かつての新卒から定年まで1つの会社に勤めるのが当たり前という考えは、もはや過去の話。パラレルキャリア、副業など、今の時代は働き方も多様化しています。その時代の流れにともない、増えてきているのがスキルシェアサービス。新しいキャリアを築く選択肢のひとつとしても注目されています。

スキルシェアサービスの中でも先駆者的な存在として2012年7月に始まったのがストリートアカデミー。現サービス名『ストアカ』を通して、自分の希望する仕事や生き方を手に入れた人も出てきています。今回はその1人である、プレゼンのデザインからやり方までを教えるプレゼンテーション・プロデューサー」、高橋 惠一郎さんにインタビューを行いました(※高橋の「高」は、「はしごだか」です)。

プレゼンのプロデュースを仕事にしようと思った理由

20180614_stoaka_presen
Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

ーーこれまでの経歴を振り返り、「プレゼン」のHow toがビジネスになると思ったきっかけとは?

新卒のときに日立製作所に入社して4年半勤めましたが、プレゼンに興味があったので関連する本はたくさん読んでいました。そのときはインプットばかりでアウトプットする機会はなかったのですが、ソニー生命に転職し、営業企画の業務についたことで、営業の売り上げがどうすれば伸びるかというプレゼンを社内で頻繁に行うようになりました。

あるとき、プレゼンが大成功して周りからも感謝をされ、楽しい!と感じたんです。もともと自分は「コミュ障」だと思っていたので、余計に嬉しかったです。日本人はあまりプレゼンが上手くないと言われているので、これはビジネスになるのではないかと思いました。10年前、28歳のときですね。それからどんどん上達し、「プレゼンが上手い人」と言われるようになりました。

ーープレゼンをプロデュースするという仕事にどうシフトしたのでしょうか。

シリコンバレーに デュアルテ・デザインというデザイン会社があります。FacebookやGoogleなど、そうそうたる企業のプレゼンのデザインを行っている会社です。決算発表や会社説明会などでのプレゼンは多くの人の目にふれるので、大手であるほどブランドに関わる重要なものなんです。カッコイイ仕事だな!と思いました。

また、デュアルテ・デザインは、そんなto Bの事業だけでなく、プレゼンのデザインを教えるto C向けの教育事業を行っています。こんな会社で働いてみたい!と思ったのですが、英語が苦手だったので、日本で同じようなことをしている会社を探したところ、出会ったのが株式会社アドバーです。しかし、教育事業は行っていなかったため、デザイン事業だけでなく教育事業をやりたいと代表にかけあったところ、一緒にやりましょうとおっしゃっていただけて、入社することになりました。

ーー人に教えることをふまえて、努力したことはありますか。

実は企画営業のときに「プレゼンが上手い」と言われても理由がわからなかったので、自分を客観視することにしました。「人に伝えることができて一人前」と言うとおり、どうすればいいのか聞かれたら、説明できるようにしています。また、周りから上手いと言われても具体的なフィードバックは返ってこないので、何が上手いのかを考えるようにしています。効果的だったのは、自分がプレゼンをしている動画をとって改善すべき部分を見つけ、ブラッシュアップしていったこと。理由なく鼻を触るなど、自分で気づいていない癖もありましたから。

『ストアカ』が独立の道をつくった

93ef54e6-984f-4b1e-98aa-1d7516900c22
Image: ストリートアカデミー

ーーストアカとの出会いはどのようなものだったのですか。

アドバーの教育事業を本業として、ビジネスパーソンを対象にプレゼンを教えていましたが、プライベートでも皆が気軽にプレゼンできる場があったらいいなと思い、今も運営している「ザ・プレゼン道場」の元となる講座を立ち上げたんです。でも、ぜんぜん集客ができず、偶然知ったストアカを利用してみました。すると1人でしたが来てくれた方がいて、「これはいけるかも」とストアカに集中して集客をすることにしたら、次々と人が集まるようになったんです。

そこで、アドバーの方の集客もストアカを使った方がいいのではということになりました。法人が、ビジネスをストアカを通して行う形ですね。ストアカは個人だけでなく団体での登録も可能なんですよ。平日はアドバーで会社員として「デザイン講座」で教え、休日など空き時間は自分の趣味として「ザ・プレゼン道場」で教えるという生活となり、どちらも集客部分はストアカが行う形になりました。ただ、それぞれ会社とストアカ、私個人とストアカ、という契約になりますので、平日の利益は会社に、空き時間の利益は私自身に入るという形ですね。

その後、独立できるくらいの収入を見込めたのと、もっと自由にやってみたいという気持ちが強くなったので、今はアドバーの社員ではなく、パートナーとしての関係になっています。

ーー独立を決める指標になった収入はいくらなのでしょう。

月に20万円稼げるかを指標にしました。最低限食べていける金額という考え方です。おかげさまで現在は、その指標の数倍の収入を得られるようになりました。

ーー現在の「プレゼン・プロデューサー」になるまで、予想通りだったことと、予想外だったことは何ですか。

プレゼンのスキルを身に着けたいという需要があるのは予想通りでした。でも、ストアカの利用は趣味の「ザ・プレゼン道場」の集客がうまくいけば、というくらいだったので、独立して「人気先生」と呼ばれるまでになるとは思っていませんでした。

ストアカを通しての集客は、レビューなどの口コミの効果が大きかったと感じています。それに、評価がよければストアカに企業からオファーがあれば推薦してもらえたり、法人のオフィスに派遣されたりといったチャンスもいただけますしね。

プレゼンテーション・プロデューサーの仕事のスタイル

20180614_stoaka_presen3
Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

ーー人に教えるために労力をかけていることや、工夫していることは何ですか。

コンテンツ作りが一番大変です。頭の中に教えたいことがあっても明文化するのが難しいからです。どうしても人は伝えたい情報がたくさんあると羅列しがちなんですが、それだと聞いた人は理解できません。いかにストーリーをつけるかがポイントで、コンテンツ作りでは常に意識しています。これはプレゼンの作り方にも言えることですし、人と話すときにも共通して言えることではありますよね。

ーー日々のスケジュールや時間管理について教えてください。

今は5~6個の講座を行っていますが、水曜日の夜と土曜日は「ストアカで教える日」と決めています。水曜日は定時退社デーとしている企業が多いからです。ほかの時間は打ち合わせや企業研修、また新たなコンテンツの開発に使っています。プレゼン作りやコンテンツ開発は発想力が重要なので、あまりスケジュールを固定化してしまうと良い案が出てきません。忙しい日が続いたら、まる1日休む日もあるみたいに、いい意味で適当にやっています。

新たな取り組みと今後やりたいこと

ーー新たに取り組んでいることについて教えてください。

ストアカでの講座のほかに、年間のミッションとして企業や大学のプレゼンをプロデュースしています。大学のプロデュースは、私の講座をその学校の入試広報部の方が受講してくださり、良いと思っていただいたことがきっかけです。学業を学べるだけでなく、社会で通用するプレゼン力を習得できるということを大学の新たなブランドにするために、専門家を探していたそうです。これは「監修者」という切り口で仕事が発展したという形ですね。

ーー今後挑戦したいことは何ですか。

今年中に書籍の出版をしたいと考えています。また、私自身、教えるという仕事は好きなのですが、自分だけで仕事をしているとリスクが大きいので、組織化できないかと考えています。自分だけが「商品」だと、健康を損ねたら終わりですから。ですので、パートナーを作ったり、マネジメントをしたりできればと考えています。たとえば、新たにプロ講師を育成する講座を企画・開催して、受講者の中で特に優秀な方にパートナーになってもらう、なんていうのも良いかもしれませんね。

キャリアチェンジを考えている人へ

20180614_stoaka_presen2
Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

ーー「ストアカ」などスキルシェアサービスにどう思っていますか。

ほとんどリスクなく新しいことに挑戦できて、個人の強みを活かせる良い時代になったと思います。こういうものがなければ、今も会社員をやっていたはずですから。現在の働き方は自分の好きなことでお金が稼げるのもメリットですが、年間何百人もの人との出会いがあって、仕事も友人関係も広がったことも大きな価値です。考え方や人生のメンター的な人に出会えて、自分が次は何をやろうかという刺激につながっています。

ーー一歩を踏み出すために、何が一番大事なのでしょう。

良くない評価をもらったら、落ち込むのではなくて「じゃあ、どうしたら満足してもらえるのか」トライ&エラーを楽しめる人かどうかではないでしょうか。私は毎回レッスンの後にアンケートをとるのですが、皆さんのレビューがすごく楽しみなんです。駄目だと言われたとしても、次はどうしたらいいか考えるプロセスが楽しいです。

ーー最後に、キャリアについて迷っている人に一言お願いします。

私の座右の銘は「やって後悔しましょう」です。やらないで後悔する生き方はしたくありません。でも実際のところ、やらないで後悔することはあるけど、やって後悔することってないですよ。実は、10年以上前に読んだ、心理学者の伊東明先生の『「できない」が「やってみよう!」に変わる心理法則』という本に影響を受けまして。伊東先生はNTTを退職して心理学の世界へ行くという、大きくキャリアチェンジして成功した方です。自分もできるのではという励みになりました。多くの方が「やらないだけ」で、やっていないのにできないと思いこんでいるのではないでしょうか。


「プレゼンの先生」らしく、わかりやすく流暢に語る高橋さんですが、実は学生時代にコンビニのアルバイトの面接で落ちるくらい話すのが下手だったのだそう。「プレゼンが下手だと思っている人は、成功した経験がないから。だから自分が教えた人には、それを経験して欲しい」ともおっしゃっていました。下手だからと逃げずに挑戦し続けたことが成功経験につながり、プレゼンが仕事になった高橋さんを見て、いつかやろうと思っていたことや新しいことに挑戦してみたくなりました。


Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

Image: ストリートアカデミー

Source: ストアカ, Amazon

Reference: デュアルテ・デザイン, 株式会社アドバー, ザ・プレゼン道場