タイトルからもわかるとおり、『言葉が人を「熱狂」させる』(豊福公平著、きずな出版)のテーマは「言葉」。人を動かす言葉について、自身の考え方を記しているわけです。しかし、そもそも言葉には、数学のように唯一の正しい答えがあるわけではありません。

そこで著者は、「正解はないけれど、自身の体験した言葉を書こう」という思いに至ったのだといいます。それらをヒントにすれば、読者をそれぞれの答えへと導けるようになるのではないかと考えたというのです。

だからこそ本書は、言葉選びや言葉遣いに関するハウツー本ではないのだといいます。なぜなら、「この言葉を使っていれば絶対にうまくいく」などという言葉は、この世に存在しないのだから。しかしそれでも、正解に近い、正解に近づける「言葉」は存在するというのです。

それは簡単に表現すれば、「ポジティブワード」です。 気持ちをポジティブにさせてくれる言葉、雰囲気を明るく変えてくれる言葉、そういった単語やいい回しです。 一方で言葉には、間違いだけは確実に存在します。 それは「ネガティブワード」です。(中略)この言葉が存在するだけで、気分は暗く沈んでしまい、その場の雰囲気もどんよりしてしまうからです。 (「Prologue」より)

そこで本書では、会社経営者である著者自身の「現在進行形の体験」を交えつつ、「どのようなシチュエーションでどのような言葉を選ぶと、人は熱狂にいたるのか」というプロセスを解説しているのだということ。これは人を動かす「キラーワード」とのつきあい方だとも言えるのだとか。

きょうはそのなかから、成長の過程で避けては通れない「批判」について書かれたChapter 3「戦うーー正面からぶつかることを恐れない」に注目してみたいと思います。

意味を知らずに「批判」を怖がっていないか?

多くの人は、「批判」という単語に対してよくないイメージを持っているのではないでしょうか。「できればこの単語が出てくるようなシーンは避けたい」とか、「誰からも批判されたくない」とか。

たしかに批判という単語には、「物事の適否を判断すること」「欠点を指摘して、それを正すべきものとして論じること」「行為や作品の価値を判定すること」などの意味があります。つまり自分自身に対して「ダメ出しされている」という感覚に陥ってしまうからこそ、批判されたくないと考えてしまうわけです。

しかし、そもそも「批判」と「非難」は混同されていると著者は指摘します。「批判」によって欠点を指摘されることは、たしかに「ダメ出し」かもしれません。けれどそれは、「欠点をなおせばよくなるよ」というアドバイスでもあるということ。

つまり「批判」されるというのは、自分に対して建設的な意見をいただいている状態を指すのです。 一方の「非難」は、欠点を取り上げて責め立てるという意味なので、ただダメ出しだけをされることです。(82ページより)

いわば「非難」は、欠点を指摘するだけで、「それをどう活かせばいいか」というヒントとは無縁のもの。対して「批判」は、今後にとっていいヒントとなるものだということ。そのことを理解すれば、怖がったり避けたりする必要はなくなるわけです。(81ページより)

「いい批判」と「中傷」を混同しない

著者にとってのメンターであるというアメリカの著作家、ジョン・C・マスクウェルは、批判に対して次の10の視点を持つことを提言しているのだそうです。

1. 「いい批判」と「中傷」を見分ける

2. 深刻に受け止めすぎない

3. 尊敬する人の批判にはじっくり耳を傾ける

4. 感情的にならない

5. 志を確認

6. 「休む時間」を取る

7. 「一人の批判」を「全体の意見」と勘違いしない

8. 時が解決してくれることを待つ

9. 同じ土俵で戦わない

10. 批判や失敗から学ぶ

(83ページより)

とくに重要なのは、1.の「『いい批判』と『中傷』を見分ける」だといいます。中傷は不当に蔑み、信用や価値を低下させる行為であるため、タチが悪いということ。そして、この中傷に近い存在が「非難」であるわけです。「いい批判」は、自分のためを思ってしてくれていると実感できるもの。ところが中傷や非難には、相手を蹴落とそうという悪意しかないということです。

けれど、批判という言葉の意味をきちんと知ることができたなら、批判されることへの不安や恐怖は消え去るはず。そして不安や恐怖が取り除かれた状態に慣れてくると、今度はより高いレベルにステップアップするため、批判されることが好ましく思えてくるのだといいます。

そしてそういうメンバーに囲まれて対話をしていくと、お互いがお互いを批判し合う状況が生み出せることに。そうやって足りない部分や欠けているポイントを指摘し合うことで、より完成度が高いものがうみだされるわけです。

このような作業をしているときのメンバーの思いは、相手に対する思いやりにあふれているもの。そして、相手を思うからこそ、真剣に言葉をぶつけるわけです。そういう意味で「対話」とは、真剣な言葉を正面からぶつけ合うものなのだと著者は記しています。(83ページより)

感情には理論で反応せよ

逆にいえば、相手に対して正面からぶつかっていくためにも、不安や恐怖を自分のなかから取り除く必要があるということになるはず。そのために、批判を喜んで受け入れる姿勢が問われるということです。

私は何かの行動を起こせば、批判は必ずされると考えています。 それはチームを組んで共有できる目標をつくり、その実現に突き進む場合でも同じだと思います。共有するために話し合いをすれば、必ずメンバー同士の批判が起きるはずだからです。 こうして批判と正面から向き合うときに重要なのは、「感情的にならない」ということです。(86ページより)

自分の考えを真っ向から否定されれば、誰でも少なからずカチンとくるもの。しかしそうなると、批判に対して中傷などで返してしまう可能性も高まるでしょう。とはいえ相手も相手なりの論法で批判しているはずなので、批判に対しては、論理的に反論するのが筋。そうでなければ、議論は建設的にならないということです。

批判が正面からぶつかっていく行為だとしたら、中傷や非難は後ろからぶつかっていくようなものだと著者はいいます。相手の思いや立場などを思いやってはいず、自分が言い合いで勝てればいいと思っているだけ。真っ向勝負をする必要がないわけです。

そしてここで著者は再び、先のマクスウェルの言葉を引き合いに出しています。

「相手が、どの方向から議論をぶつけてきているか」 (87ページより)

ここを見極めることが重要だというのです。もちろん、すでに目的意識を共有しているメンバーであれば、この見極めは不要。その一方、これからメンバーになってほしいと思っている人物がいたなら、自分の思いをぶつけたときの反応が「批判」なのか「非難」なのかを見極める必要があるといいます。そのとき「批判」をぶつけてきたなら、その人物は新メンバーとしてチームに迎え入れても大丈夫だと判断できるわけです。(85ページより)

外部メンバーを集めたいときに効果的な言葉

チームが共有できる目標を持って始動した際、その目標を達成するため、外部の協力者にサポートを依頼するような機会もあるでしょう。いわば外部サポーターも、チームの一員であるわけです。では、そのような外部のサポートメンバーを集めるとき、どのようにして探せばいいのでしょうか?

そんなときに狙うべきは、「とびっきりの人」だと著者はいいます。「とびっきりの人」を知っていそうな友人や知人に、「とびっきりの人を紹介してください」とお願いするというのです。

ポイントは、前もって友人や知人に、自分が目指そうとしているゴールや目標を打ち明けておくこと。いってみればそうした友人や知人は、直接的なチームの一員ではなかったとしても、応援してくれる時点で「準メンバー」だということ。

そんな人が「とびっきりの人」を紹介してくれるのであれば、それは金の鉱脈や宝のありかを教えてもらえたも同然。そして紹介してもらった「とびっきりの人」に会ってゴールや夢を打ち明けたとき、帰ってきたレスポンスが「批判」に通じるようであれば脈ありだということです。

そこで、このような準メンバーや未来のメンバー候補に対しても、著者は正面から思いのたけをぶつけるのだそうです。もちろん、それは批判がほしいから。

批判を受けて議論を戦わせることは、勝つか負けるかという勝負論とは次元が異なる戦いだといいます。つまりは、より高次のステージに上がるための通過儀礼。そは避けて通るべきものではないので、「批判との戦い」については、どこまでも好戦的であるべきだという考え方です。(93ページより)




著者は、ハイパーレスキュー隊員からプルデンシャル生命保険出身のライフプランナーに転職したという異色の経歴の持ち主。現在はGift Your Life株式会社代表取締役社長として多くのメンバーを率いているそうですが、そんなリーダーシップは、本書にも反映されているように思います。人を動かす「キラーワード」を使いこなすため、参考にしてみてはいかがでしょうか?


Photo: 印南敦史