転職で賃金が上がる人の割合が、若手人材を中心に増えている。

厚生労働省の調査では1998年以降、転職で賃金が下がる人の割合が上がる人を上回る傾向が続くなど、日本では「転職で賃金が増えない」とされてきたが、市場は変化しつつある。リクルートキャリアによると、同社の転職支援サービスを使った転職者の分析で、転職前から賃金が1割以上増加した人の割合は、2017年10-12月期では前年同期比2.7ポイント上昇の30.4%と、調査公表以来、過去最高を更新した。

背景にあるのは、IT人材を筆頭にした人手不足。リクルートキャリアの転職サービスが、主に対象としている20〜30代では「あらゆる職種で需給が逼迫(ひっぱく)している状況」といい、転職者有利の売り手市場が続いている。

転職求人倍率も過去最高に

リクルートキャリアによると、同社のサービス「リクルートエージェント」を利用した約4万人について分析したところ、転職により賃金が明確に増加した人の割合は、今回調査の2017年10-12月期では、初めて3割を突破した。

職種別ではIT系エンジニアで前年同期比4.3ポイント上昇の31.2%、機械・電気・化学エンジニアで同2.6ポイント増の26.6%、営業職で同0.9ポイント増の29.5%の人が、賃金が明確に増加した。

女性の多い事務系専門職でも、前年同期比5.2ポイント増の28.9%で、転職後に賃金がアップしている。

分析を担当した、リクルートキャリア経営統括室の高田悠矢さんは、背景として「全体的に人手不足によって、需給が逼迫している」と指摘する。

厚生労働省によると2017年11月の有効求人倍率は1.56倍で43年10カ月ぶりの高水準。リクルートキャリアの調べでも、登録者に対し何件の求人数があるかを示す「転職求人倍率」は、前年同月比0.05ポイント上昇の1.92倍で、2008年10月以来、過去最高だ。

転職前と比べて賃金が増加した人の割合は、2013年度以降はリーマンショック前の水準を大きく超えて推移してきたが「ここにきてもう一段、水準を上げた格好」(高田さん)という。

を
「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者の割合」の年度推移
リクルートキャリア作成

ITエンジニアと事務系専門職で伸び率大

とりわけ注目するのが、職種ごとの理由だ。

「前年同期比で上昇率の高いITエンジニアは、リーマンショック後の回復局面ではIT業界への転職が多かったのが、2013年ぐらいからはIT業界に加えてメーカーやコンサルティング業界からも引き合いが強くなっている。新たにIT人材を求めるようになった業界の中には、給与水準が比較的高い企業もあり、転職後の賃金上昇につながっている」という。

同様に前年同期比で伸び率の大きかったのが、人事、経理・財務、総務・広報などの事務系専門職だ。ここについては「男女共に転職後の賃金は伸びているが、女性の賃金の上昇幅がより大きく、しかも女性の割合が増えたことが影響している」(高田さん)。

低成長下の日本では、転職により賃金が増えない傾向があった。リクルートワークス研究所の調査でも、国際的にみて日本は転職で賃金が「変わらない」、または「減少した」人の割合が高いのが特徴だ。

しかし、高田さんはここにきて「転職で賃金アップの傾向は今後も続くのではないか」とみる。その理由として「背景となっている現状の人手不足は、景気循環、人口動態、産業構造の変化(デジタル化によるIT人材の逼迫)という軸がある。たとえ景気が悪くなったとしても、社会構造として、とくにIT人材へのニーズは続くだろう」とみるからだ。

ミレニアル世代は転職有利

分析対象となったリクルートキャリアのサービスは20〜30代の比較的ハイキャリア層をメーンターゲットにしているが、転職に伴う賃金の変化の実態は、年代別に見ると様相が異なるのも事実だ。

厚労省の雇用動向調査(2017年上半期)によると、前職の賃金に比べ、転職後の賃金が「増加」した人の割合は、全体で見ればここでも「増加」が「減少」を1ポイント上回っている。しかし、年代別では44歳以下では全ての年齢で「増加」が「減少」を上回る一方、45歳以上になるといずれも「減少」が上回る。

転職後の賃金アップの傾向は、若手に顕著という年齢格差があるのは否めないようだ。

BUSINESS INSIDER JAPANより転載(2018.01.29公開記事)