「気がついたら、好きなものや得意なものを仕事にしていた」という人以外が、副(複)業を始めようと思いたった時にまずぶち当たるのが「自分は何ができるのか?」という壁。

SNSなどオンラインで自由に存在を示したり、いろんなコミュニティにアクセスしたりしやすくなったとはいえ、その中で自分に何ができるかと考える機会はあまりないように思います。

『最近のインスタ』 #とにかくフォロワー増やしたいアカウントあるある

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そんななか、Instagramのイラスト領域で異彩を放つ人がいます。33万人強のフォロワーを誇り、企業からのオファーが後を絶たないというマルチクリエイター・Pantoviscoさんです。会社勤めをしつつ Instagramで日々「作品」を発信し続けている彼に、自分のスキルの活用方法や仕事術などについて伺いました。

会社員クリエイターという働き方

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Image: Ryuichiro Suzuki

話を伺ったのは、現在、池袋パルコで開催中の個展「パントビスコの本当にくだらない個展」会場。実はPantoviscoさんは、仕事のかたわらで続けていたことが会社に認められて本業になったというレアケースです。

Instagramのおかげで仕事の依頼が来るようになって、今は仕事というよりは好きなことをやらしてもらって、結果、お金がついてくるといった感じでしょうか。

個人でやった方が短期的にはお金は入ってくるかもしれない。でも、お金よりもより大きいものを会社やチームで生み出していく、作り上げていくというのが今は楽しくて。

たとえば今回の個展なんて、個人の力では絶対開催できなかったもの。いろんな人の助けがあって実現することも多いので、会社員としてのクリエイターというかたちもありなのかなと思います。

Instagramで支持を得た理由

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Image: Ryuichiro Suzuki

個展の会場の入り口では、すでに等身大でないことが明らかな大きさの「等身大マネキン」(2メートル)が出迎えてくれます。Pantoviscoさんの制作ポリシーは「人を傷つける表現をしないこと」。ご自身がそう言うように、Pantoviscoさんの作品が多くの人にフォローされる理由は「やさしいナンセンス」にあるのではないかと思います。

他人を笑いものにしたり冷笑的になったりはせずに、クスッと笑えるささやかなものを共有できる世界観はInstagramというフォーマットでこそ“映え”るのではないでしょうか。展示会では、そんなPantoviscoさんの世界観がリアルで味わえる仕組みとなっています。たとえば…

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Image: Ryuichiro Suzuki

会場入り口の左右に置かれている謎の三角錐。交通整理のカラーコーンのようにも見えますが、

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よく見ると、“とんでもない数のお客さんを呼び寄せることが出来る”という「ハイパー盛り塩」。制作意図に気がついてにやりとしてしまうようなこれらの作品を、Pantoviscoさんはどのよう作り出しているのでしょうか。

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Image: Ryuichiro Suzuki

まずは、自分を楽しませるというところでしょうか。たとえば、カルボナーラという言葉を聞いて、カルって「軽い」のカルかな、じゃあ「重ボナーラ」もあるんじゃないか、だとか、ちょっと頭に浮かんだ些細なことをあえて形にするんです。

そうすることでほかの人とそのバカバカしさを共有できるから。自分が面白いと思うものをシェアして面白がってもらって、共犯的な感覚を増やしていきたいと思うんです。

カオス絵日記 2018.6.10 「自分へのご褒美」 #カオス絵日記

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Instagram上に公開される作品は、主にどんな人の支持を集めているのでしょうか。アカウントを運用する上での「戦略」を伺いました。

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Image: Ryuichiro Suzuki

データ的な話をするなら、フォロワーは年代的には25~35歳が多くて、約86%が女性となっています。インスタグラムを積極的に使いたい世代、また自分の面白いと思ったものを他人とシェアしたい・人に伝えたいと思う世代だと僕は思っています。

そういう人たちにフィットするのは、やっぱり誰かを攻撃したり、笑いものにしたりするのではなくて、ふっと息抜きになるようなコンテンツ。運が良かったところもあると思っていて、そういった層が、たまたま僕のつくるクリエイティブに合致したというかたちですね。

「シェアしたい」というのは、投稿がシェアラブルという意味ではなく、何かに共感したい/されたいという思いが強い世代なのだと思います。

そういったフォーマット上でわかりやすいバズや炎上ではなく、共感の裾野をじわじわと拡張していくような「戦略」が功を制したとも言えます。ご自身もおだやかな雰囲気で、そのパーソナリティも大いに作品に反映されているように感じます。

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Image: Ryuichiro Suzuki

おっしゃる通りで、僕は単に争いごとが嫌いなんです。活躍の場所を与えてくれたInstagramにも恩を感じているし、「ちょっと一呼吸」みたいに“気軽で楽しくて癒される場所”だと思うので、それを乱したくはないんです。

トゲトゲしく誰かを攻撃したり変わったこといって目立ったり、そういう風には運用していないので、自分も見る人も楽しいのが一番、それだけですね、ポリシーは。

あえて戦略的な部分をあげるとしたら、僕自身のパーソナルな情報はあまり開示しないようにしています。これは単純に、余計な情報がノイズになって作品の純度が下がるような気がしていて。

Pantoviscoさんの仕事術は?

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Image: Ryuichiro Suzuki

会社員としてクリエイティブに専念できる環境とはいえ、数多くの連載を抱え、日々創作活動を続けるPantoviscoさんの1日のタイムスケジュールが気になるところ。

この時間で何をするだとかは決まってないです。連載が10本あるので執筆したりだとか、あとは企業さんと常時10~15件は案件を走らせているので、それのやりとりだったり。

ものづくりと打ち合わせなどの業務の割合は9:1くらいですかね。極力考えたり書いたりという時間に割きたいので、お任せできることはもう人に任せちゃっています。それでもなかなり時間が足りない現状なので、ペースを考えていかなきゃなと思っているところです。

そんなに忙しいと、アウトプットしてばかりでインプットするような時間が取れないのではないでしょうか?

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Image: Ryuichiro Suzuki

今はその時間が取れないのもありますが、アウトプットのためのインプット、というのはほぼないですね。何かをインプットするとどうしてもそれに引っ張られちゃうので、極力摂取しないようにしています。摂取するにしても、違う頭に切り替えなきゃいけないと考えてます。

じゃあどんなものを作品作りに活かしているかというと、たとえば街を歩いていて面白い光景にであったら、それを書いてみるだとか。耳や目に入ってくるものをいかに楽しむかを、リアルタイムで起こっていることからヒントを得て自分なりの発想に展開していくといった感じです。

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Image: Ryuichiro Suzuki

では、忙しい日々を乗り切るために実践している「仕事ハック術」のようなものはありますか?

仕事って休みが大事だと思うんです。でも、たとえば旅行に出かけたりだとかって、忙しいと結構ハードルが高いところでもありますよね。

だから、せめて今ある状況の中で心を満たすものだったり、お金をかけずともリラックスできたり心が落ち着くものが自分にとってはなんだろうということを考えるようにしています。その発想の転換自体が自分にとってはハック術だし、作品にも反映されているのではないかと思います。

仕事の仕方については…、よりおもしろうそうなことをやるってことですかね。おもしろくないのにやってみても中途半端なことしかできないので。

仕事に欠かせないアイテムといえば

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Image: Ryuichiro Suzuki

会場には、Pantoviscoさんが机に向かって執筆している様子を映し出したプロジェクションマッピングも。Instagramで毎日公開される絵日記の原本も展示されています。作品を作るのにどのようなツールを使っているのでしょうか?

基本的に手書きなので、ぺんてるの筆ペンだとか。

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Image: Ryuichiro Suzuki

あとは、Instagramの表示に合わせて正方形に近い型のスケッチブック。

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Image: Ryuichiro Suzuki

そして、「カオス絵日記」をつけるためのジャポニカ学習帳ですね。基本的には紙とペンで書いています。原画なので、Instagram上に作品が残っているとはいえこれがなくなったら取られたら二度と再現できない(笑)。

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Image: Ryuichiro Suzuki

独自の「仕事哲学」で日々創作を行っているPantoviscoさん。最後に、副(複)業や何か新しいことを始めたいと思っている読者に向けてメッセージをいただきました。

自分の好きなことがあったり、何かをしたいと思ったら、知識や経験を積んでからと待つ前に、とりあえず片足つっこんじゃえと思いますね。準備している間に熱が冷めるくらいなら、その世界に入って怒られたりなんなりすればいい。

パントビスコの本当にくだらない個展

会場:パルコミュージアム (池袋パルコ・本館7F )

期間:~2018/06/24 (日)  10:00~21:00 ※ 最終日は18:00閉場 ※ 入場は閉場の30分前まで

入場料:一般500円・学生400円・小学生以下無料

Image: 鈴木竜一朗

Source: Pantovisco, パントビスコの本当にくだらない個展