敏腕クリエイターやビジネスパーソンに学ぶ仕事術「HOW I WORK」シリーズ。今回は多くの自営業者やフリーランサーにインボイシングサービスを提供しているFreshBooksの共同設立者兼CEOのマイク・マックダーメントさんの仕事術です。

インボイシングサービスを提供するFreshBooksは、フリーランサーと起業家には極めて重要なソフトウエアの1つです。ライフハッカーでも、2009年から2018年までに何度か推奨してきましたが、複数のクライアントに間違いなく請求書を送るのにベストな方法の1つです。2年前に同社が展開した全く新しいバージョンはBill Springという名前で秘密裏に開発されたものです。FreshBooksの共同設立者兼CEOのマイク・マックダーメント(Mike McDerment)さんに、自社の最強の競合相手となる会社を立ち上げることになった裏話を聞いてみました。

居住地:カナダのトロント

現在の職業:FreshBooksの共同設立者兼CEO

仕事の仕方を一言で言うと:現場で一緒になって

現在の携帯端末:iPhone X

現在のPC:MacBook Pro

── まず、略歴と現在の仕事に至るまでの経緯を教えていただけますか?

私は4人兄弟の末っ子としてトロントで育ちました。母は看護師で、ストレスに苦しむ子どもたちのために国内初のプログラムを開発しました。当初、それはある教育委員会の小さなプログラムとしてスタートしたのですが、その後、北米全土に広がり、今でも盛んに使われています。私の起業家気質は母から受け継いだものだと思います。

私は大学では商業を勉強しましたが、卒業しても毎朝スーツとネクタイを身に着けて高層ビルに通う自分の姿は想像できませんでした。自分に起業家の才能が備わっているかはまだはっきりわかりませんでしたが、問題を解決したり誰かのために何かを作ることが楽しめる人間だという自覚はありました。そこで、自分でマーケティングとデザインに携わる代理店を立ち上げ、2、3年後には社員4人でクライアントの仕事を請け負っていました。

クライアントへの請求書に関しては、当時はマイクロソフトのワードとエクセルを使っていました。会計ソフトウエアが必要以上に複雑だったからです。ある日、私はちょっと慌てていて、誤って重要なクライアントへの請求書に別のものを上書きでセーブしてしまい、「もう限界だ」と感じました。もっと良い方法があることはわかっていたので、それから2週間かけて、現在のFreshBooksの元になるものをコーディングしました。

FreshBooksを軌道に載せるまでの最初の2、3年は大変でした。共同設立者のジョーとレビと私は私の実家の地下室を執務室にしてそこで3年半過ごしました。最初の2年間は、月に10ドル払ってくれるクライアントが数えるほどしかいませんでした。何度か廃業しようかと思いましたが、今となってはそうしなくて良かったと思います。新しいアイデアが形になって動きだすまでには時間がかかるものですが、起業家は必ずしも忍耐強い人ばかりではありません。でも、FreshBooksは形になって動き出し、10年後には160か国で1千万人以上に利用されています。

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Image: Lifehacker US

──最近の1日の流れを教えてください

1日として同じ日はありません。その日私がいると一番得るものがあるチームと一緒に過ごすことにしています。決裁のサポートや短期的プランニングが必要なリーダーたちと1対1のセッションを次から次へとするときもあれば、腕まくりしてチームと一緒に溝に入り、岩を動かして、仕事を片づけることもあります。

──最近FreshBooksのソフトウエアが大幅に改定されたようですが、そのプロセスについて教えてください

最初のFreshBooksのプラットフォームは地下室で、プロダクション・Web・アプリケーションを作った経験は皆無の3人が一緒にゼロから立ち上げたものです。ビジネスが成長するにつれて、私たちは経験のあるエンジニアをゆっくりと参入させていきましたが、そのころまでにはダメージが出ていて、いわゆる「スパゲッティ・コード」と呼ばれる膨大なラインが絡み合った状態で立ち往生するようになっていました。これが、FreshBooksのソフトウエアを再構築した主な理由です。

あと、「スパゲッティ・コード」よりはるかに大きな理由もありました。10年以上前に我が社がスタートしてから、世の中は変化しましたし、私たちはプロダクトの構築や自営業者向けサービスについて多くを学びました。

自営業者とそのチームの数は膨大で、労働力として拡大し続けています。アメリカだけでも5300万人以上存在しており、このまま行くと2020年には7000万人になる見込みです。これはFortune 500の2倍の規模です。でも、世の中はまだそれに応じた形にはなっていません。シンプルであるべきことがあまりにも複雑になっています。FreshBooksが、世の中の変化に後れを取らず、5年後にそうした自営業者の皆さんにサービスを提供していくためには、今行動を起こすべきだと思いました。

そこで、私たちは、FreshBooksをどのように作り直すか考える小さなチームを作り、実際のユーザーからスピーディにフィードバックをもらうサイクルに特化した無駄のないデザインのプロセスを追求してもらいました。逆に美しくてワクワクするようなプロセスにすると、とても怖いところもあるのです。そして、できあがったのが、新しいプラットフォームです。10年以上にわたり世界中で何百万人ものユーザーが使ってきた古いプロダクトの代わりになるものでした。

チームには不確定なことも眠れぬ夜もたくさんありました。新しいプラットフォームは失敗に終わるんじゃないか。バグが発生して顧客の信頼と幸福を損なうのではないか。会社の期待に沿えないのではないか。そんな不安が次から次へとわいてきます。この業界にはプラットフォームを作り直そうとして失敗した会社がたくさんあります。私たちは、その二の舞になりたくはありませんでしたが、新しいプラットフォームを作ることでFreshBooksが将来競争力のある有利な立場に立つことを望みました。

私たちの頭に浮かんだのは本物のビジネスハックでした。つまり、市場で新しいプラットフォームをローンチしてパフォーマンスのテストドライブをすることにしたのです。Bill Springというリアルな会社を秘密裏に立ち上げて、FreshBooksと実際に競争させてみることにしました。FreshBooksと関連づけられることがないように、デラウエアに持株会社を立ち上げてBill Springを法人にしました。Bill Springは自社Webサイトもロゴもブランディングも顧客さえもある無料プロダクトでした。我が社のプロダクトチームがFreshBooksのブランドを損なうことなく、本物の顧客とリアルタイムでテストしてみることが目的でした。Bill Springという自由な存在のおかげで、チームは全くしがらみがない状態で新しい特性やデザインを作ってはテストしはじめました。

今までのプロダクトと同じレベルでBill Springが稼働しはじめたとき、顧客にこの新しいプロダクトを開示。おかしなことに、このプロダクトは1年以上前から誰でも使える状態だったのに、既存の顧客は誰も試してみようとしませんでしたね。顧客に新しいプラットフォームに移行してもらう方法を見つけることは信じられないぐらい複雑なプロジェクトで、全社をあげて臨む必要がありました。私たちは、どの顧客もボタンをクリックするだけで新しいプロダクトに移行できること、さらに、一切情報を失うことなく元に戻ることもできること、というとても難しいミッションを打ち出しました。社員全員がこのビジョンの元に集結して、この実現に乗り出したのです。

全般的に見ると、このプラットフォームの再構築とマイグレーションは5年前には計画していなかったことですが、14年間の会社の歴史の中で、最も印象的な功績です。携わった全員のことを心から誇りに思っています。

── 「これがないと生きられない」というアプリ・ソフト・ツールは?

私は毎日コンピューターを使っていますが、思索する必要があるときや文章を読んだりするときは、昔ながらのボールペンとモレスキンのノートを使っています。

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── 仕事場はどんな感じですか?

FreshBooksの本部は8万平方フィート(約2500㎡)のフロア面積で、300人の社員が同じフロアで働いています。私は従来の意味でのオフィスは持っていません。その代わり、1日中場所を移動してさまざまなチームとさまざまな問題を解決しています。誰かと1対1でミーティングする必要があったり、独りで作業をする必要があったりするときは、中央階段とトイレの横にあるガラス張りの会議室を使っています。

そこにいると、私もその部屋の外にいる人たちが見えますし、外にいる人たちからも部屋の中が見えます。CEOは、必要なときすぐにつかまえて話ができることが大切ですから、社内で最も人通りが多い場所にあり、室内が見えるガラス張りの部屋を私は意図的に選んでいます。その部屋を私が使っているとき、誰かがトイレに行ったりコーヒーを取りに行くと、お互いの姿が目に入ることがありますが、私はそれで社員とのつながりを保ち、通りすがりに会話することができています。

── お気に入りの時間節約術やライフハックは何ですか?

誰かに質問されたら、相手は「なぜ」その質問をするのか必ず理解することです。できるかぎり全体的な脈絡を理解するようにすれば、表面的な回答でなく、最善の回答ができます。これを実践している人は多くはありませんが、問題の根本に到達するには効果的な方法です。

── 日常のことで「これは他の人よりうまい」ということは何ですか?

質問することです。私は常に、なぜその人はその決定をしたのか、なぜそういう方法でアプローチすることを選択したのか理解したいと思っています。皮をどんどんはいでいって、もともとどのようなことを想定していたのかをつきとめたいのです。

私には、これまで何人もメンターがいましたが、メンターとしてすばらしいと思ったのは、上手に質問できる人たちです。私は毎日それを手本にして自分のチームのためになるように行動しようとしています。リーダーでいると、怖いと思うことはそれほど多くはありません。ミーティングで質問しないなんて、私には考えられないことです。

──ToDoはどうやってトラッキングしていますか?

いつも携帯している小さなノートがあって、それに何でも書きつけています。

マイクのノート
マイクのノート
Image: Lifehacker US

──どのように充電していますか? 仕事のことを忘れたいときはどうしますか?

休息が必要なときは、外で過ごします。理想は携帯電話やPCの端末が使えないところまでカヌーで長い旅をするか、薪割や草刈りなど手を使う作業をすると気分転換になります。2歳未満の子どもが2人いるので、既にかなりアウトドアで過ごしています。子どもたちには、私のアウトドア好きと冒険好きを受け継いで欲しいと思います。

──仕事の合間に何をするのが好きですか?

ほかの起業家の手助けをすることです。毎週1回夕方、会社の立ち上げプロセスの初期段階にある人のために時間を割いて、活路を見つけてあげています。これは私から社会へのささやかな還元であり、楽しみでもあります。なにしろ私は何かを創造するのが大好きなんです。

──今、何を読んでいますか? おすすめの本はありますか?

Jim Collins氏の古き良き著書『Built to Last: Successful Habits of Visionary Companies』です。この本は、10年以上前に、私が実家の地下室で共同設立者たちと一緒にFreshBooksを立ち上げたときの私の考え方に大きな影響を与えました。長期的に考えて、ビジョンを明確にするよう後押ししてくれたのです。そのビジョンとは、大きくて、奔放で、大胆で、スプレッドシートのレンズを通しては決して見えないことを見るビジョンです。このようなビジョンを持つと、難局も乗り越えていけます。

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Image: Lifehacker US

──今日あなたがされたのと同じ質問をしてみたい相手はいますか?

起業家向けコンフェレンスMastermind TalksとネットワーキングサイトCommunity Madeの設立者であるJayson Gaignardさんです。

──これまでにもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください

『Focus(集中する)は4文字語だ』です。これは私が若いころのメンターからもらったアドバイスで、彼は私の親友の父親でした。人はフォーカス(集中)しないと、物事を実行できません。そして、すべては実行あるのみです。実行しないと、やまほど4文字語(汚い言葉、罵倒)の飛び交う状態に陥ります。ですから、「Focus」は4文字語なのです。

──ほかに何か読者に伝えたいことはありますか?

私はたいていの人が興味を示さないような冒険にそそられます。次に何が起こるかも、今いる場所からどうやって行きたい場所に行くのかも、わからない状況が好きなだけです。言い換えるなら、地図を持たずに冒険に出ることが好きです。先に進みながら次第に物事がわかっていくことが人生の楽しみですし、心を開いていれば、世界が向こうからやってきます。ロードトリップも曲がり角を間違えることも会社の経営も、先の展開がわからないところが大好きです。


Image: Lifehacker US

Source: FreshBooks,

Nick Douglas – Lifehacker US[原文