Hagexに聞けなかった正義

Hagex-day.info

『ブログを書くなんて、不幸な人がすること』『多くの人に見られるようになると、面倒なことも増える』『それでも書きたいんだったら、書き続けること』。そんな象徴的な言葉を思い出す。

福岡市中心部のスタートアップ施設内で、殺人事件が起きた。被害者は、ブログ「Hagex-day.info」の主催者Hagex氏。私は、事件が起きる30分ほど前まで、彼が主催するイベントに出席していた。今も信じられないのだが、自分が感じたことを、このエントリーとして刻みつけておく。それ以上の意味はない。

事件の舞台となったのは、元の大名小学校だった敷地と建物を活用した、「Fukuoka Growth Next」というインキュベーション施設。福岡市が創業特区になっていることもあり、スタートアップ企業が入居し、イベントなども開催されている。Hagex氏のように、著名な人たちが東京から来ることも多い。私も、彼のイベントを楽しみに参加した。今となっては、彼が付けたイベントタイトルや、彼が語った言葉があまりにも象徴的だ。

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Hagex氏に会うのは初めてだったが、ブログ「Hagex-day.info」はずっと読者だった。雑多なネットの話題、時に熱量高めのネタを追いかけ、ギリギリのセンスでおちょくって、しかし事実はしっかり追いかけて、感情を切り分ける。彼が書く刺激的なスタンスとユニークな視点は真似できないが、自分にはどこか合う部分もあるらしく、ずっと興味を持っていた。

この日のセミナーの参加者は、ほぼ満席の約30人。冒頭では、「写真やリアルタイムツイートNG」、「オフレコはオフレコで」といった、お約束の注意説明があった最後に、『今日、皆さんに紹介することは、悪いことではなく正義のために使ってください』というひと言があった。『正義だなんて、らしくないことをいうものだな』と、どことなく違和感を感じた。

考え方・書き方のポイント、ネタ集めと記事化するフレームワーク、影響力が出て来た時のネガティブリアクションへの反応など、『なるほど、Hagexの中の人はこんな人なんだ』と思いながら、話し手が望むリアクションに応えつつ、話を聞いていた。
私が2列目中央という都合のいい場所に座っていたこともあって、実は、セミナー中Hagex氏とは何度も目が合った。これは別に勘違いでも何でもなく、私自身、話し手としてするアクションだ。頷くなり微笑むなりきちんと反応してくれて、合わせやすい参加者が一人でもいれば、そこをホームポジションに使うことはごく自然な行為だ。

目が合っていたHagex氏に、最後に聞いてみたかったのに、タイミングを逸して聞けなかったことがあった。それは、『Hagexさんにとっての「正義」って、何ですか?』ということ。冒頭に聞いた「正義」に、ずっとひっかかりを覚えていた。正義には、別の正義が立ちはだかるものだ。時に、自分と敵対する人や組織と対峙するのに、時間や金、神経を使い、本名や顔出しで闘わなければならなくなる。その時はもう、ネットウォッチャーとしての傍観者ではなく、自身が当事者にならざるを得ないのだ。

言葉を交わすタイミングを伺いたいと思いつつ残って、いつもなら同じ1Fの端にあるAwabarにでもふらりと寄って帰るところだが、W杯日本-セネガル戦もあることで、会場を後にした。しばらく歩いて、Twitterのタイムラインをチェックすると、市内中心部に緊急車両が集まって、規制線が張られているらしい。まさか、つい今まで自分がいた場所で事件が起き、話を聞いていた人が被害者だとは思いもしなかった。
家に帰り着いて、都市の繁華街で起きた凶悪な事件の余波を、私は、なすすべ無くただ眺めていた。センセーショナルなネタを使ったPV稼ぎの、くだらないまとめページが乱造されていく様子が目に入った。人の死に際してなお罵詈雑言が書かれる、はてな匿名ダイアリーに目を伏せた。新聞社がいい加減なヘッドラインにするのを、スルーした。頼みもしない、Swarmチェックインのツイートへのアクセスが爆発的に増えていった。

犯人は昨夜の内に自首したと聞く。ブログ絡みの怨恨なのかは分からないが、事件の背景はこれから明らかになるのだろう。

でも、Hagexさん、別にこんな形で本名や素顔を知りたいなんていってませんよ。アンケートには『また参加したい』に○をして、LINE@のスタンプカードだって登録しましたよ。自分自身がニュースネタになって、折角のPVをばらまくなんて、クロージングにしてはあんまりな展開じゃないですか。
犯人にとっての正義とぶつかった、あなたにとっての正義とは、一体、何だったんですか? 『問い続ける』という、とてつもなく大きな課題を受け取ってしまった。もうすぐ、月曜日の夜が明ける。