相次ぐ新技術の発表で、「未来のPC」の姿が見えてきた

毎年恒例のコンピューター見本市「COMPUTEX TAIPEI」が今年も開かれた。32コアの怪物プロセッサーや7nmプロセスのGPU、スマートフォンの部品で動作するパソコン、そして5Gへの常時接続を実現したノートPCといった新しい発表の数々から見えてきたのは、まだまだPCに進化の余地が残されていたという事実と、そして「未来のPC」の姿だった。
相次ぐ新技術の発表で、「未来のPC」の姿が見えてきた
台北で開かれた「COMPUTEX TAIPEI 2018」の様子。PHOTO: AP/AFLO

最近のパソコンPC)には、“ワクワク感”がなくなってきた。確かに価格はどんどん安くなっているし、動作速度もちょっとは速くなっている。だが、超高性能チップが次々と発表されているわりには、現実と可能な未来との間に広がる溝は依然として大きい。

6月上旬に台湾で開かれたコンピューター見本市「COMPUTEX TAIPEI 2018」では、そのギャップを埋めるような製品が次々に登場した。スマートフォンの部品で動作するPC。本当に24時間連続で稼働するデヴァイス。32コアの怪物プロセッサーや、7nmプロセスでつくられた初めてのGPU。5Gへの常時接続を実現したノートPC──。

これらは、COMPUTEXで見かけたガジェットを支えるイノヴェイションの一部だ。またPCではないが、エイスース(ASUS)のゲーム特化型スマートフォン「ROG Phone」には、背面装着型の空冷ユニットが付いている(スマホに空冷ユニットとは恐れ入った)。

もちろん、すべてが明日にでも消費者向けデヴァイスとして市販されるわけではないし、PCを使っている人の大多数がこうした技術を必要としているわけでもない。しかし、夢見た未来が実現するのを待ちくたびれているのなら、とうとう早送りモードに入ったと見て間違いないだろう。

性能と使用可能時間を両立させたクアルコム

まずは間近に起こりそうなところから話を進めていこう。

クアルコムは長年にわたり、「iPhone」以外のモバイル・システムオンチップ(SoC)で王座を占めてきた。ところが昨年12月には「Windows」向けのチップセットを発表している。

これはグーグルの「Chrome OS」を採用した「Chromebook」が割り込んできたことで、さらに加速したさまざまな技術の融合を踏まえた動きだ。最低限クリアしなければならないのは、ラップトップ並みの処理能力、十分なバッテリー寿命、そしてスマートフォン並みのネットワーク接続性ということになる。

こうして最初に誕生したのが「Snapdragon 835」プロセッサーである。サムスンの「Galaxy S8」といった最高レヴェルのスマートフォンに採用されている。

その後継として発表された「Snapdragon 850」は、ノートPC向けのチップだ。瞬間起動、常時接続、1週間のバッテリー駆動時間を実現した「Always Connected PC」というカテゴリーに属する一連のノートPCに使われる。

これを使って動画編集をする気にはまだならないだろうし、人気ゲーム「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」をやるメリットもないだろう。だが、Snapdragonシリーズでは新製品が発表されるたびに何か変革が起きている。850は「835」と比べて、システム全体のパフォーマンスは30パーセント向上した。人工知能(AI)の性能は3倍になり、連続使用時間は最大25時間だ。

ただし、バッテリーの駆動時間に関しては、メーカーの言葉を鵜呑みにすべきではない。それでも、850は「Windows 10」に最適化されており、求められていた“究極”のマシンが今年にも実現する可能性はある。つまり、本当に羽のように軽く、常にネットにつながっていて、必要な時はいつでもどこでも使えるラップトップだ。

調査会社ムーア・インサイト&ストラテジーの最高経営責任者(CEO)であるパトリック・ムーアヘッドは、次のように語る。「これは大きなニュースです。未来のラップトップは常にネットに接続されていて、バッテリーを消耗するようなことに使ったとしても、充電なしで文字通り1日中起動したままでいられるのです」

AMDによる「32コア」の衝撃

接続性と効率性だけでは心がときめかないなら、AMDの展示ブースはどうだろう。「Threadripper」と聞くとビクトリア朝の連続殺人鬼を思い浮かべてしまうかもしれないが、AMDの「Ryzen」シリーズの最新モデルとなる「2nd Generation Threadripper」は、32コアで64スレッドという怪物だ。

意味がわからない人のために書いておくと、とにかく信じられないくらいものすごくたくさんのコアとスレッドがあるのだ、と思ってほしい。参考までに、インテルが昨年5月に18コア、36スレッドのチップを発表したときは、それだけで大騒ぎになった。

ムーアヘッドは続けてこう語る。「動画編集のような作業では、コアの数を増やすことで処理できるデータの量が右肩上がり増えていきます。4Kや8Kの動画で以前は30分かかっていたことが、いまでは15分でできるようになりました。ワークステーションやクリエイティヴ系のアプリなど、あらゆる種類のレンダリングで処理時間が短縮されたことが実感できるはずです」

今回の発表は華やかな自動車ショーのようなものだと考えることもできる。つまり、実際に手に入るものより、かなり誇張した宣伝がなされているわけだ。

もっとはっきり言えば、ステージの上にある宣伝文句どおりのスペックのクルマも数カ月後には発売されるわけだが、とんでもない額になる。しかしそうは言っても、可能性だけでも十分に楽しませてもらえるだろう。

IDCで半導体の研究を行うシェーン・ラウは、「さまざまなパーツで自作PCをつくったことがあります。いつも最高のプロセッサーやGPUを探し求めていますが、32コアのプロセッサーというアイデアは本当にクールですね」と語る。ただ、自分はすごいと思っているが、実際に最新チップを搭載した製品のパフォーマンスを確認したわけではないので、本当にそこまですごいのかは不明だ、とラウは釘を刺す。

それでも進歩があったことに変わりはない。そしてその少し先には、さらに新しい変化が待ち構えているのだ。

インテルによる驚きの省エネ技術

今年のCOMPUTEXで最もインパクトがあったのは、究極的にはインテルの発表だろう。「Core i7-8086K」は、初代IBMパソコンなど多くのモデルに採用された伝説の「Intel 8086」の発売40周年を記念する限定版という、ちょっと変わったチップだ。

インテルは同時に、年内に投入を予定する28コアのデスクトップ向けモデルのデモで攻めの姿勢を見せることも忘れなかった。さらに、液晶パネルの消費電力をこれまでの半分以下に抑え、バッテリー寿命を劇的に伸ばす「Intel Low Power Display Technology」もお披露目されている。

IT関連の市場調査を手がける451 Researchのエリック・ハンセルマンは、「デヴァイスで消費電力が最も大きい液晶パネルを対象にした技術です。今後しばらくは、業界にかなりの影響を及ぼすと見ています」と説明する。

インテルの省エネ技術は、見本市における典型的な“人寄せ”のようにも見える。シャープとフォックスコン(鴻海精密工業)傘下の液晶メーカーInnolux(群創光電)がつくった試作品の液晶パネルの最低消費電力は1ワットで、インテルはバッテリー寿命を最大で8時間伸ばせると豪語した。

しかし、それ以上の詳細は現時点では不明だ。インテルの広報担当者も、「量産モデルではなく試作品に近い」と話している。ただ、PCのディスプレイが電力を大量消費することは事実で、これを何とかしようとしているメーカーが存在するというだけで賞賛すべきではないだろうか。

なお、この手のものが好きな人のためにもうひとつだけ書いておこう。インテルは「Tiger Rapids」というクラムシェル型(実物は手帳のような形をしている)でデュアルディスプレイのノートPCも公表した。過去5年ほどの間に、たくさんのメーカーがこういった変わり種のデヴァイスに挑戦して見事にコケているので詳細は省くが、幸運を祈っておこう。

「7nm」という本命技術

本筋に戻ろう。今年の本命は間違いなく、AMDによる7nmプロセスのGPUだ。「RX Vega」シリーズの次世代チップで、回路線幅をGPUでは初めて7nmとした。

大幅な省エネ化と高速化が見込まれており、人工知能(AI)分野や機械学習などに利用される見通しである。ただ、COMPUTEXで展示されていたほかの製品とは違って、消費者向けに量産されるのはまだ先になる。

つまり、すぐわかるような派手な効果はない。451 Researchのハンセルマンは「12nmから7nmへの飛躍は大きな意味をもちます」と説明する。「7nmにすることで電力消費を大幅に抑えることができるからです。可能性を秘めた大きなステップです」

これを成し遂げたのがAMDであることも重要だ。AMDは一時期はインテルと2強時代を築いたが、パフォーマンス向上に向けた開発競争で後れをとり、業績が低迷していた。

しかしここに来て、復活の兆しが見られる。IDCのラウは「パフォーマンス競争が再び勢いを増しつつあります。より高速なチップが低価格で量産されるようになっており、PC業界にとってはよい兆候だと思います」と話す。

充電なしで24時間ネットに繋がったまま使えるPCだの、髪の毛より細い回路線幅のチップだのが、近いうちに市場に出回るのだ。次世代のPCがどのようなものなのか、またここで紹介した技術や製品がどうやって組み込まれていくかは、まだわからない。しかし少なくとも、目の前にあるPCは可能性に満ちている。


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TEXT BY BRIAN BARRETT

EDITED BY CHIHIRO OKA