み取り、ドアを開けた瞬間からパーソナルサービスがはじまるディーラーも存在しています。こういった部分も、ラグジュアリーを感じさせる要素ですね。

自分の満足感や充実感を満たすプロダクトこそラグジュアリー

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Photo : 木原基行

── ニコラさんは、どういった視点でクルマを選んでいますか。

ニコラ:クルマも含めて、モノを選ぶときには、エクスペリエンスがあるかどうかが重要。たとえば、朝起きてコーヒーを淹れますが、カップはなんでもいいわけではありません。機能性やつくられた背景、デザイナーの思想なども含めて、自分が気に入ったものを選んでいます。先ほどの話にもありましたが、そのカップを選んだ理由は、結局のところ、私が望むライフスタイルなのです。

日常的に使うプロダクトこそ、こだわって選んでいます。モノを介して、自分の満足感や充実感を満たすことができると、それはラグジュアリーな暮らしにつながります。ラグジュアリー=最高級なものではありません。判断基準は、プロダクトから得られるエクスペリエンスが、その人の価値や生き方、ライフスタイルに満足感を与えて、人生を充実させてくれるかどうかなのです。

── 都市部では、公共交通が発達し、カーシェアリングも増えています。極論で言えば、クルマを持たなくても“移動”することは可能です。合理的に考えて、クルマはいらないといった意見も耳にするようになりました。

ニコラ:だからこそ、ラグジュアリーという軸が必要です。私は、プレゼンテーションには必ず自分のクルマで向かいます。ここだけは、誰もいない自分だけの時間。音楽を聴いて、リラックスできる。私にとっては、クルマで聴く音楽は重要。そういった意味で、音楽にこだわったクルマがあれば、それは私にとって、ラグジュアリーなクルマです。ただ移動するのではなく、快適な空間でリラックスした時間を過ごす、ラグジュアリーな移動と考えればいいのではないでしょうか。それは、人生を豊かにしてくれます。

── クルマ選びといえば、つい機能や価格にばかり注目してしまいますが、そこに「ラグジュアリー」という新基準があれば、人生を豊かにしてくれるツールになることがわかりました。本日はお忙しいなか、ありがとうございました。


この日、ニコラさんの取材を行ったのは、東京ミッドタウン日比谷にある『LEXUS MEETS...』。取材終了後、展示されているレクサスを楽しそうに見つめる姿が印象的でした。

ニコラさんが考える、新しいラグジュアリーは、レクサスと共通する部分もあります。それは、テクノロジーを取り入れながら、絶え間なく進化する姿。また、ドライバーファーストで考える“おもてなし”の姿勢。そして、匠がこだわってつくり上げる、人が見えるプロダクト。なにより「単なるモノの所有だけではなく、ブランドがもたらす体験がより重要なものである」という考え方です。

コンパクトだけどラグジュアリーなクルマへのニーズが高まっているのは、ニコラさんがお話しされた、本当の意味でのラグジュアリーを知るユーザーが増えてきているのかもしれません。


Photo: 木原基行

Image: Maxim Gaigul/Shutterstock.com

Source: レクサス